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はじまりまして
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「いや、だから『魔力タンク』を……」
握手をしたまま、固まる森谷。
『魔力タンク』を返してもらおうと伸ばした手が、滑らかな肌をした、女性らしいヴェルゼの手に握られ、疑問の表情を浮べる森谷に、ヴェルゼは内心の読めない感じの笑みを向けた。
「だから――大丈夫ですから」
ヴェルゼは『魔力タンク』を衣服のポケットにしまうと、両手でしっかりと、森谷の手を握る。
そんな彼女を見て、ファーシルが首をかしげた。
「む? 森谷の『魔力タンク』は、ヴェルゼがずっと持っている感じにするのか?」
「いや――」
「はい、いつチャンスが来るか、わからないじゃないですし。常にわたくしが持っていようと思います」
森谷の言葉を遮るように、ヴェルゼは言う。
確かに、魔力の補充に必要な――おならは、好きなタイミングに出せるものではない。
そのチャンスを逃さないように、というヴェルゼの言い分は、混乱中の森谷にたいしてもわかりやすい理屈だった。
しかし、それを容認する余裕は、今の森谷にはない。
今日のところは、【先送り】の分――つまり、後に送られてくる苦しみを、これ以上増やしたくないのである。
と、そんな不安を覚える森谷に、
「わたしが――信用できませんか?」
「いや……、そんなことは……」
悲しそうなヴェルゼの表情を見て、森谷が言葉を失ってしまう。
なぜこのような状況になっているのか、色々と、思考がついていっていないのである。
自分で魔力の生成ができない森谷助けるために、ヴェルゼは協力してくれており、思いのほか集まりすぎてしまった、魔力――もとい、後の苦しみに、怯えることになるなど、想像もできなかったのだ。
それに、おならを魔力に変換する際――ヴェルゼも、その臭いに苦しんだはずであり、その事実に、森谷は弱音を吐いてしまうことに抵抗を覚え、森谷はヴェルゼに返す言葉を迷っていたのだった。
「安心しろ、アユミ。ヴェルゼは信頼できるやつだ。やるといったら、責任を持ってやってくれるだろう」
ファーシルが、ヴェルゼへの期待を帯びた瞳を森谷へ向ける。
「それは……」
「ふふっ、わかっています。わたくしの心配をしてくださっているんですよね。けど……」
困り顔をする森谷から、ヴェルゼは手を離すと、微笑んで言った。
「大丈夫ですから。安心して、その役目をわたくしに任せてください」
「…………」
ヴェルゼの言葉に、黙りこむ森谷。
すると、その反応がどのように伝わったのか、
「――よし、この話はこれで決まりだな。それで、なあヴェルゼ。ちょっと、話は変わるのだが……」
ファーシルは唐突に口を開くと、
「今から――わたしの寝室へ来ないか?」
「「…………」」
ファーシルの言葉に、森谷に加え、ヴェルゼも思わず、言葉を失うこととなった。
背丈の関係もあり、上目遣いでのその言葉には、なにかしらの誤解を生んでしまいそうな、そんな雰囲気がある。
ファーシルは呆然とした様子のヴェルゼの手を握ると、
「ほら、良いよな? ヴェルゼ」
「――。ぁ、えーと……、じゃないくてっ。は――はいっ、わかりましたっ!」
「ふっ。なんだ、そのおおげさな反応は」
ファーシルはおかしそうに小さく笑うと、ヴぇルゼの手を引き、
「ということで。アユミ、今日はもう寝るとしよう。それじゃあ、また明日な」
「あ、ああ……、おやすみ……」
森谷の呆然とした返事に、ファーシルくすりと笑み返すと、彼女はヴェルゼを連れて、自室へと入っていく。
「ああ……、どうしよう……」
森谷は人知れず、ため息をつくと、重い足取りで、自分へ用意された部屋へと入ったのだった。
握手をしたまま、固まる森谷。
『魔力タンク』を返してもらおうと伸ばした手が、滑らかな肌をした、女性らしいヴェルゼの手に握られ、疑問の表情を浮べる森谷に、ヴェルゼは内心の読めない感じの笑みを向けた。
「だから――大丈夫ですから」
ヴェルゼは『魔力タンク』を衣服のポケットにしまうと、両手でしっかりと、森谷の手を握る。
そんな彼女を見て、ファーシルが首をかしげた。
「む? 森谷の『魔力タンク』は、ヴェルゼがずっと持っている感じにするのか?」
「いや――」
「はい、いつチャンスが来るか、わからないじゃないですし。常にわたくしが持っていようと思います」
森谷の言葉を遮るように、ヴェルゼは言う。
確かに、魔力の補充に必要な――おならは、好きなタイミングに出せるものではない。
そのチャンスを逃さないように、というヴェルゼの言い分は、混乱中の森谷にたいしてもわかりやすい理屈だった。
しかし、それを容認する余裕は、今の森谷にはない。
今日のところは、【先送り】の分――つまり、後に送られてくる苦しみを、これ以上増やしたくないのである。
と、そんな不安を覚える森谷に、
「わたしが――信用できませんか?」
「いや……、そんなことは……」
悲しそうなヴェルゼの表情を見て、森谷が言葉を失ってしまう。
なぜこのような状況になっているのか、色々と、思考がついていっていないのである。
自分で魔力の生成ができない森谷助けるために、ヴェルゼは協力してくれており、思いのほか集まりすぎてしまった、魔力――もとい、後の苦しみに、怯えることになるなど、想像もできなかったのだ。
それに、おならを魔力に変換する際――ヴェルゼも、その臭いに苦しんだはずであり、その事実に、森谷は弱音を吐いてしまうことに抵抗を覚え、森谷はヴェルゼに返す言葉を迷っていたのだった。
「安心しろ、アユミ。ヴェルゼは信頼できるやつだ。やるといったら、責任を持ってやってくれるだろう」
ファーシルが、ヴェルゼへの期待を帯びた瞳を森谷へ向ける。
「それは……」
「ふふっ、わかっています。わたくしの心配をしてくださっているんですよね。けど……」
困り顔をする森谷から、ヴェルゼは手を離すと、微笑んで言った。
「大丈夫ですから。安心して、その役目をわたくしに任せてください」
「…………」
ヴェルゼの言葉に、黙りこむ森谷。
すると、その反応がどのように伝わったのか、
「――よし、この話はこれで決まりだな。それで、なあヴェルゼ。ちょっと、話は変わるのだが……」
ファーシルは唐突に口を開くと、
「今から――わたしの寝室へ来ないか?」
「「…………」」
ファーシルの言葉に、森谷に加え、ヴェルゼも思わず、言葉を失うこととなった。
背丈の関係もあり、上目遣いでのその言葉には、なにかしらの誤解を生んでしまいそうな、そんな雰囲気がある。
ファーシルは呆然とした様子のヴェルゼの手を握ると、
「ほら、良いよな? ヴェルゼ」
「――。ぁ、えーと……、じゃないくてっ。は――はいっ、わかりましたっ!」
「ふっ。なんだ、そのおおげさな反応は」
ファーシルはおかしそうに小さく笑うと、ヴぇルゼの手を引き、
「ということで。アユミ、今日はもう寝るとしよう。それじゃあ、また明日な」
「あ、ああ……、おやすみ……」
森谷の呆然とした返事に、ファーシルくすりと笑み返すと、彼女はヴェルゼを連れて、自室へと入っていく。
「ああ……、どうしよう……」
森谷は人知れず、ため息をつくと、重い足取りで、自分へ用意された部屋へと入ったのだった。
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