悪役のミカタ

MEIRO

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はじまりまして

04

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 * 【18】――【17】 *

「うわぁ……迂闊すぎるだろ。……おれ」

 少年は冷や汗をかく。
 彼の眼前にある壁に、無数の矢が刺さっていた。
 罠。
 トラップ。
 どう見てもそれは、少年へ――もとい侵入者へ向けられたものだろうが、彼は今しがた目の前を横切ったその矢を、どこか他人事のように見ていた。
 罠を仕掛けられたところで、彼にはのだから、それにたいしてリアクションをとるのも難しい話ではあるのだが。
 彼は――力を使ったのだ。
 それは、RPGでいうところの――バフと呼ばれる魔法のような力で、その内容を簡単に言うと――【危機察知さきよみ〈1時間〉】といった感じの力だった。
 そしてそれは、能力を向上させる、とか、そういったふうな力ではない。
 少し先に起こりえるであろう危機を把握できてしまうといった、カンニングのような、でたらめな力だったのである。
 さらに――【〈時間制限〉】を用いることで、魔力消費を抑えることが出来るようで、今の少年にとってありがたいことに、魔力の調整も可能な力のようだ。
 実に都合の良すぎる力である。
 ――魔力の補充を考えなければだが。
 つまり少年は、目の前の仕掛けが作動したあと、矢が横切るのを、あらかじめ理解したうえで、その動きを眺めていたのだった。

「もしかして、これ。力がなかったら……終わってたか?」

 例えばのことを想像し、少年は寒気を覚える。
 彼は一度気持ちを落ち着かせてから、通路の先へと視線を向けると、数メートルほど歩き、足を止めた。
 少しして。
 何かが作動する気配のあと――巨大な鉄球が落ちてくる。
 少年が見上げるほどの高さの鉄球だった。
 彼は何事もなかったかのように、横に出来ていた隙間から鉄球を通り抜け、廊下を更に進んでいく。
 しばらくして、再び足を止める。
 ――落とし穴だった。
 飛び越えられないような幅じゃない。
 少年は助走をつけ、あぶなげなく穴を飛び越えると――

「……はあ」

 盛大なため息を吐く。
 と、そこに、

『カク……』
『カクカク……』
『ッ……カクッ……』

 硬いものがぶつかり合うような複数の音が、少年の背後から聞こえてくる。
 門の外でも聞いたような音だ。
 少年は音したほうへと振り向いた。

『『『――ッ!?!?!?!?』』』

 走り去っていく骨の兵士達が、少年の視界に映る。
 ――まるで怯えられているかのようなその反応に、

「ええぇぇーー……」

 少年は肩をがくっと落とす。
 いったいどういうことなのだろうか。
 むしろ、ずっと探していた相手が背後いたのだから、驚きたいのは少年のほうだろうが、兵士達の衝撃的な行動に、別の意味の驚きで言葉を失い、少年はしばらく呆然としてしまう。

「……なにやってんだろ、おれ」

 そう思いつつも、少年は来た道を戻ろうとは思わず、廊下の先へと進んでいく。
 好奇心――というのもあるだろうが、戻るのが面倒という気持ちも、少年の思考の半分くらいをしめていた。

「おーい。言葉がわかる人、誰かいませんかー」

 若干なげやりな感じの少年の声が、廊下の奥へと響いていく。
 危険がないのがわかり、気が大きくなっているのである。
 あるいは、この状況をどこか、楽しみ始めているのかもしれない。
 最初はどこか緊張していたようだった表情も、いつのまにかほぐれてる様子だ。

「なんつうか。怖くない肝試しでも、してるみたいだなあ」

 彼は呟きつつ――背後から、何者かの気配を感じる。
 しかし――【危機察知】は反応しなかった。
 そこで、少年は少し浮かれた様子で笑みを浮べると、

「だぁーるまさんが……。あ、けどこの遊び――」

 後ろへ意識を向け、

「――わかんねぇか……」

 ――振り返った。

『『『『カク……!?!?』』』』
『『『『カクカク……!?!?』』』』
『『『『ッ……カクッ!?!?』』』』

「――って……」

 骨の兵士の数が増えていた。
 そして、種類も増えている。
 門の前にいた、兵士の格好をしたの者達と――魔道士のようなローブを着た者達が、半々くらいの割合で、十数人ほどいた。
 そして、少年の眼前にいるのは、RPGなどで出てきたら、どうみても、問答無用で襲い掛かってくるような、そんな類の見た目をした者達だが、

「なあ……あんたら。どうしておれを襲わないんだ?」

 【危機察知】の効果があるからこそ、彼らに対して隙を許していたが、そうでなければ、こんな場所に平常心でいられなかっただろうと、少年は思う。
 そして、状況のわりに、敵意のようなものをあまり感じないことに、少年は疑問を覚えた。

「――なあ?」

 少年は天井を見上げる。

『『『キィ……!?!?』』』
『『『キッ……キッ!?!?』』』
『『『キュイッ!?!?』』』

「……でけぇ」

 少年は眼前にいる――蝙蝠を見上げて呟く。
 そこにいたのは、彼が知っている蝙蝠とは格段にサイズの違う生き物だった。
 身長は――一メートル弱といったところ。
 いわゆる、モンスターと呼ばれる類の生き物のような見た目だ。
 数は、骨の兵士達と同じくらい。
 気付けば、辺りはだいぶ賑やかな感じになっていた。
 しかし、

「言葉とか、通じないよな?」

 と、少年が尋ねると。
 そこらにいた者たちは全員――なぜかいっせいに逃げだしてしまい。
 あっという間にひとり取り残された少年は、寂しげにため息をついたのだった。
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