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婚約破棄令嬢は元婚約者に縋る

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「ねえ、どうして私に意地悪するの!?」

 私は碧い双眸から涙をぼろぼろと流し婚約者――先ほど婚約破棄を宣言されたから元婚約者と言うべきか。

「ッ! ったくうるせえんだよ、さっさと一昨日きやがれ」
「待って! ねえ、待って!」

 私は婚約破棄されたものの末路を知っている。
 男尊女卑の傾向が強いこの国では『婚約破棄される→女の方が悪い』となるのだ。
 例え、男の浮気からだとしても『多いな魅力を持っている女であれば浮気はしない』となってしまう。
 するとどうなるか。酷い家だと売春婦にさせられ、稼ぎの半分を実家に持って行かれたり(理由は『家名に泥を塗られたから』だそうだ)、勘当されたり。普通は二段階下の爵位の家や庶民と結婚させられたり金持ちの30人くらいいる妻の一人にさせられたりする。
 一夫多妻制が採用されているとはいえ、公爵家では原則一人(たまにニ三人)、侯爵家や伯爵家でもそのくらいで、多い家で五人とかだ。
 男爵家とかになったらたまに八人とかはいるが。
 なので大抵は成金の豪商だ。
 そんなに妻を囲うヤツは大抵ロクな奴ではないので、性格が最悪だったり、奴隷の扱いをする人がほとんどだ。
 私の家は伯爵家で厳格な家柄で知られている。恐らくそのクチになってしまうだろう。
 最悪のケースの場合、売春婦なども有り得る。
 つまり、私の人生で最も避けねばならないことは『婚約破棄』なのだ。

「どうして!? どうして私を見捨てるの!?」
「うるせえんだよ伯爵家の女の分際で」

 ええ、出来ればあなたとなんて結婚したくないわ。
 でも、性奴隷や売春婦は避けたいのよ。
 だが、彼の家は侯爵家。しかも急成長を遂げている。
 ここからの頑張りしだいでは公爵家として王家と並び立つ日も夢ではないレベルだ。
 そんなあなたを手放したら私は一体どうなるのかしら?

「どうしてぇ……?」
「あーあ、気分悪くなったー。実家にはテメェが俺に粗相をしでかしたって言っとこー」
「待って‼」

 スタスタと歩き去っていく元婚約者を号泣して目で追う。
 私はこれからの未来に思いを馳せた後、どうしようもない事を悟り、せめて妻の人数が出来るだけ多い豪商の元へ行けるように願った。
『出来るだけ私に負担が集中しないようにしてください』
 と。
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