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第三章
古城の見回り
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「まずは外周の見回りをします」
彼は手短に説明して城内への道ではなく、城を囲むような通路の方に歩き出した。
勝手の分からない場所なので、それに続いて足を運ぶ。
忘れ去られたような空間を目の当たりにして、思いがけず疑問が浮かんだ。
「ここには誰も住んでないの?」
「見て分かる通り、劣化が進んでいますから。住もうとするのは野生動物かならず者しかいません」
「そりゃそうか。この感じだと、今の城に移ったのはだいぶ前なのかな」
俺が独り言のように口にすると、サリオンがそれに応じるように話をする。
「ガスパール王国の歴史は詳しくないですが、二つを比べた時に今の城の方が防衛力に優れています。魔王に攻めこまれることを想定したという噂も耳にしますが、誰も魔王を見たことがありません。人族同士の戦いもないわけではないので、先王に先見の明があったと見るべきでしょうか」
うらぶれた城の敷地を歩きながらサリオン――目鼻立ちが整った――の話を聞いていると、ヨーロッパのツアーに行ったような気分になる。
もっとも、地球にエルフは存在しないわけだが。
我ながらしょうもないことを考えているなと思いつつ、遅れないようにサリオンについていく。
それにしても、この場所は放置されてどれぐらい経つのだろう。
まだ中を見ていないので何とも言えないところだが、外観からは老朽化の痕跡を見て取ることができた。
城の外壁にはツタのような植物が生い茂り、こうなっては一体化して剥がすことはできないのではと思うような状態になっている。
普段から人が近づかないようになっているのもよくないことなのだろう。
王都の中心から離れているため、時の流れとともに忘れ去られてしまいそうだ。
二人で外周を回り、一周して城門近くのところに戻ってきた。
途中で名前を知らない動物が歩いていただけで、何者かが侵入している形跡はなかった。
お化け屋敷のようで気が進まないが、この後は城内を見ないといけないのだろう。
「さて、外周は問題ありませんでした。あとは城の中だけです」
サリオンは荷物の中から何かを取り出した。
それは太鼓を叩くバチのような棒状のもので、何に使うのか分からなかった。
「中は暗いところもあるので、これがあると便利です」
「うーんと、これは?」
「説明するより見せた方が早いと思います」
サリオンは城の入り口にある大きな扉を引いて、中へと進んでいった。
とりあえず彼に続いて歩いていく。
「ほらこの通り」
バチみたいな棒は先の方が光っていた。
懐中電灯ほどではないものの、窓から日光が差しこむ城内なら十分な明るさだった。
見ようによってはオタ芸を打つ人が持っているサイリウムのようにも見える。
「へえ、便利だな」
「ミレーナが作った魔道具です。君の分もありますよ」
「うん、ありがとう」
サリオンから受け取り、明るさを確かめる。
青白い蛍光灯を素手で握っているような感覚だ。
発光に伴う熱はなく、むしろ少し冷たく感じた。
素材は陶器とプラスチックを合わせたような硬さだった。
「どんなものか分かったから、見回りの続きをしよう」
「では行きましょうか」
二人で城の入り口辺りから歩き始めた。
見回り自体は定期的に行われているようで、想像していたよりは埃っぽくない。
城の外側は劣化が顕著に見えたが、中はそうでもないように思われた。
「意外と中はきれいだね」
俺は視線を巡らせながら言った。
日本で例えるなら歴史的建造物と呼べる雰囲気で、好奇心がそそられている。
「王家に由縁(ゆかり)のある人が掃除に来てくれているそうです。依頼を受けた者は見回りが依頼内容ですから、掃除は含まれません」
サリオンの説明は分かりやすかった。
掃除はしないことが薄情とは思えない。
依頼としてならともかく、無償でやるには負担が大きすぎる。
「――そうそう、言い忘れていました」
「えっ、何?」
「見た目は大丈夫に見えても経年劣化はひどいので、足元には注意してください。他の人の話では床が抜ける場所があるようです」
「分かった。気をつけるよ」
注意点に耳を傾けつつ、一歩ずつ床を歩く。
今のところ異常はないように見えた。
落とし穴に注意するように足の運びが慎重になっている。
この世界に召喚されなければここへ来ることがなかったと思うと感慨深い気持ちになる。
その一方でとてもじゃないが、一人で来るのは勇気が必要だと思った。
サリオンから聞かされた内容によれば、手配された元冒険者が隠れていたことがあるらしい。
そこかしこに身を隠すのに絶好な物陰があり、奇襲を避けるのは難しそうだった。
いくら魔眼があるといっても、自分から危険に近づくことなどしたくはない。
ふと気づけば、いつの間にかサリオンとの距離が近くなっている。
心細さからそんな距離感になってしまったようだ。
俺の恋愛対象は異性なので、彼に妙な誤解をされては今後に支障が出てしまう。
