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はじまりまして
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* 【18】――【17】 *
「うわぁ……迂闊すぎるだろ。……おれ」
少年は冷や汗をかく。
彼の眼前にある壁に、無数の矢が刺さっていた。
罠。
トラップ。
どう見てもそれは、少年へ――もとい侵入者へ向けられたものだろうが、彼は今しがた目の前を横切ったその矢を、どこか他人事のように見ていた。
罠を仕掛けられたところで、彼にはわかってしまうのだから、それにたいしてリアクションをとるのも難しい話ではあるのだが。
彼は――力を使ったのだ。
それは、RPGでいうところの――バフと呼ばれる魔法のような力で、その内容を簡単に言うと――【危機察知〈1時間〉】といった感じの力だった。
そしてそれは、能力を向上させる、とか、そういったふうな力ではない。
少し先に起こりえるであろう危機を把握できてしまうといった、カンニングのような、でたらめな力だったのである。
さらに――【〈時間制限〉】を用いることで、魔力消費を抑えることが出来るようで、今の少年にとってありがたいことに、魔力の調整も可能な力のようだ。
実に都合の良すぎる力である。
――魔力の補充を考えなければだが。
つまり少年は、目の前の仕掛けが作動したあと、矢が横切るのを、あらかじめ理解したうえで、その動きを眺めていたのだった。
「もしかして、これ。力がなかったら……終わってたか?」
例えばのことを想像し、少年は寒気を覚える。
彼は一度気持ちを落ち着かせてから、通路の先へと視線を向けると、数メートルほど歩き、足を止めた。
少しして。
何かが作動する気配のあと――巨大な鉄球が落ちてくる。
少年が見上げるほどの高さの鉄球だった。
彼は何事もなかったかのように、横に出来ていた隙間から鉄球を通り抜け、廊下を更に進んでいく。
しばらくして、再び足を止める。
――落とし穴だった。
飛び越えられないような幅じゃない。
少年は助走をつけ、あぶなげなく穴を飛び越えると――
「……はあ」
盛大なため息を吐く。
と、そこに、
『カク……』
『カクカク……』
『ッ……カクッ……』
硬いものがぶつかり合うような複数の音が、少年の背後から聞こえてくる。
門の外でも聞いたような音だ。
少年は音したほうへと振り向いた。
『『『――ッ!?!?!?!?』』』
走り去っていく骨の兵士達が、少年の視界に映る。
――まるで怯えられているかのようなその反応に、
「ええぇぇーー……」
少年は肩をがくっと落とす。
いったいどういうことなのだろうか。
むしろ、ずっと探していた相手が背後いたのだから、驚きたいのは少年のほうだろうが、兵士達の衝撃的な行動に、別の意味の驚きで言葉を失い、少年はしばらく呆然としてしまう。
「……なにやってんだろ、おれ」
そう思いつつも、少年は来た道を戻ろうとは思わず、廊下の先へと進んでいく。
好奇心――というのもあるだろうが、戻るのが面倒という気持ちも、少年の思考の半分くらいをしめていた。
「おーい。言葉がわかる人、誰かいませんかー」
若干なげやりな感じの少年の声が、廊下の奥へと響いていく。
危険がないのがわかり、気が大きくなっているのである。
あるいは、この状況をどこか、楽しみ始めているのかもしれない。
最初はどこか緊張していたようだった表情も、いつのまにかほぐれてる様子だ。
「なんつうか。怖くない肝試しでも、してるみたいだなあ」
彼は呟きつつ――背後から、何者かの気配を感じる。
しかし――【危機察知】は反応しなかった。
そこで、少年は少し浮かれた様子で笑みを浮べると、
「だぁーるまさんが……。あ、けどこの遊び――」
後ろへ意識を向け、
「――わかんねぇか……」
――振り返った。
『『『『カク……!?!?』』』』
『『『『カクカク……!?!?』』』』
『『『『ッ……カクッ!?!?』』』』
「――って……」
骨の兵士の数が増えていた。
そして、種類も増えている。
門の前にいた、兵士の格好をしたの者達と――魔道士のようなローブを着た者達が、半々くらいの割合で、十数人ほどいた。
そして、少年の眼前にいるのは、RPGなどで出てきたら、どうみても、問答無用で襲い掛かってくるような、そんな類の見た目をした者達だが、
「なあ……あんたら。どうしておれを襲わないんだ?」
【危機察知】の効果があるからこそ、彼らに対して隙を許していたが、そうでなければ、こんな場所に平常心でいられなかっただろうと、少年は思う。
そして、状況のわりに、敵意のようなものをあまり感じないことに、少年は疑問を覚えた。
「――なあ?」
少年は天井を見上げる。
『『『キィ……!?!?』』』
『『『キッ……キッ!?!?』』』
『『『キュイッ!?!?』』』
「……でけぇ」
少年は眼前にいる――蝙蝠を見上げて呟く。
そこにいたのは、彼が知っている蝙蝠とは格段にサイズの違う生き物だった。
身長は――一メートル弱といったところ。
いわゆる、モンスターと呼ばれる類の生き物のような見た目だ。
数は、骨の兵士達と同じくらい。
気付けば、辺りはだいぶ賑やかな感じになっていた。
しかし、
「言葉とか、通じないよな?」
と、少年が尋ねると。
そこらにいた者たちは全員――なぜかいっせいに逃げだしてしまい。
