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はじまりまして
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「失礼いたします」
そう口にする彼女――ヴェルゼの視界に広がるそこは、魔王――ファーシル・シャイターンの部屋である。
「別に、そうかしこまらんでいいぞ」
「は、はい……」
と――ヴェルゼは今日嗅覚に受けたダメージにふらつきながらも、ファーシルの言葉に、緊張感の混じる声で応じる。
ただ、そのふらつく様は、表面的には辛そうでも、その内心には充実感で満たされていた。
彼女は色々と――複雑な感じの少女なのである。
ひとまず、彼女は高ぶる気持ちを落ち着かせようと、深い呼吸を繰り返すと、
「それにしても、魔王様。突然どうされたんですか?」
「いや、急に連れ込んでしまって悪いな、エルゼ」
ファーシルはそう言いながら、自分のベッドに腰を下ろし、隣をぽんぽんと叩くと、そこに座るようにヴェルゼを促す。
「い、いえ。わたくしはただ、このようなことは初めてだったので、どうされたのかと、気になっただけでして……」
ヴェルゼはファーシルの様子に、少しだけ動揺を覚えつつも、冷静さを保ちながら、ファーシルの隣に座る。
するとその眼前で、ファーシルは膝の上で、手をもじもじさせながら、ヴェルゼへと視線を向けた。
「じ、実はな……。さっきからずっと、その……、我慢を、しておってな……。それで、なんというか……」
「な、なるほど。……つまり、魔王様はいま――魔力の補充をしてあげようと、お考えなのですね?」
「あ、ああ。その通りなんだが……。本当に、ヴェルゼは頭の回転が良くて助かる」
ファーシルの言葉に、ヴェルゼは「いえいえ」と首を横に振る。
「なぜ部屋に呼ばれたのか、見当もついていませんし……。魔王様のお考えを察することができず、申し訳ない気持ちでいっぱいです。……それで、一つお聞きしたいのですが。補充をするのであれば、わたくしを呼んだりしなくとも、『魔力タンク』だけを、借りればよかったのではないでしょうか? そこが、わからないのですが……」
「うむ。まあ……、普通は、そうだよな……」
けどな――とファーシルはヴェルゼの片手を優しく両手で包み、
「一緒にやるのも、面白いかも、と……、思ったんだ」
「――っ!?」
ヴェルゼは驚愕に目を見開く。
背丈の関係で、上目遣いで見上げてくる彼女を、ヴェルゼはつい――可愛いと思ってしまったのである。
同性愛――とは違う。
その感情は、そういったものではなく、つい心を許してしまうような、そういった可愛さだった。
黙り込むヴェルゼの様子に、ファーシルは眉をひそめると、
「ん? どうした?」
「…………」
首をかしげるファーシルを、ヴェルゼは呆然と見て。
ふと――彼女は我に返ると、
「いえ、なんでもありません。それより、突然どうされたのですか? 一緒に、だなんて……、それではまるで……」
「うーん。きっかけは……、たぶん――あいつだ」
「モリヤさんですか?」
ファーシルは「ああ」と頷く。
「今日は、部下達と遊んだんだ。交流して。あと、知らないことも見つけられた。それで……、だから――ヴェルゼとも、もっとコミュニケーションをとれたらと、そういう……」
「本当に――それだけですか?」
「……へ?」
ヴェルゼの問いに、ファーシルはきょとんとする。
そんな彼女の反応をヴェルゼはおかしそうに笑うと、
「申し訳ありません。ですが、ご自身でも、気付いているんですよね?」
「…………」
ファーシルが話の先を促すように、黙り込む。
その頬がなにやら、ほんのりと赤い。
「恐らく――恥ずかしかったのでしょう。だから魔王様は、急いであの場を離れたんです」
ただ、それだけでは、理由としては足りません――と、ヴェルゼは続け、
「その恥ずかしさがありつつも、魔力の補充をして、少しでも彼の助けになれればと――そう考えたんですよね?」
「むっ……」
図星だと、そういわんばかりに黙り込ファーシル。
そして、逃げようとする彼女の手を、今度はヴェルゼが、両手で優しく包んだ。
「すみません、意地悪でしたね。では、話を変え……、あれ? けど、そういうことでしたら……」
ヴェルゼは握った手を解き、衣服のポケットから『魔力タンク』をとりだすと、
「もう――平気なのですか?」
彼女はそう言って――自分のおなかを、ぽんぽんとたたき、なにかのジェスチャーをする。
「…………」
ヴェルゼの問いに、ファーシルは無言で首を横に振る。
そんな彼女を、ヴェルゼはぼんやりと見て、ふふ、と笑みをこぼすと、
「モリヤさんは、本当に運がいいです」
「……ん?」
「いえ、なんでもありません。さ、早く済ませてしまいましょう。わたくしが――“した”ことにしておきますから。安心して、供給してあげてください」
と、ヴェルゼはファーシルの内心を少しだけ理解すると、ファーシルを安心させるように、柔らかな口調で言ったのだった。
