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はじまりまして
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「それより、これ。本当におれもご馳走になっちゃっていいの?」
森谷はファーシルに尋ねながら、自分の正面に置かれた皿の上に視線を落とす。
そこにあったのは、暖かなご馳走だった。
洋風の肉料理にスープ、そして水まで用意されており、森谷はそれらを目にして、ここまで親切にしてもらってもいいのだろうか――と、少し申し訳ないような気分になってくる。
「いいんだ。……友人、だからな。それになんというか、森谷のおかげで、部下達とも、少しだけ深い交流の機会ができた。だから、ありがとう――ってことで、遠慮せずに食べてくれ」
「…………」
ファーシルの言葉に、森谷は感動を覚えつつも、疑問の残る表情を向ける。
ファーシルはその視線に気づくと、
「さあ、冷めてしまう前に、食べてしまおう」
話を区切るように肩をすくめ、自分の目の前に置かれた洋風な料理へと視線を落とし、彼女は柔らかく微笑んだ。
森谷はそんな彼女の返答に、わだかまりの残る表情で、「ああ」と頷き、いただきます――と、食事に手をつけたのだった。
*――*――*――*――*
――なんだ、これ。
森谷は今の状態に――ふと違和感を覚える。
自称かみさまに出会い、森谷は勇気をもらい。
異世界へと向かい、不安になった。
魔族達が住む城に入り、孤独を知り。
ファーシルと出会い、他者の暖かさを知った。
そして、食事までご馳走になった森谷は、今――城の露天風呂で湯に浸かり、星空を見上げていた。
それは、彼が地球で見たものと、さして変わらない。
はっきり違うものがあるとすれば、月の替わりに、白っぽい惑星があることだけであり、空気が違う違うせいか、あるいは惑星が違うせいか、森谷の知っているそれよりも、数段綺麗な、星空だった。
「つーか、こんなに順調で……いいのかよ。まあ――この力のおかげだよな……」
白髪の少女から授かった――不思議な力。
それは森谷が、自身で選んだ力である。
ちなみに、用意されていた選択肢は、その力だけではなく、異世界で生活するに当たって、もう少し使い勝手の良い力を、白髪の少女は――リスクなしで、用意してくれていた。
しかし、元の世界に戻りたい――という森谷の気持ちをくみ、白髪の少女はしぶしぶといった風に、この力をさずけたのだ。
そして今のところはその力が、森谷にとって、良いように働いている――と彼はそう思っている。
とはいえ――、
「はあ……」
森谷はため息をつきながら、意識を魔力へ向ける。
* 【174】 *
この世界にきたときと比べて、大幅に増えた魔力量。
だが、増えたその分――あとで苦しみが待っていた。
【先送り】のちからを使った結果である。
しかしあの場では、ああしたほうが良いと、森谷は判断したのだ。
<――向こうで、もし魔力の補充を手伝ってくれる者に出会えたなら、さっきわしにやったように失礼な態度をとるのは、もってのほかだ。しっかりと感謝しなければいけないよ――>
森谷は白髪の少女を怒らせてしまったときのことを思い出し、ファーシルにも同じことをしてしまってはいけないと、思ったのである。
とはいえ、結局のところ――遅かれ早かれなことなので、それを思えば、力の代償を人知れずに受けるというのは、間違った判断ではないだろう。
ただそのことが、借金でもしたような心地だ――と、森谷をげんなりとした気分にさせていたのだった。
ちなみに――、
「一括でないことは……救いだよな……」
【先送り】を使った際、そんなルールが、森谷の脳に伝達されてきていた。
そのことに、彼は安堵感を覚える。
今、先送りしている分が――【170】だ。
このぶんの苦しみをひとつにしては、精神崩壊ものだろう――と、森谷は思い、最悪のケースを想像したことで、風呂に使っているというのにも関わらず、彼はうっすらと寒気を覚えた。
と――そのときである。
「――なんだか、浮かない顔をしてるね」
