悪役のミカタ

MEIRO

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はじまりまして

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 部屋に運ばれた料理は、まず魔王であるファーシルへと運ばれ、それから、テーブルに座っている全員へと、料理は運ばれていった。
 ちなみに、料理を運んでいる者たちの見た目は、普通の人間とそれほど変わらないが、彼女達の背には、いかいにもといった羽が生えており、腰には尻尾が生えている。
 そして、髪色がカラフルなその少女達は、なにやら、ちらちらと、意味ありげな視線を森谷へと向けていた。
 どのような人なのかと――確かめるような視線である。

「…………」

 森谷は少女達の視線に疑問を覚えるが、そんなことよりも――と、骨の兵士達の食事が気になった。
 巨大蝙蝠たちは想像通り、肉類の料理であったのだが、骨の兵士達の食事が森谷には想像できなかったのだ。
 そこで、森谷はふと、ファーシルのいる方とは、反対側へと目を向け、

「――っ!?」

 おもわず声が出そうになり、彼はその口を手で押さえた。
 その様子に、森谷の目の前にいる――シウムという骨の兵士が首をかしげる。

「ひょっとして、モリヤさまもお好きなんですか? ――ミルク」

「え? ああ……」

 シウムが持っているカップの中にあるのは、ミルキーな白い液体だった。
 森谷はそのカップの中に視線を向けると、

「――いや、あんまり得意ではないかな。カフェオレとかにすれば、飲めるんだけど……」

「……はて? 聞いたことのない飲み物ですね」

「そ、そう?」

 あはは……、と森谷は笑みを浮べる。
 が――その心中は、動揺で満たされいた。

「っていうか、ちなみにそれって、どうやって飲むの?」

「ん? おかしなことを聞きますね」

 いや――どこが!?
 と、シウムにたいして、森谷が心中で声を上げていると、その眼前で、シウムは当然のようにカップをかたむけ、口――がないため、彼はカップを下の歯につけた。

「こうやって飲む意外に――どうするというんです?」

「…………」

 森谷は目の前の光景に言葉を失う。
 牛乳はシウムの骨の間を通り抜け、防具で視界をさえぎられたところで――消えたのだった。
 そのまま、床へ――ということはなかったのである。
 見る角度を変えて、牛乳がどうなったのかを確かめようとするが、うまいこと死角になっており、結局森谷は――それを確認することができず、

「な……なるほど……」

 森谷はわだかまりを残しつつも、納得した。
 と――そこに、

 * 【139】――【156】 *

 魔力量の増える感覚が――森谷の背に寒気を伝えた。
 ありがたいこと、ではあるのだが、【先送り】にしたぶんが、森谷の不安をあおるのだ。
 そこで――ふと、森谷は部屋を見渡した。
 ちらちらとくる、メイド達の視線。
 もしかすると、その中にも、魔力の供給をしてくれたものがいるのかもしれない。
 彼女達の視線を感じて、森谷はそう考察する。
 あるいは、魔力の供給をしてくれた者からの噂話を聞いたとか、そういった者もいるかもしれない――と、森谷は底まで考えて、途端――少しだけ恥ずかしさを覚えた。
 おならを力に変換する――そんな力を、恥ずかしいと思ったのだ。
 唐突にそんな風に思ったのは、彼女達を少なからず、意識してしまっているからだろう。
 惚れっぽい――というほどのことではない。
 魔族の少女達を見て、普通に――可愛いな、と思ってしまうような、そんなところである。
 ちなみに、そういった感情は――ファーシルにたいしてもあったが、気持ちにそれほど余裕がないことが良いように働いたのか、そのことを、それほど意識せずに済んでいたのだった。
 だが――今は違う。
 思った以上に、魔力に余裕ができた。
 その事実が、森谷の心にゆとりを与え、その羞恥に気づかせてしまったらしい。

「ん? ……どうした? アユミ」

「い、いや……、なんでも――」

 * 【156】――【174】 *

「…………」

 言葉の途中で口をつぐむ森谷。
 魔力の感覚に、彼は頭に冷水をかけられたような気分になったのだ。
 それが良かったのか――悪かったのか、

「いや、なんでもない……」

 森谷の心は唐突に、落ち着きを取り戻していった。
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