悪役のミカタ

MEIRO

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はじまりまして

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 ヴェルゼの尻からなった音を耳にし、ファーシルが、くくく、とおかしそうに笑う。

「すごい音だな。やれやれ、これはしっかりと密封しないと、自爆することになりそうだ。ヴェルゼの屁は、かなり強烈だからな」

「それを言うのでしたら……。い――いえ、こちらの出口は、わたくし腕できっちり閉じておきますので、安心してお眠りください」

 そんなヴェルゼの言葉に、ファーシルは安堵したような表情を浮べると、

「よし。では今日はこのまま、一緒に寝るとするか」

「はい。……けど、本当にご一緒しても、よろしいのですか?」

「いいも悪いも、布団から出てしまったら、臭いが散って大変なことになってしまうだろう。けどまあ、トイレに行きたくなったりしたら、そのときは遠慮せず、臭いが漏れないように、そーっと行って、そーっと戻って来くるんだぞ」

「はあ……」

 一度布団出たのなら、そのまま自室に戻ればいいのではないのだろうか――と、ファーシルの言い分に、ヴェルゼはおかしな部分をみつけつつも、

「わかりました。ではわたくしも、ここでおやすみさせていただきます」

「うむ。それでいい」

 ファーシルは満足げに言いながら布団の中で、もぞもぞと手を動かす。
 そして、その中にある『魔力タンク』の位置を確認すると、

「よし。とりあえずこれは、わたしとヴェルゼの真ん中に置いておくからな。屁が出そうになったら、魔力を補充してやってくれ」

「わかりました。そのときは遠慮せずに、させていただきます」

「ああ、頼むな。それじゃあ……」

 おやすみ――と、ファーシルが部屋のランプに指を向けた途端――ひとりでに部屋の明かりが消える。
 彼女はそれを確認すると、目を閉じる眠る体勢になった。
 ヴェルゼはそんな彼女に微笑みかけると、眼鏡を外しベッド台になっているスペースに置き、「おやすみなさい、魔王様」と答え、同じように目を閉じた。
 それから――しばらくして。

 ~ ぷうぅ

 ファーシルの尻から鳴る。

「ああ、すまん……」

 申し訳なさそうに言うファーシルに、ヴェルゼはふふ、と笑みを返す。

「遠慮するなといったのは、魔王様のほうですよね?」

「うーん。まあ、そうなんだが……」

「ふふふ。では、わたくしも……」

 ~ ぶぼああぁ!

 ヴェルゼの尻から鳴った音である。
 ふう――と、彼女は一息つくと、

「お返しです」

「くくくっ。ヴェルゼのは毎回凄い音だな」

 おかしそうに笑うファーシルに、ヴェルゼは苦笑いを浮べる。

「普段はそんなことないんですけどね……。今日はたまたまです」

「ほう。ヴェルゼも普段はしてたのか……」

 そんなファーシルの問いに、何をいっているのかと、ヴェルゼはほんの少しだけ呆れた様子を見せる。

「それはそうですよ。わたくしだって、おならの一つや二つ、当たり前にします」

「ほう……。なんだか、想像つかんな……」

「それは、こちらも同じですよ。可憐である魔王様のおならが――毒ガスのように臭いだなんて……」

「――なっ ヴェルゼ! お前、なんてこと――うっ!」

 ファーシルが唐突に、苦しげな声をもらす。
 勢いよく上体を起こしたことで、布団の中の臭いが散ってしまったようだ。
 そして、その臭気は、

「ぐっ……!?」

 ヴェルゼに鼻にも届く。
 そして、彼女は強烈な臭いに顔をしかめつつも、ほんの少しだけ――喜びを感じていた。
 やはり、特殊なフェチをもつ彼女の内心は、色々と――複雑なのである。
 とはいえ、辺りに漂っているのは、そんな彼女でさえ、耐えるのに、わりといっぱいいっぱいの臭いだった。
 ヴェルゼはうっすらと目に涙を浮かべると、

「ま、まおうざま……。起き上がってはだめでず……」

「ず、ずまん……」

 二人は鼻をつまみ、くぐもった声で会話をすると、同時にため息をついた。
 そうして、二人はしっかりと布団の中に体を収めると、

「では、ヴェルゼ。おやすみ」

「おやすみなさい、まおうさま」

 と、二人がいい終わったあと。

 ~ す――かあぁ――あぁ
 ~ ふ――すううぅぅ――ぅぅ――うぅ

 二つの音が鳴り、二人はくすくすと笑い。
 しばらくして――。
 今度こそ、しっかりと眠りに落ちたのだった。
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