「――っ!?」
横から突然かけられた声に、森谷は驚き、水しぶきを上げた。
森谷はファーシルに尋ねながら、自分の正面に置かれた皿の上に視線を落とす。
そこにあったのは、暖かなご馳走だった。
洋風の肉料理にスープ、そして水まで用意されており、森谷はそれらを目にして、ここまで親切にしてもらってもいいのだろうか――と、少し申し訳ないような気分になってくる。
「いいんだ。……友人、だからな。それになんというか、森谷のおかげで、部下達とも、少しだけ深い交流の機会ができた。だから、ありがとう――ってことで、遠慮せずに食べてくれ」
「…………」
ファーシルの言葉に、森谷は感動を覚えつつも、疑問の残る表情を向ける。
ファーシルはその視線に気づくと、
「さあ、冷めてしまう前に、食べてしまおう」
話を区切るように肩をすくめ、自分の目の前に置かれた洋風な料理へと視線を落とし、彼女は柔らかく微笑んだ。
森谷はそんな彼女の返答に、わだかまりの残る表情で、「ああ」と頷き、いただきます――と、食事に手をつけたのだった。
*――*――*――*――*
――なんだ、これ。
森谷は今の状態に――ふと違和感を覚える。
自称かみさまに出会い、森谷は勇気をもらい。
異世界へと向かい、不安になった。
魔族達が住む城に入り、孤独を知り。
ファーシルと出会い、他者の暖かさを知った。
そして、食事までご馳走になった森谷は、今――城の露天風呂で湯に浸かり、星空を見上げていた。
それは、彼が地球で見たものと、さして変わらない。
はっきり違うものがあるとすれば、月の替わりに、白っぽい惑星があることだけであり、空気が違う違うせいか、あるいは惑星が違うせいか、森谷の知っているそれよりも、数段綺麗な、星空だった。
「つーか、こんなに順調で……いいのかよ。まあ――この力のおかげだよな……」
白髪の少女から授かった――不思議な力。
それは森谷が、自身で選んだ力である。
ちなみに、用意されていた選択肢は、その力だけではなく、異世界で生活するに当たって、もう少し使い勝手の良い力を、白髪の少女は――リスクなしで、用意してくれていた。
しかし、元の世界に戻りたい――という森谷の気持ちをくみ、白髪の少女はしぶしぶといった風に、この力をさずけたのだ。
そして今のところはその力が、森谷にとって、良いように働いている――と彼はそう思っている。
とはいえ――、
「はあ……」
森谷はため息をつきながら、意識を魔力へ向ける。
* 【174】 *
この世界にきたときと比べて、大幅に増えた魔力量。
だが、増えたその分――あとで苦しみが待っていた。
【先送り】のちからを使った結果である。
しかしあの場では、ああしたほうが良いと、森谷は判断したのだ。
<――向こうで、もし魔力の補充を手伝ってくれる者に出会えたなら、さっきわしにやったように失礼な態度をとるのは、もってのほかだ。しっかりと感謝しなければいけないよ――>
森谷は白髪の少女を怒らせてしまったときのことを思い出し、ファーシルにも同じことをしてしまってはいけないと、思ったのである。
とはいえ、結局のところ――遅かれ早かれなことなので、それを思えば、力の代償を人知れずに受けるというのは、間違った判断ではないだろう。
ただそのことが、借金でもしたような心地だ――と、森谷をげんなりとした気分にさせていたのだった。
ちなみに――、
「一括でないことは……救いだよな……」
【先送り】を使った際、そんなルールが、森谷の脳に伝達されてきていた。
そのことに、彼は安堵感を覚える。
今、先送りしている分が――【170】だ。
このぶんの苦しみをひとつにしては、精神崩壊ものだろう――と、森谷は思い、最悪のケースを想像したことで、風呂に使っているというのにも関わらず、彼はうっすらと寒気を覚えた。
と――そのときである。
「――なんだか、浮かない顔をしてるね」
「――っ!?」
横から突然かけられた声に、森谷は驚き、水しぶきを上げた。
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