悪役のミカタ

MEIRO

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はじまりまして

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「大丈夫ですよ。ほら……、ゆっくりと力を抜いていってください……」

「むぅ。いや、けどやはり……」

 穏やかな調子で言うヴェルゼの言葉に、ファーシルは眉をひそめて答える。
 その背後から、ヴェルゼは――彼女の尻を優しい手つき撫でた。

「っ……」

 ファーシルはベッドの上で四つん這いの体勢になっており、その身をくすぐったそうによじる。
 そして、

「ああ……」

「魔王様?」

 ファーシルの声音から、ヴェルゼは何かを察した様子で尋ねる。
 すると、ファーシルは残念そうに首を縦に振り、

「いや、駄目だ……。ひっこんでしまったみたいだ……」

 彼女はそう言うと、四つん這いの姿勢を崩しやめ、体の向きをヴェルゼへ向けた。

「まあ、そういうこともあります。それに……」

 と、ヴェルゼはそこで言葉を止めると、唐突に自分の尻へと意識を向ける。

「ん? ヴェルゼ、急にどうした?」

 ファーシルが訝しげな表情を浮かべ、振り向く眼前。
 そこでヴェルゼは、何かを確認するように、自らの腹をなでていた。
 ファーシルは彼女の腹へと視線を下げると、

「むっ、まさか……」

「はい、恐らくですが……」

「ほう、そうか……。そうかそうか……。うーん……、ああ――そうだ。ならば、ヴェルゼ。ちょっとアユミの『魔力タンク』を貸してみてくれないか?」

 ファーシルはそう言って、ヴェルゼの前に手を差し出す。

「へ? え、ええ……、それは構いませんが……」

 はい――と、ヴェルゼはファーシルの言う通りにした。
 ファーシルはそれを受け取ると、

「ほれ。では――後ろを向いてみろ」

「魔王様? 一体なにを……」

 目を見開くヴェルゼ。
 驚いている様子のヴェルゼだが、彼女はファーシルのしようとしていることを、だんだんと気付き始めていく。
 その眼前で、ファーシルはにやりと笑った。

「大丈夫だ。今だけは――どうどうと屁をこくことを許す。だから、ほれ……」

 早く――と彼女はヴェルゼへ、背を向けるように促す。
 すると、ヴェルゼは緑色の瞳に動揺の色を浮べつつも、大人しくに言うとおりにし、ベッドの脇で膝立ちをして、ファーシルへと尻を向けた。
 それを受け、ファーシルは赤い絨毯の床に足を下ろし、ベッドの脇へ移動してから、上体をかがめる。
 ちょうど、ファーシルの眼前に、ヴェルゼの尻がくるような形だ。
 ファーシルはそこで、『魔力タンク』を軽く観察すると、

「この二つの穴、なんだか――鼻みたいだな……」

 彼女はおかしそうに笑い、なにげない様子で、二つの穴があいているほうをヴェルゼの尻へと向け、それを近づけた。

「よし、ヴェルゼ。いつでもいいぞ」

「は、はい。では……」

 むっ――と、ヴェルゼが小さな声を漏らす。
 すると、

 ~ ぼ――ぶりぃいっ!

 …………。

 しばらく沈黙が流れる。
 今しがた鳴ったのはもちろん、ヴェルゼの尻からの音であり――。
 その暖かい空気を顔に受けたファーシルが、

「――ぬぐぎゅっ!!」

 と、変な声で悲鳴を上げた。
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