悪役のミカタ

MEIRO

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はじまりまして

08

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 * 【危機察知――〈解除〉】 *

 危機察知を使ってから、一時間が経ったようだ。
 もちろんその効果は切れてしまったのだが、ひとまずその力はもうは必要ないと、森谷は判断する。
 一つは単純に、魔力がもったいないからだ。
 それに、この力に頼りすぎるのも良くないという考えも、彼の中にわずかながらあり、それも判断材料となっていた。
 ただ一番の理由は、この城のトップであろう目の前にいる少女と、打ち解けたことだろう。
 でなければ、結構悩み事など、まともに聞いてくれないだろう。
 そう――彼女は聞いていた。
 覚悟を持ち、森谷が口にしたあるおかしな話にたいして、彼女は静かに、真面目な様子で耳をかたむけていたのだ。
 そして――

「……なるほど。話はわかった」

「ん? わかったって?」

 ファーシルの呟きに、森谷は首をかしげる。
 すると彼女は、説明のために森谷が手にしていた『魔力タンク』を指さして言った。

「要するに、それに――いいんだろう?」

「…………」

 ファーシルの返答に、森谷は呆然とする。
 彼女がおかしなことを言ってるからではない。
 そのおかしな話に対して、彼女が理解を示そうとしてくれていることに驚き、彼は声も出せずにいるのである。

「ん? 違うのか?」

「い――いや。違わない……けど。……信じてくれるのか?」

「まあ、にわかには信じられんが、試してみればわかるだろう。それに、せっかく仲良くなれたんだ。嘘をつかれるのは……寂しいしな。だから、信じることにしてみた」

「――っ」

 情けないと思いながら、森谷は泣きそうになる。
 話をしっかり聞いてくれたことも嬉しかったが、温度を感じるような暖かな言葉が嬉しかったのだ。
 そして――

「こらこら、そんな顔をするな。情けない」

「いや、仲良くなりたい思ってたのは、おれだけじゃなかったんだなって思ったら、嬉しくて」

「ほう。わたしと友人になれたことが、そんなに嬉しいか?」

「ああ。まあ、そりゃあね」

 森谷が素直な調子で言うと、

「ちなみに。その魔力の補給とやらを、やってやるとは言ってないぞ?」

「あ、ああ。まあ……そうだよな……」

 ファーシルの言葉に、思わず落胆の色を浮べてしまう森谷。
 断られる覚悟をしていても、いざそれを言われてしまうと、やはり気分は落ち込むのである。
 とはいえ、今の状況で繋がりができたことは、素直に嬉しいと思っており、彼は複雑な表情を浮べた。
 そんな彼の内心を知ってか知らずか、ファーシルは苦笑いを浮べる。

「まあ――やってやらんとも言ってないがな」

「…………ん?」

 呆然と首をかしげる森谷。
 その眼前で、ファーシルはおもむろに玉座から立ち上がると、彼女はゆったりとした歩調で、森谷のすぐ前へと向かった。

「どれ。嘘か本当か、ひとつ――試してみようか」

「えっ……と……?」

 反応に困る森谷。
 ファーシルが口にした言葉の意味を、わかりかねているのである。

「アユミ。おぬしは運がいい」

 ファーシルは戸惑いの表情を浮べている森谷の手から、すっと『魔力タンク』を取り上げると、

「今ちょうど――」

 ファーシルはそういいながら、手に持ったままの森谷の『魔力タンク』を尻の方へと持っていく。
 そして――

「――出そうな感じがするんだ」

 彼女は腹に――ちからを入れた。
 その刹那、森谷は――、

 * 【12】――【4】 *
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