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第三章

友との再会

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「あの、少し話してもいい?」

「私に何か用?」

 特に警戒しているわけではないが、不思議そうな顔をしている。
 ほとんど話したことがないので、急に質問したことで驚かせてしまったのだろう。

「魔法使いのリゼットって知ってる?」

「とても有名な人よ。魔法使いで知らない人はいない」

 ミレーナの答えに揺らぎはなく、本当のことを言っているのだと思った。
 スキル表示にあった「大魔法使い」は誇張ではないようだ。
 古城にあった鏡の状況を考えると昔の人のようだが、実際はどうなんだろう。

「有名なんだ。年齢は何歳ぐらい?」

「聞いたことないわ。実際に会ったという人を知らない。存命だとしても高齢のはず」

 リゼットもそうだったが、ミレーナも淡々とした口調で話している。
 魔法使いはみんなこうなのか……さすがにそんなわけはないよな。
 現時点で比較対象が二人しかいないことを思い出した。
 
「カイトも食べるっすか?」

 ルチアが皿を持った状態で声をかけてきた。
 何気ない気遣いだが、仲間の一員と思ってくれているようでうれしい。

「うん、俺もお願い」

「了解っす」

 ルチアは元気に言うと盛りつけを始めた。
 一見すると脳筋系のような印象を受けるが、給仕姿が似合っている。
 そんなことを思いつつ、ミレーナと向き直って話を続ける。

「ここまで聞いた感じだと、リゼットに会うのは難しいってことだね」

「……会ってみたいの?」

「いや、すごい人なら興味があるなって」

 ミレーナは魔法使いでもない俺がリゼットに関心があることに疑問を抱いているようだ。
 この話題を深堀りしてしまうと、魔眼のことにも近づいてしまう。

「私も会ってみたい。けれど、情報が少ないから難しい」

「そうだよね。昔の人なら尚更」

 ミレーナが疑いを強めることがなく、ホッと胸をなで下ろした。
 話に区切りがついたところで、ルチアに食事の用意ができたと呼ばれた。
 会話に注意が向いて気づかなかったが、いい匂いが漂ってくる。

「教えてくれて、ありがとう」 

「リゼットについて何か分かったら教える」

 俺はミレーナの近くを離れて、食事が置かれた席に移動した。
 テーブルの上にはスープ皿が置かれており、中には煮こみ料理が入っている。

「今日はホロホロ鳥のトマト煮っす」

「へえ、美味しそう。いただきます」

 スプーンを手に取り、湯気の浮かぶ汁と具を口に運ぶ。
 しっかりと味つけされていて、見回りで疲れた身体が喜ぶような味わいだった。

 食事を終えてから、改めて内川と話しておこうと思った。
 リゼットに魔王の力を封印してもらったことだけは隠しておくつもりでいる。

「お前がサリオンと行動を共にする間、僕はルチアと一緒だった」

「それは知ってる」

「訓練には心の底から嫌気がさしたが、二人で街を巡回した時に情報が集められたのはよかった」

 ルチアとミレーナは席を外しており、部屋には二人だけの状況である。
 内密な話をしても誰かに聞かれる心配はない。

「俺はサリオンについていくのに必死で、そこまで役に立つ情報はないかな」

「そうか。最初に話しておきたいのは、少なくとも王国内には鑑定スキルが使える者はいないってことだ。僕らの能力が看破されることはない」

 重要な内容だけに内川は誇らしげな様子だった。
 控えめな彼にしては珍しいことだ。  

「それはいい情報だね。あまり目立ってもいけないし」

「もう一つ重要な情報がある」

「えっ、他にもあるの?」

「ウィニーが旅団として活動している理由が謎めいているから、可能な範囲で調べてみた」

 内川はのどを潤すようにティーカップに口をつけた。

「詳しいことはまだ分からないが、ウィニーとエリーはどこかの国から流れてきたことは間違いない。僕らのように非力な者を受け入れる一方で、ルチア、サリオン、ミレーナは明らかに実力者だ。目的があって戦力を集めている気がする」

「すごい、そこまで考えたんだ。俺はウィニーを気のいい人物としか思わなかったよ」

「悪人ではないはずだが、彼の目的が分かるまでは注意した方がいいかもしれない」

「分かった。様子を見るよ」

 現時点ではウィニーに不審な点は見当たらない。
 ギルドで声をかけてきたのも、登録できそうにないのを見計らっただけのはずだ。
 ただ、内川が言うように何らかの目的はあるような気もしてきた。
 親切にしてくれている彼を疑うのはよくないが、全面的に信じるには日が浅いと思った。



 翌朝、滞在中の宿を出て洋館に向かった。
 冒険者であればギルドに通うのかもしれないが、旅団の一員である自分は洋館が拠点になっている。

 いつもの部屋に行くと、ウィニーとミレーナがいた。
 二人は何か話していたが、こちらの存在に気づいて振り向いた。

「おう、カイト」

「おはよう」

「新しい依頼があってな。ミレーナと行ってくれるか?」

「それはいいけど、ジンタは?」

「今日もルチアと一緒だ。ちなみにサリオンは別の依頼で出払ってる」

 ウィニーに手招きされて、会話の輪に加わる。
 窓際に目をやるとエリーの姿はなく、彼女も不在のようだ。

「今度はどんな依頼? 古城は埃っぽくて大変だったよ」

「ははっ、少しは慣れてきたか。今回はミレーナ一人で十分なんだが、カイトの実力を測る意味もある」

「悪いけど、最初からそこまでの実力はないから――」

 途中まで言いかけたところで、ウィニーがまあ待てと手で制した。
 何か言いたそうなので、彼に会話のバトンを託す。
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