そう口にする彼女――ヴェルゼの視界に広がるそこは、魔王――ファーシル・シャイターンの部屋である。
「別に、そうかしこまらんでいいぞ」
「は、はい……」
と――ヴェルゼは今日嗅覚に受けたダメージにふらつきながらも、ファーシルの言葉に、緊張感の混じる声で応じる。
ただ、そのふらつく様は、表面的には辛そうでも、その内心には充実感で満たされていた。
彼女は色々と――複雑な感じの少女なのである。
ひとまず、彼女は高ぶる気持ちを落ち着かせようと、深い呼吸を繰り返すと、
「それにしても、魔王様。突然どうされたんですか?」
「いや、急に連れ込んでしまって悪いな、エルゼ」
ファーシルはそう言いながら、自分のベッドに腰を下ろし、隣をぽんぽんと叩くと、そこに座るようにヴェルゼを促す。
「い、いえ。わたくしはただ、このようなことは初めてだったので、どうされたのかと、気になっただけでして……」
ヴェルゼはファーシルの様子に、少しだけ動揺を覚えつつも、冷静さを保ちながら、ファーシルの隣に座る。
するとその眼前で、ファーシルは膝の上で、手をもじもじさせながら、ヴェルゼへと視線を向けた。
「じ、実はな……。さっきからずっと、その……、我慢を、しておってな……。それで、なんというか……」
「な、なるほど。……つまり、魔王様はいま――魔力の補充をしてあげようと、お考えなのですね?」
「あ、ああ。その通りなんだが……。本当に、ヴェルゼは頭の回転が良くて助かる」
ファーシルの言葉に、ヴェルゼは「いえいえ」と首を横に振る。
「なぜ部屋に呼ばれたのか、見当もついていませんし……。魔王様のお考えを察することができず、申し訳ない気持ちでいっぱいです。……それで、一つお聞きしたいのですが。補充をするのであれば、わたくしを呼んだりしなくとも、『魔力タンク』だけを、借りればよかったのではないでしょうか? そこが、わからないのですが……」
「うむ。まあ……、普通は、そうだよな……」
けどな――とファーシルはヴェルゼの片手を優しく両手で包み、
「一緒にやるのも、面白いかも、と……、思ったんだ」
「――っ!?」
ヴェルゼは驚愕に目を見開く。
背丈の関係で、上目遣いで見上げてくる彼女を、ヴェルゼはつい――可愛いと思ってしまったのである。
同性愛――とは違う。
その感情は、そういったものではなく、つい心を許してしまうような、そういった可愛さだった。
黙り込むヴェルゼの様子に、ファーシルは眉をひそめると、
「ん? どうした?」
「…………」
首をかしげるファーシルを、ヴェルゼは呆然と見て。
ふと――彼女は我に返ると、
「いえ、なんでもありません。それより、突然どうされたのですか? 一緒に、だなんて……、それではまるで……」
「うーん。きっかけは……、たぶん――あいつだ」
「モリヤさんですか?」
ファーシルは「ああ」と頷く。
「今日は、部下達と遊んだんだ。交流して。あと、知らないことも見つけられた。それで……、だから――ヴェルゼとも、もっとコミュニケーションをとれたらと、そういう……」
「本当に――それだけですか?」
「……へ?」
ヴェルゼの問いに、ファーシルはきょとんとする。
そんな彼女の反応をヴェルゼはおかしそうに笑うと、
「申し訳ありません。ですが、ご自身でも、気付いているんですよね?」
「…………」
ファーシルが話の先を促すように、黙り込む。
その頬がなにやら、ほんのりと赤い。
「恐らく――恥ずかしかったのでしょう。だから魔王様は、急いであの場を離れたんです」
ただ、それだけでは、理由としては足りません――と、ヴェルゼは続け、
「その恥ずかしさがありつつも、魔力の補充をして、少しでも彼の助けになれればと――そう考えたんですよね?」
「むっ……」
図星だと、そういわんばかりに黙り込ファーシル。
そして、逃げようとする彼女の手を、今度はヴェルゼが、両手で優しく包んだ。
「すみません、意地悪でしたね。では、話を変え……、あれ? けど、そういうことでしたら……」
ヴェルゼは握った手を解き、衣服のポケットから『魔力タンク』をとりだすと、
「もう――平気なのですか?」
彼女はそう言って――自分のおなかを、ぽんぽんとたたき、なにかのジェスチャーをする。
「…………」
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そんな彼女を、ヴェルゼはぼんやりと見て、ふふ、と笑みをこぼすと、
「モリヤさんは、本当に運がいいです」
「……ん?」
「いえ、なんでもありません。さ、早く済ませてしまいましょう。わたくしが――“した”ことにしておきますから。安心して、供給してあげてください」
と、ヴェルゼはファーシルの内心を少しだけ理解すると、ファーシルを安心させるように、柔らかな口調で言ったのだった。
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