悪役のミカタ

MEIRO

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はじまりまして

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 森谷は驚きの表情で、その相手を見る。

「あ、あんた……、男、だよな?」

「いやいや、ここは――男専用の風呂だよ。女がいるわけないでしょ」

 森谷の問いに、少年は苦笑いを浮べる。
 それを受けて、森谷は思わず視線を下げそうになったが――確かめる、というもの節操のない話であり、森谷は確認すくことなく――というより、入浴剤でも入れたかのように、湯が白く、見えなかったのだった。
 ちなみに、湯に香りはない。
 しいていうのであれば、純粋な、温泉の香りだ。
 そして、森谷が思わず動揺してしまうほどに、少年は――綺麗だった。
 髪は癖のある金色で、長さは森谷と同じくらい。
 滑らかな肌をしており、身長は森谷のよりも少し小柄といった感じである。
 そして――とがった耳に、ルビーのように赤い瞳。
 人間とほとんど変わらないようだが、やはり違う種族のようだ。
 そんな彼へ、森谷はじとっとした目を向けた。

「つーか、いたんなら声をかけてくれよ」

「ごめん、気配を消したつもりはないんだけど……」

「ああ、なるほど。おれが、ぼっーとしてたただけか」

「そういうこと」

 少年は頷く。
 と、彼の言い分に、森谷は素直に納得をすると、会話を仕切りなおすように笑みを向けた。

「おれ、森谷……、じゃなくて――アユミ・モリヤ。多分、逆にしたほうが伝わるよな?」

「……逆? ま、いいや。そういうことなら、ぼくからも自己紹介をしておこう。ぼくは――ラディ。ラディ・キュバスだ。よろしく、アユミ」

「おう、ラディな。了解」

 森谷はそう言って、はあ、と一息つく。
 すると、ラディは苦笑いした。

「なんだか、お疲れみたいだね?」

「んー、疲れてるつーかさ、今日は色々ありすぎて、思考がまとまってない感じなんだ」

「へえ」

 ラディは曖昧な返事をする。
 深入りしてもしょうがない、と思ったのだろう。
 森谷としても、その話題を続けられたどころで、どう返したら良いのかがわからなかったので、その反応に安堵を覚えていた。
 そうして、しばらく湯の中で身を委ねていると、

「ところでさ、ひとつ聞きたいんだけど。きみ――人間だよね?」

「……ん? まあ、そうだけど? なんか、変だったりするのか?」

 森谷の問いに、ラディは「いやいや」と手を横に振る。

「別に、変じゃないけどさ。この国には、魔族しかいないだろう? ……その、居心地が悪いんじゃないかと思ってさ」

「は? ……いや、どうだろう。んー、どちらかと言えば……、居心地は――最高だな」

 森谷はにっと笑い、ラディに答える。

「魔王は良い奴そうだし、兵士達も、蝙蝠達も、気の良い奴ばっかだ。メイドさん達は可愛いし、ヴェルゼっていう人も、まだあまり接してはないけど、色々と助けてくれてるしな。本当に……、ここに来て良かったぜ」

「…………」

 呆然とするラディ。
 そんな彼を、森谷はぼんやりと見て、「――あっ」と声を上げる。

「ラディもな! お前もなんだかんだ、おれに声かけてくれたし。見ず知らずのおれにたいしても、本当に良い奴だよな」

 森谷が言うが、返答がなかなか返ってこず、自分が何か変なことを言ってしまったのではないかと、彼は不安を覚えた。
 森谷がしばらくラディの様子を見ていると。
 ラディは――吹き出した。
 そして、愉快そうに笑う彼に、森谷は眉をひそめる。

「なんだよ。なんかおれ、変なこと言ったか?」

「うん――変だよ。物凄く変。こんなに変な奴、〔マジョック〕中を探したっていないんじゃないかな」

「いや、それはいいすぎじゃね? つーか、〔マジョック〕って、この国のことか?」

 森谷が尋ねると、ラディは驚きの表情を浮べた。

「はあ? まさか、自分が今いる場所もわからないのかい?」

「ああ……まあ」

 どうやら、ここは〔マジョック〕という国らしい。
 森谷が適当に返事をしながら、そのことを理解していると、ラディは声を出して笑った。

「本当に、おかしなやつだよ、アユミは。けどぼく、そんなきみのことが――結構好きみたいだ」

「……ん? ……えーと。……ん? ――はあ!?」

 驚愕に目を見開く森谷。
 と、そんなタイミングで――、

 * 【174】――【194】 *

 その感覚は伝達されてきた。
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