あっという間にひとり取り残された少年は、寂しげにため息をついたのだった。
「うわぁ……迂闊すぎるだろ。……おれ」
少年は冷や汗をかく。
彼の眼前にある壁に、無数の矢が刺さっていた。
罠。
トラップ。
どう見てもそれは、少年へ――もとい侵入者へ向けられたものだろうが、彼は今しがた目の前を横切ったその矢を、どこか他人事のように見ていた。
罠を仕掛けられたところで、彼にはわかってしまうのだから、それにたいしてリアクションをとるのも難しい話ではあるのだが。
彼は――力を使ったのだ。
それは、RPGでいうところの――バフと呼ばれる魔法のような力で、その内容を簡単に言うと――【危機察知〈1時間〉】といった感じの力だった。
そしてそれは、能力を向上させる、とか、そういったふうな力ではない。
少し先に起こりえるであろう危機を把握できてしまうといった、カンニングのような、でたらめな力だったのである。
さらに――【〈時間制限〉】を用いることで、魔力消費を抑えることが出来るようで、今の少年にとってありがたいことに、魔力の調整も可能な力のようだ。
実に都合の良すぎる力である。
――魔力の補充を考えなければだが。
つまり少年は、目の前の仕掛けが作動したあと、矢が横切るのを、あらかじめ理解したうえで、その動きを眺めていたのだった。
「もしかして、これ。力がなかったら……終わってたか?」
例えばのことを想像し、少年は寒気を覚える。
彼は一度気持ちを落ち着かせてから、通路の先へと視線を向けると、数メートルほど歩き、足を止めた。
少しして。
何かが作動する気配のあと――巨大な鉄球が落ちてくる。
少年が見上げるほどの高さの鉄球だった。
彼は何事もなかったかのように、横に出来ていた隙間から鉄球を通り抜け、廊下を更に進んでいく。
しばらくして、再び足を止める。
――落とし穴だった。
飛び越えられないような幅じゃない。
少年は助走をつけ、あぶなげなく穴を飛び越えると――
「……はあ」
盛大なため息を吐く。
と、そこに、
『カク……』
『カクカク……』
『ッ……カクッ……』
硬いものがぶつかり合うような複数の音が、少年の背後から聞こえてくる。
門の外でも聞いたような音だ。
少年は音したほうへと振り向いた。
『『『――ッ!?!?!?!?』』』
走り去っていく骨の兵士達が、少年の視界に映る。
――まるで怯えられているかのようなその反応に、
「ええぇぇーー……」
少年は肩をがくっと落とす。
いったいどういうことなのだろうか。
むしろ、ずっと探していた相手が背後いたのだから、驚きたいのは少年のほうだろうが、兵士達の衝撃的な行動に、別の意味の驚きで言葉を失い、少年はしばらく呆然としてしまう。
「……なにやってんだろ、おれ」
そう思いつつも、少年は来た道を戻ろうとは思わず、廊下の先へと進んでいく。
好奇心――というのもあるだろうが、戻るのが面倒という気持ちも、少年の思考の半分くらいをしめていた。
「おーい。言葉がわかる人、誰かいませんかー」
若干なげやりな感じの少年の声が、廊下の奥へと響いていく。
危険がないのがわかり、気が大きくなっているのである。
あるいは、この状況をどこか、楽しみ始めているのかもしれない。
最初はどこか緊張していたようだった表情も、いつのまにかほぐれてる様子だ。
「なんつうか。怖くない肝試しでも、してるみたいだなあ」
彼は呟きつつ――背後から、何者かの気配を感じる。
しかし――【危機察知】は反応しなかった。
そこで、少年は少し浮かれた様子で笑みを浮べると、
「だぁーるまさんが……。あ、けどこの遊び――」
後ろへ意識を向け、
「――わかんねぇか……」
――振り返った。
『『『『カク……!?!?』』』』
『『『『カクカク……!?!?』』』』
『『『『ッ……カクッ!?!?』』』』
「――って……」
骨の兵士の数が増えていた。
そして、種類も増えている。
門の前にいた、兵士の格好をしたの者達と――魔道士のようなローブを着た者達が、半々くらいの割合で、十数人ほどいた。
そして、少年の眼前にいるのは、RPGなどで出てきたら、どうみても、問答無用で襲い掛かってくるような、そんな類の見た目をした者達だが、
「なあ……あんたら。どうしておれを襲わないんだ?」
【危機察知】の効果があるからこそ、彼らに対して隙を許していたが、そうでなければ、こんな場所に平常心でいられなかっただろうと、少年は思う。
そして、状況のわりに、敵意のようなものをあまり感じないことに、少年は疑問を覚えた。
「――なあ?」
少年は天井を見上げる。
『『『キィ……!?!?』』』
『『『キッ……キッ!?!?』』』
『『『キュイッ!?!?』』』
「……でけぇ」
少年は眼前にいる――蝙蝠を見上げて呟く。
そこにいたのは、彼が知っている蝙蝠とは格段にサイズの違う生き物だった。
身長は――一メートル弱といったところ。
いわゆる、モンスターと呼ばれる類の生き物のような見た目だ。
数は、骨の兵士達と同じくらい。
気付けば、辺りはだいぶ賑やかな感じになっていた。
しかし、
「言葉とか、通じないよな?」
と、少年が尋ねると。
そこらにいた者たちは全員――なぜかいっせいに逃げだしてしまい。
あっという間にひとり取り残された少年は、寂しげにため息をついたのだった。
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