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プロローグ
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* 【22】――【18】 *
「――と、まあこんな感じかな。どう? だいたいわかった?」
白髪の少女は一息つくと、ふわりと宙を移動し、少年の正面へと戻る。
「……おお」
驚きに目を見開く少年。
彼の手には、二足の白いスニーカーとソックスがのっており、少年はそれを呆然と眺めていた。
彼はそれらを履いてみて、サイズがぴったりなのを確認すると、
「かみさま――いや、師匠」
「ん? あれ? 持ち上げてる感じ出じで言ってるけど、かみさまから師匠って、なんか微妙にランクダウンしてない?」
白髪の少女は少し不満げに言いながら、少しだけ照れがあるのか、そわそわと、落ち着きをなくす。
「いや。まあ。どっちでもいいじゃん。っていうか、ごめん。本当はずっと、師匠のことを胡散臭いなーって思ってたんだ。けど、こんなもの見せられたら、信じるしかないよな。だから師匠、ありがとう」
「いやいや、魔力とは無縁の世界に住んでいたからそう思うんだろうけど。こんなのは基礎中の基礎なんだよ。本来は赤ん坊の頃から自然と知っているようなことであって――」
「いや、そうじゃなくってさ」
少年は白髪の少女の言葉をさえぎると、
「おれを助けてくれて、ありがとう」
「……え? ああ、まあ……いいよ、別に。暇つぶしにやっただけのことだし」
白髪の少女は少しだけ顔を赤くすると、照れくさそうに頭をかく。
「いやいや、いきなりこんなところに飛ばされて、師匠みたいな良い人に出会わなかったら、おれはいったい、どうなってたことか……」
「ちょっと。靴を作ったくらいで、大げさじゃないかな?」
白髪の少女が呆れたふうに言うと、少年は首を横に振る。
「それだけじゃない。力を使ってみて、ようやくこの力の凄さが、理解できたんだ。これなら……」
* 【18】 *
【それ】は少年の中にある――魔力量である。
先ほどまでその量は【22】だったのだが、靴とソックスを一足ずつ作ったことで、4つ分消費したようだ。
ちなみに、どこまでいけば満タンなのかは、少年自身にもわからない。
力を貯蔵している部分を腹部の辺りに感じつつも、底の見えない穴を覗くかのように、少年は感じていた。
そして、【18】というのは、そのなかに、米を18粒ほどまいたような、そんな程度。つまり少年は、自分の中に、どれほどの魔力を貯めておけるのかを知り――その器の大きさを理解したのである。
その感覚を理解できるようになった少年は、感動を覚えたように身を振るわせた。
「あの消費量の魔力で、“物を生み出す”なんていう奇跡を可能にできたんだ。この腹ん中いっぱいに魔力を貯めることができれば、きっと――どんなことでもできる」
「まあ、魔力があればの話だけどね」
「そう、魔力さえあれば……あ、そうか」
白髪の少女の言葉に、頷きかけた少年の頭が引っ込む。
彼はそれを忘れていたわけではなかったが、改めて考えてみて、その難易度の高さに、不安を覚えたのである。
「本来は、体力の回復と同じように、精神を休ませれば回復するものなんだけど、きみにはそれができない。そして――きみ一人では、小さな火を灯すことすらできないんだよ。この意味が――わかるね?」
「…………」
黙りこむ少年。
それを理解と受け取り、白髪の少女は話を続けた。
「向こうで、もし魔力の補充を手伝ってくれる者に出会えたなら、さっきわしにやったように失礼な態度をとるのは、もってのほかだ。しっかりと感謝しなければいけないよ」
「師匠……」
少年の言葉に、白髪の少女は首を横に振る。
「いーや、わしはかみさまだ。間違えてはいけないよ。――おっと。ほら、そろそろ時間が来たみたいだ」
「え?」
少年が白髪の少女が指差す方を見ると、そのずっと向こう側から、光が膨張するように、広がって来ていた。
「あれは……」
「あの光の向こう側に、きみの――ひとまず行くべき世界がある」
「ひとまず?」
「元の世界に戻るまでの――きみの生きる世界だよ」
「ああ、そういうことか」
少年は白髪の少女の言葉に、目を閉じて応じる。
そこは通過点に過ぎない。
元の世界へ戻りたいのであれば、それまでは、これから向かう世界でしっかりと生きなければならないのだ。
少年はその先の未来を見据えるように目を開くと、白髪の少女へと視線を戻す。
「で? おれはどうしたらいい?」
「まあ、焦る必要はない。ここいれば、世界の方から迎えに来てくれるから。それまでは、もうしばらくここで、ゆっくりしてるといいよ。向こうに行ったらきっと、大変な日々が待っているだろうからね」