不自然にならない程度に離れるようにして、最初と同じぐらいの距離感に戻した。
彼は手短に説明して城内への道ではなく、城を囲むような通路の方に歩き出した。
勝手の分からない場所なので、それに続いて足を運ぶ。
忘れ去られたような空間を目の当たりにして、思いがけず疑問が浮かんだ。
「ここには誰も住んでないの?」
「見て分かる通り、劣化が進んでいますから。住もうとするのは野生動物かならず者しかいません」
「そりゃそうか。この感じだと、今の城に移ったのはだいぶ前なのかな」
俺が独り言のように口にすると、サリオンがそれに応じるように話をする。
「ガスパール王国の歴史は詳しくないですが、二つを比べた時に今の城の方が防衛力に優れています。魔王に攻めこまれることを想定したという噂も耳にしますが、誰も魔王を見たことがありません。人族同士の戦いもないわけではないので、先王に先見の明があったと見るべきでしょうか」
うらぶれた城の敷地を歩きながらサリオン――目鼻立ちが整った――の話を聞いていると、ヨーロッパのツアーに行ったような気分になる。
もっとも、地球にエルフは存在しないわけだが。
我ながらしょうもないことを考えているなと思いつつ、遅れないようにサリオンについていく。
それにしても、この場所は放置されてどれぐらい経つのだろう。
まだ中を見ていないので何とも言えないところだが、外観からは老朽化の痕跡を見て取ることができた。
城の外壁にはツタのような植物が生い茂り、こうなっては一体化して剥がすことはできないのではと思うような状態になっている。
普段から人が近づかないようになっているのもよくないことなのだろう。
王都の中心から離れているため、時の流れとともに忘れ去られてしまいそうだ。
二人で外周を回り、一周して城門近くのところに戻ってきた。
途中で名前を知らない動物が歩いていただけで、何者かが侵入している形跡はなかった。
お化け屋敷のようで気が進まないが、この後は城内を見ないといけないのだろう。
「さて、外周は問題ありませんでした。あとは城の中だけです」
サリオンは荷物の中から何かを取り出した。
それは太鼓を叩くバチのような棒状のもので、何に使うのか分からなかった。
「中は暗いところもあるので、これがあると便利です」
「うーんと、これは?」
「説明するより見せた方が早いと思います」
サリオンは城の入り口にある大きな扉を引いて、中へと進んでいった。
とりあえず彼に続いて歩いていく。
「ほらこの通り」
バチみたいな棒は先の方が光っていた。
懐中電灯ほどではないものの、窓から日光が差しこむ城内なら十分な明るさだった。
見ようによってはオタ芸を打つ人が持っているサイリウムのようにも見える。
「へえ、便利だな」
「ミレーナが作った魔道具です。君の分もありますよ」
「うん、ありがとう」
サリオンから受け取り、明るさを確かめる。
青白い蛍光灯を素手で握っているような感覚だ。
発光に伴う熱はなく、むしろ少し冷たく感じた。
素材は陶器とプラスチックを合わせたような硬さだった。
「どんなものか分かったから、見回りの続きをしよう」
「では行きましょうか」
二人で城の入り口辺りから歩き始めた。
見回り自体は定期的に行われているようで、想像していたよりは埃っぽくない。
城の外側は劣化が顕著に見えたが、中はそうでもないように思われた。
「意外と中はきれいだね」
俺は視線を巡らせながら言った。
日本で例えるなら歴史的建造物と呼べる雰囲気で、好奇心がそそられている。
「王家に由縁(ゆかり)のある人が掃除に来てくれているそうです。依頼を受けた者は見回りが依頼内容ですから、掃除は含まれません」
サリオンの説明は分かりやすかった。
掃除はしないことが薄情とは思えない。
依頼としてならともかく、無償でやるには負担が大きすぎる。
「――そうそう、言い忘れていました」
「えっ、何?」
「見た目は大丈夫に見えても経年劣化はひどいので、足元には注意してください。他の人の話では床が抜ける場所があるようです」
「分かった。気をつけるよ」
注意点に耳を傾けつつ、一歩ずつ床を歩く。
今のところ異常はないように見えた。
落とし穴に注意するように足の運びが慎重になっている。
この世界に召喚されなければここへ来ることがなかったと思うと感慨深い気持ちになる。
その一方でとてもじゃないが、一人で来るのは勇気が必要だと思った。
サリオンから聞かされた内容によれば、手配された元冒険者が隠れていたことがあるらしい。
そこかしこに身を隠すのに絶好な物陰があり、奇襲を避けるのは難しそうだった。
いくら魔眼があるといっても、自分から危険に近づくことなどしたくはない。
ふと気づけば、いつの間にかサリオンとの距離が近くなっている。
心細さからそんな距離感になってしまったようだ。
俺の恋愛対象は異性なので、彼に妙な誤解をされては今後に支障が出てしまう。
不自然にならない程度に離れるようにして、最初と同じぐらいの距離感に戻した。
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