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第一章

第一話 虐待令嬢の日常風景

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    誕生日だからって祝いの言葉もなければましてやプレゼントもない……使用人の誰か私を祝ってくれないかなぁ。
    去年の事もあったしあまり期待はしていないが。
    そんな身の丈に合わない願望を抱いていたからか、またもや厄介な人物に遭遇してしまった。

「あらあら!   こんなところにいたのねぇ?」
「……はい」

    少し迷ってから短く答えた。

「え、何?    上司には元気よく、明るく大きな声で返事するって習わなかったの?」

    格好の獲物を見つけたといわんばかりに煽りまくってくるこの人は三年前、家から追放された比較的新人のメイドだ。
    恐らく年齢だけで上司と部下が決まると思っているのだろう。お可哀想に。私この生活八年やってるのに。
    そんなお可哀想なお方は、お義母様の専属メイドで(専属メイドが複数人いるのでほとんどサボっているが)、本当になぜこんな人がウチで働いているのか疑問でしかないのだが、学生時代からの友達だったためここに来たらしい。
    年齢は27、18のとき婚約者が我慢できずに逃げ出したときから婚約まで漕ぎ着けたことはないらしい。
    これで高い爵位、あるいは非常に優れた性格、はたまた領地運営などの才能があれば婚約まで漕ぎ着けることも可能だったかもしれないが、この人ーークズハはそのうちの何も持っていないし、二番目に至っては一度婚約に漕ぎ着けたのであるならば余程のことがない限り婚約破棄などされないだろう。
    あっても十中八九向こうの責任のため、レベルは難しくはあるがどうにかなるレベルだろう。この世界観『婚約破棄はされる方が悪い』っていう考えじゃないし。
   まあ、類は友を呼ぶと言うのだろうか。お義母様と友達な時点である程度は性格が悪いとみていいだろう。

「あっ……ごめんね?    あなたロクに学校も行ってないものね。教養なんて身に付いてるわけなかったわね!    まったくもう、これだから使えないのよアンタは!」

    私、あなたのために余分な仕事やってるせいで復習や予習、読書がおざなりになっているんだけど?
    他の使用人の大半は優しい人で、家庭教師が来る前日とかだったら手伝ってくれたりもするんだけど……さすがに毎日頼むのは気が引けるし、残業しろって言われるのは私だけだし。
    最初の方はまだマシだったけど、それも二週間くらいだったし、私も文句の一つや二つ言いたいところね。

「申し訳ございません、何かご不快な思いをさせてしまったのならお詫び申し上げます」

    とりあえず謝罪をしておけば怒りのベクトルくらいは下がってくれるだろう。
    もちろん本当に悪いと思っているときはこんな事考えないが、みんなもあるわよね?   理不尽に怒られること。私の場合、そういうときは内心小馬鹿にしながら謝罪するの。
     そんな事を思いながら、ニコニコともはや胡散臭いともとれる笑みを浮かべながら形ばかりの謝罪をしたのだがーー。

「え?   謝罪する時は土下座でしょ?」

    さすが。思いもよらぬところから難癖付けてきやがる。一回自分が受けてみてはいかがだろうか。パワハラというやつを。
    ……いや、これはパワハラなんてチャチな言葉で収められないわ。犯罪ね。

「申し訳ございませんでした」

    言われるがまま土下座を遂行させる。ここで不要な怒りを買っても仕方がない。耐えるんだ。

「やればできるじゃない。もっと教育してあげるわ」

    メイド長が教育係になったのに見放されたあなたが私の教育ですって?   笑わせないで頂けませんでしょうか。
    ……ああ、この人の『教育』の定義と私の『教育』と定義は違うんだ。びっくりするほど真逆だものね。

「さ、とりあえず水浴びなさい」

    この人の『教育』はーー『イジメ犯罪』だ。
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