白髪の少女は別れを惜しむように、笑みを浮べる。
「……師匠」
「だから、師匠じゃなくって、かみさまだってば」
呼ばれ方が気に入らないのか、白髪の少女はうんざりしたように言う。
「っていうか、師匠は名前とかってあるの?」
「うーん、名前かー。考えたこともないな。あと師匠じゃないから。ちなみ、もう一回行ったから……」
わかってるね? ――という白髪の少女の含みのある言葉に、少年は「あはは」と曖昧に笑って返す。
「とりあえず。まあ、考えておいてよ」
「どうして?」
「いや、帰る前に、お礼を言いに来たいしさ。……来れるかはわからないけど」
少年の言葉に、白髪の少女は苦笑する。
「まあ、無理だろうね。複線にすらなってない」
「……複線?」
「いや、こっちの話だよ。とにかく、余計なことは考えなくていい。きみはただ自分の進むべき道をまっすぐに見据えて生きてくれ。お礼がしたいっていうんなら、きみにあげたその力を正しく使ってくれれば、それがお礼になるからさ」
「……うーん」
考え込むようにうなる少年。
そんな彼の様子に、白髪の少女は首を傾げた。
「不満かい?」
「いや。正しいって、なんだろうなって思って……」
少年が言うと、白髪の少女は愉快そうに笑う。
「今すぐ答に辿りつこうだなんて、虫が良すぎるよ。それがわかるまでは、そうやって迷ったらいい。迷って迷って――自分なりの正しさを貫いてみなよ」
「自分なりで、いいんだ?」
少年の問いに、白髪の少女は頷く。
「自分なりで、良い」
「ふうん」
少年は曖昧に返事をすると、光の先へと目を向けた。
「――わかった。じゃあ、ここへは戻るのは、やめておくよ」
「ああ、それで良い」
しんみりとした口調で白髪の少女がそう言う。
そして光は、もうすぐそこまで迫ってきていた。
「まあ、とりあえず、いってくるわ――師匠」
「……ああ」
白髪の少女はそう言って、うつむく。
すると、彼女の表情が、癖の凄すぎる髪で隠れて見えなくなった。
そこで、どうしたのかと、少年はその顔を覗き込もうとして――死角から伸びてきた手のひらに、
「その呼び方は――駄目だって、さっき言ったよね」
「――え?」
白髪の少女の手のひらに突然鼻を覆われ、少年は驚きの声を漏らす。
そして、彼は彼女の行動の意味に気付くと、ゆっくりと表情を青ざめさせていった。
「それじゃあ――逝ってらっしゃい」
* 【18】――【18】 *
「――と、まあこんな感じかな。どう? だいたいわかった?」
白髪の少女は一息つくと、ふわりと宙を移動し、少年の正面へと戻る。
「……おお」
驚きに目を見開く少年。
彼の手には、二足の白いスニーカーとソックスがのっており、少年はそれを呆然と眺めていた。
彼はそれらを履いてみて、サイズがぴったりなのを確認すると、
「かみさま――いや、師匠」
「ん? あれ? 持ち上げてる感じ出じで言ってるけど、かみさまから師匠って、なんか微妙にランクダウンしてない?」
白髪の少女は少し不満げに言いながら、少しだけ照れがあるのか、そわそわと、落ち着きをなくす。
「いや。まあ。どっちでもいいじゃん。っていうか、ごめん。本当はずっと、師匠のことを胡散臭いなーって思ってたんだ。けど、こんなもの見せられたら、信じるしかないよな。だから師匠、ありがとう」
「いやいや、魔力とは無縁の世界に住んでいたからそう思うんだろうけど。こんなのは基礎中の基礎なんだよ。本来は赤ん坊の頃から自然と知っているようなことであって――」
「いや、そうじゃなくってさ」
少年は白髪の少女の言葉をさえぎると、
「おれを助けてくれて、ありがとう」
「……え? ああ、まあ……いいよ、別に。暇つぶしにやっただけのことだし」
白髪の少女は少しだけ顔を赤くすると、照れくさそうに頭をかく。
「いやいや、いきなりこんなところに飛ばされて、師匠みたいな良い人に出会わなかったら、おれはいったい、どうなってたことか……」
「ちょっと。靴を作ったくらいで、大げさじゃないかな?」
白髪の少女が呆れたふうに言うと、少年は首を横に振る。
「それだけじゃない。力を使ってみて、ようやくこの力の凄さが、理解できたんだ。これなら……」
* 【18】 *
【それ】は少年の中にある――魔力量である。
先ほどまでその量は【22】だったのだが、靴とソックスを一足ずつ作ったことで、4つ分消費したようだ。
ちなみに、どこまでいけば満タンなのかは、少年自身にもわからない。
力を貯蔵している部分を腹部の辺りに感じつつも、底の見えない穴を覗くかのように、少年は感じていた。
そして、【18】というのは、そのなかに、米を18粒ほどまいたような、そんな程度。つまり少年は、自分の中に、どれほどの魔力を貯めておけるのかを知り――その器の大きさを理解したのである。
