悪役のミカタ

MEIRO

文字の大きさ
上 下
25 / 33
はじまりまして

23

しおりを挟む
「いや、だから『魔力タンク』を……」

 握手をしたまま、固まる森谷。
 『魔力タンク』を返してもらおうと伸ばした手が、滑らかな肌をした、女性らしいヴェルゼの手に握られ、疑問の表情を浮べる森谷に、ヴェルゼは内心の読めない感じの笑みを向けた。

「だから――大丈夫ですから」

 ヴェルゼは『魔力タンク』を衣服のポケットにしまうと、両手でしっかりと、森谷の手を握る。
 そんな彼女を見て、ファーシルが首をかしげた。

「む? 森谷の『魔力タンク』は、ヴェルゼがずっと持っている感じにするのか?」

「いや――」

「はい、いつチャンスが来るか、わからないじゃないですし。常にわたくしが持っていようと思います」

 森谷の言葉を遮るように、ヴェルゼは言う。
 確かに、魔力の補充に必要な――おならは、好きなタイミングに出せるものではない。
 そのチャンスを逃さないように、というヴェルゼの言い分は、混乱中の森谷にたいしてもわかりやすい理屈だった。
 しかし、それを容認する余裕は、今の森谷にはない。
 今日のところは、【先送り】の分――つまり、後に送られてくる苦しみを、これ以上増やしたくないのである。
 と、そんな不安を覚える森谷に、

「わたしが――信用できませんか?」

「いや……、そんなことは……」

 悲しそうなヴェルゼの表情を見て、森谷が言葉を失ってしまう。
 なぜこのような状況になっているのか、色々と、思考がついていっていないのである。
 自分で魔力の生成ができない森谷助けるために、ヴェルゼは協力してくれており、思いのほか集まりすぎてしまった、魔力――もとい、後の苦しみに、怯えることになるなど、想像もできなかったのだ。
 それに、おならを魔力に変換する際――ヴェルゼも、その臭いに苦しんだはずであり、その事実に、森谷は弱音を吐いてしまうことに抵抗を覚え、森谷はヴェルゼに返す言葉を迷っていたのだった。

「安心しろ、アユミ。ヴェルゼは信頼できるやつだ。やるといったら、責任を持ってやってくれるだろう」

 ファーシルが、ヴェルゼへの期待を帯びた瞳を森谷へ向ける。

「それは……」

「ふふっ、わかっています。わたくしの心配をしてくださっているんですよね。けど……」

 困り顔をする森谷から、ヴェルゼは手を離すと、微笑んで言った。

「大丈夫ですから。安心して、その役目をわたくしに任せてください」

「…………」

 ヴェルゼの言葉に、黙りこむ森谷。
 すると、その反応がどのように伝わったのか、

「――よし、この話はこれで決まりだな。それで、なあヴェルゼ。ちょっと、話は変わるのだが……」

 ファーシルは唐突に口を開くと、

「今から――わたしの寝室へ来ないか?」

「「…………」」

 ファーシルの言葉に、森谷に加え、ヴェルゼも思わず、言葉を失うこととなった。
 背丈の関係もあり、上目遣いでのその言葉には、なにかしらの誤解を生んでしまいそうな、そんな雰囲気がある。
 ファーシルは呆然とした様子のヴェルゼの手を握ると、

「ほら、良いよな? ヴェルゼ」

「――。ぁ、えーと……、じゃないくてっ。は――はいっ、わかりましたっ!」

「ふっ。なんだ、そのおおげさな反応は」

 ファーシルはおかしそうに小さく笑うと、ヴぇルゼの手を引き、

「ということで。アユミ、今日はもう寝るとしよう。それじゃあ、また明日な」

「あ、ああ……、おやすみ……」

 森谷の呆然とした返事に、ファーシルくすりと笑み返すと、彼女はヴェルゼを連れて、自室へと入っていく。

「ああ……、どうしよう……」

 森谷は人知れず、ため息をつくと、重い足取りで、自分へ用意された部屋へと入ったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

扉のない部屋

MEIRO
大衆娯楽
【注意】特殊な小説を書いています。下品注意なので、タグをご確認のうえ、閲覧をよろしくお願いいたします。・・・ 出口のない部屋に閉じ込められた少女の、下品なお話です。

鎖の少年

MEIRO
大衆娯楽
【注意】特殊な小説を書いています。下品注意なので、タグをご確認のうえ、閲覧をよろしくお願いいたします。・・・特殊な女性が集まる、とあるお屋敷のお話です。

え?

MEIRO
大衆娯楽
【注意】特殊な小説を書いています。下品注意なので、タグをご確認のうえ、閲覧をよろしくお願いいたします。・・・ え?っていう感じの、下品な話。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

作り物のお話

MEIRO
大衆娯楽
【注意】特殊な小説を書いています。下品注意なので、タグをご確認のうえ、閲覧をよろしくお願いいたします。・・・ 作り物のお話です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...