悪役のミカタ

MEIRO

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はじまりまして

06

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 * 【17】――【13】 *

 少年は残りの魔力を気にしながらも、その力を使うことにした。
 それは――【言語理解〈8時間――“魔王”の知っている言語のみ〉】という力である。
 彼はその力を使い、異世界(一部)の言語を理解したようだ。
 ちなみに〈制限〉をつけているのは、【危機察知】のときと、同様の理由である。
 しかし、それでも――

「だいぶ、魔力を使っちゃったな……」

 ――そして、〈制限〉の中にある“魔王”というのは、少年の目の前にいる少女のことらしい。
 彼は力を使ったついでに、意図せず、そんな情報を得たようだ。

「あんた、魔王だったのか。そういうの、あんまよくわかんないんだけどさ……とにかく、ここであんたに会えて、本当によかったよ」

 【危機察知】の効果はまだ続いている。
 そのため、相手が魔王という存在だとしても、危険がないのであれば、特に気にするようなことはないと、少年は目の前の人物に安堵感を抱いたのだった。

「はろー。まいねーむいーず。――アユミ・モリヤ。……わかる?」

 ――森谷《もりや》 歩遊美《あゆみ》
 それが、少年の名前である。
 彼がそうして軽い自己紹介を済ませると、場に沈黙が流れた。
 その空気に森谷がいたたまれない様子でいると、

「……なあ。今、何が起きた? 唐突に物凄い力を使ったかと思えば、突然意思疎通ができるようになったように感じたが」

 魔王の言葉に、森谷は「ん?」と疑問の表情を浮べる。

「……ああ、力を使って、言葉がわかるようにしたんだけど。あんたもしかして、魔力が――見えるのか?」

「いや、見えるというか、感じるというのが、普通だと思うが……」

「へえ。っていうか、名前、聞いてもいい? なんて呼べばいいかわからないし」

 森谷が言うと、魔王の少女は可笑しそうに笑う。

「魔王に名を尋ねるか。……おかしなやつだ」

「嫌なら、魔王様、とか呼ぶけど?」

「いや。別に、嫌とは言ってないだろう」

「……そう?」

「ああ、もちろん。わたしの名前は――ファーシル」

 ファーシル・シャイターンだ――と、彼女は続けて言う。

「へえ。じゃあ、ファーシルさんって呼べば――」

「ファーシルでいい」

「ん?」

「別に、敬称でなくても、抵抗はないだろう?」

 そう尋ねるファーシルに、森谷は即答できなかった。
 裏を返せば、相手をあなどっている、とも捉えられなくもないからだ。
 とはいえ――、

「わかった。ファーシルって呼ぶよ。どちらかといえば、友達っぽい付き合いを望むところではあるし」

「ほう。つまりおぬしはわたしと――仲良くなりたいと?」

 意外そうに訊くファーシルに、森谷は戸惑いつつ頷く。

「まあ。それは、そうなんだけど。嫌なのであれば――」

「べ――別に嫌では、ない」

「……ん?」

 呆然とする森谷の眼前で、ファーシルは少し恥ずかしそうに咳払いをする。

「なんだ。それならそうと、早く言ってくれれば、こちらもびくびくせずに――じゃなくて。と、とにかく。そういうことなら……歓迎してやらんでも、ないぞ」

「……本当に?」

 森谷か尋ねると、ファーシルは愉快そうに小さく笑う。

「なんだ、遠慮してるのか? まったく、本当に良くわからんやつだ」

「…………」

 展開についていけず、言葉を失う森谷。
 その心中を満たしていたのは、喜びだった。
 この世界で、独りぼっちで済むかもしれない。
 そんなふうに森谷が安堵していると、

「ところで――アユミ。おぬしの魔力について訊きたいんだが」

「あ……ああ、いいけど。おれの力がどうかした?」

「どう、というか。それは――どんな力なんだ? さっきから、ずっとそれらしいものを感じてはいるんだが。なんだか、特殊な感じがする……。というか、それは本当に――魔力、なのか?」

「いや、うーん。……おれもあんまり知らないんだよね」

「…………」

 森谷の言葉に、ファーシルはきょとんとすと、

「むっ……教えてくれないのか? まあ、別にいいけどな……」

「ん……?」

 少し子供っぽくむくれる魔王――ファーシルを見て、森谷は首をひねるが、「――じゃなくて」と、話を戻そうとする。

「本当に、わからないんだってば」

「自分の魔力なんだから、わからないなんてこと、あるわけないだろう?」

「……まあ、普通はそうなんだろうけど。おれのは……多分、特殊なんだ」

「特殊? まあ、確かに違う感じはするが……」

 理解を示そうとするファーシルだが、根拠のない返答に、納得し切れていない様子だ。
 しかし、説明しようがないと、少年は首をひねる。

「まあ、しいて言うなら――何でもできる力なんだよ」

「……ん?」

「いや、本当にそうなんだってば。例えば――」

 * 【13】――【12】 *

「って――あれ?」

 驚きの声を漏らす森谷。
 それは、ほとんど無意識による出来事だった。
 脳裏に思い浮べた程度の意識である。
 気付けば彼は――【その力】を使っていたのだった。
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