その感覚を理解できるようになった少年は、感動を覚えたように身を振るわせた。
「あの消費量の魔力で、“物を生み出す”なんていう奇跡を可能にできたんだ。この腹ん中いっぱいに魔力を貯めることができれば、きっと――どんなことでもできる」
「まあ、魔力があればの話だけどね」
「そう、魔力さえあれば……あ、そうか」
白髪の少女の言葉に、頷きかけた少年の頭が引っ込む。
彼はそれを忘れていたわけではなかったが、改めて考えてみて、その難易度の高さに、不安を覚えたのである。
「本来は、体力の回復と同じように、精神を休ませれば回復するものなんだけど、きみにはそれができない。そして――きみ一人では、小さな火を灯すことすらできないんだよ。この意味が――わかるね?」
「…………」
黙りこむ少年。
それを理解と受け取り、白髪の少女は話を続けた。
「向こうで、もし魔力の補充を手伝ってくれる者に出会えたなら、さっきわしにやったように失礼な態度をとるのは、もってのほかだ。しっかりと感謝しなければいけないよ」
「師匠……」
少年の言葉に、白髪の少女は首を横に振る。
「いーや、わしはかみさまだ。間違えてはいけないよ。――おっと。ほら、そろそろ時間が来たみたいだ」
「え?」
少年が白髪の少女が指差す方を見ると、そのずっと向こう側から、光が膨張するように、広がって来ていた。
「あれは……」
「あの光の向こう側に、きみの――ひとまず行くべき世界がある」
「ひとまず?」
「元の世界に戻るまでの――きみの生きる世界だよ」
「ああ、そういうことか」
少年は白髪の少女の言葉に、目を閉じて応じる。
そこは通過点に過ぎない。
元の世界へ戻りたいのであれば、それまでは、これから向かう世界でしっかりと生きなければならないのだ。
少年はその先の未来を見据えるように目を開くと、白髪の少女へと視線を戻す。
「で? おれはどうしたらいい?」
「まあ、焦る必要はない。ここいれば、世界の方から迎えに来てくれるから。それまでは、もうしばらくここで、ゆっくりしてるといいよ。向こうに行ったらきっと、大変な日々が待っているだろうからね」
白髪の少女は別れを惜しむように、笑みを浮べる。
「……師匠」
「だから、師匠じゃなくって、かみさまだってば」
呼ばれ方が気に入らないのか、白髪の少女はうんざりしたように言う。
「っていうか、師匠は名前とかってあるの?」
「うーん、名前かー。考えたこともないな。あと師匠じゃないから。ちなみ、もう一回行ったから……」
わかってるね? ――という白髪の少女の含みのある言葉に、少年は「あはは」と曖昧に笑って返す。
「とりあえず。まあ、考えておいてよ」
「どうして?」
「いや、帰る前に、お礼を言いに来たいしさ。……来れるかはわからないけど」
少年の言葉に、白髪の少女は苦笑する。
「まあ、無理だろうね。複線にすらなってない」
「……複線?」
「いや、こっちの話だよ。とにかく、余計なことは考えなくていい。きみはただ自分の進むべき道をまっすぐに見据えて生きてくれ。お礼がしたいっていうんなら、きみにあげたその力を正しく使ってくれれば、それがお礼になるからさ」
「……うーん」
考え込むようにうなる少年。
そんな彼の様子に、白髪の少女は首を傾げた。
「不満かい?」
「いや。正しいって、なんだろうなって思って……」
少年が言うと、白髪の少女は愉快そうに笑う。
「今すぐ答に辿りつこうだなんて、虫が良すぎるよ。それがわかるまでは、そうやって迷ったらいい。迷って迷って――自分なりの正しさを貫いてみなよ」
「自分なりで、いいんだ?」
少年の問いに、白髪の少女は頷く。
「自分なりで、良い」
「ふうん」
少年は曖昧に返事をすると、光の先へと目を向けた。
「――わかった。じゃあ、ここへは戻るのは、やめておくよ」
「ああ、それで良い」
しんみりとした口調で白髪の少女がそう言う。
そして光は、もうすぐそこまで迫ってきていた。
「まあ、とりあえず、いってくるわ――師匠」
「……ああ」
白髪の少女はそう言って、うつむく。
すると、彼女の表情が、癖の凄すぎる髪で隠れて見えなくなった。
そこで、どうしたのかと、少年はその顔を覗き込もうとして――死角から伸びてきた手のひらに、
「その呼び方は――駄目だって、さっき言ったよね」
「――え?」
白髪の少女の手のひらに突然鼻を覆われ、少年は驚きの声を漏らす。
そして、彼は彼女の行動の意味に気付くと、ゆっくりと表情を青ざめさせていった。
「それじゃあ――逝ってらっしゃい」
* 【18】――【18】 *
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