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プロローグ
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――お前ってさ、女みたいな名前だよな。
昔言われたそんな言葉を、いつまでも気にするほど、彼はもう子供ではないが、それは、何気なく思い出してしまうような、そんな些細な――針だった。
痛みをともなわず、その針はずっと、少年の中に――あり続ける。
そして、それを言った彼と少年は、二度と会うことはないだろう。
別に、いざこざがあったとか、そういったことではない。
会おうと思わなければ、会うこともない。
そんな、なんていうことのない話なのである。
だがその針は、どういうわけだか、それを言った誰かのことよりも、ずっと鮮明に残りやすく、その結果、少年は自分の名前を、女っぽいなと思うようになったのだった――。
*――*――*――*――*
* 【0】――【22】 *
「――っせええええええええええぇぇぇ!!」
少年のくぐもった叫び声が場にこだましていく。
それは言葉としての形をかなり崩しているが、一言で言えば――くさい、と、彼はそう言いたいのである。
少年は地面にうずくまりながら、鼻を口ごと両手でおさえており、それが声がくぐもっていた原因となっているようだ。
そんな彼の反応が、よっぽど可笑しかったのだろう。少年の目の前にいる白髪の少女はけらけらと笑っていた。
「そんなだったかい? それは、よっぽどのにおいだったんだね」
白髪の少女が愉快そうに言うと、少年は手のひらで鼻を覆ったまま、勢いよく顔を上げた。
「がああ! ふっざけんな! これ、まじでやべぇって! 可愛い顔して、こんな――」
「いや、いやいやいや……ちょっとまってよ。確かに、自分でもちょっときつかったかな、って思うし、気持ちはわからないでもないけどさ。いったい――誰のためにやってあげたと思ってるんだよ?」
「そ、それは……! けど――」
「恥ずかしさを堪えてまで頑張ったっていうのに……そこまで言うかな、普通」
白髪の少女は少し悲しそうに言う。
「――あ……。え……?」
少年の勢いは急速に失われていく。
申し訳なさそうに鼻から手を離し、目をきょろきょろと泳がせる彼に、少女はむすっとした顔を向ける。
「そもそも、これは――きみが選んだ力だよね? 苦しかったんだろうけど、そんなの自業自得じゃないか」
不満げにそう口にしているのは、白い髪をした少女だった。
白髪というには、その長い髪は絹のように美しく――癖の凄すぎる髪型をしている。
まるで、わたがしのように、あるいは、首がいくつもある蛇のように、円を描くように、くるりと、外側にはねている。
重力を無視したかのような、髪型だ。
そして――重力と言えば。
彼女自身も、それを無視しているかのように――宙に浮かび、なにもないところであぐらをかいていた。
「まったく、これでもわし――かみさまの端くれなんだよ。そんな口の聞きかたしてもいいと思ってるの?」
「いや、それって自称――」
「まあ、きみが信じないというなら、その力――返してもらってもいいんだけどね」
白髪の少女は少し偉ぶるように、慎ましやかな胸はりながら言う。
そして、彼女は服を着ていなかった。
否――厳密に言うなら着ている。
肌の上に布切れを巻いているだけのような、簡素な格好であるが。
「……いや、返品したいのは山々なんだけどね」
少年が目のやり場に困りながらぼそっと言うと、白髪の少女は盛大に溜息を吐いた。
「きみは、わかってないね。身一つで異世界に投げ出されて、まともにやってけると思ってるの? その、地球――だっけ? その場所で、きみは――一人で生きてきたのかい?」
「……いや、父と母と……それから妹と……」
少年は内側から溢れそうになるものを堪えながらいう。
寂しさ、というよりかは、自分だどれだけ誰かに支えられて生きてきたのか、それをふと思いだし、少年は感謝を覚えたのである。
それと同じように、支えてくれた人たちへ、なにも返せていないことに、彼は今になって悔しさを覚えたのだ。
「だから――戻ったらいいじゃないか。そのために、きみは安全策を反故にしてまで、その力にしたんだろ?」
「けどさ。帰るなんて、そんなこと……できるのかな?」
「それは――きみ次第かな。変てこな条件がついているぶん、ポテンシャルは無限大だからね」
白髪の少女はひとさし指立てて、話を続ける。
「まあ、かみさまの中では、無条件でとんでもないものをプレゼントできる方もいるみたいだけど。わしは、それほど凄いかみさまではないんだよね。力を渡す前に説明したとおり、力の譲渡でいうと、わしはリスクをとることでしか、そのポテンシャルを上げられない。しかも――チャンスは一度っきりだ。力を注ぐための器は、一つの命に、一つしかないからね。そして、きみはその賭けに――勝った、というわけだ」
「……へ? 勝ったって……いやいやいや、そんなわけ――」
「――血液」
「ん?」
唐突に発っせられた白髪の少女の声に、少年は口をつぐむ。
「例えば、力を使う代償として、大量の血液が必要、とかだったら? あるいは、骨を折る――とか」
「…………」
「どんな条件になるかは、賭けだった。だから極端な話、そういった恐ろしいものが条件になりえることだって、ありえたんだよ。だからこそ、その見返りも大きいんだ。それを思えば、きみの条件なんて、たいしたことないだろう?」
白髪の少女は苦笑いを浮べながら、少年へと何かを投げた。
「そりゃあ……まあ……」
少年はわだかまりを残しつつ頷き、飛んできたものを受け取る。
そして、彼が手に取ったのは――白くて丸い、小物だった。
マシュマロのような弾力があり、そこになにやら穴が二つついている。
「ちなみに、それはなくさないようにね。それがきみにとっての――『魔力タンク』みたいなものらしいから」
「らしい……って」
「いや、代償の種類は無数なんだよ。大抵のことなら、どんなことだって代償になりえるからね。それらの特徴を、すべて把握するなんて、やってられないでしょ」
やれやれと、やる気なさげに肩をくめる白髪の少女に、少年は興味なさそうに応える。
「へえ……。おれには関係ない話だな」
「まあ、とにかく。大事にあつかわないと、自分が大変になことになるんだから、しっかり気をつけるんだよ。一部の感覚はつながってるんだからね。まあ逆に、そのおかげで、なくすなんて心配はないとおもうけどさ。離れていても、それと繋がってる感覚があるでしょ?」
「ああ……。なんか、わかるかも。この、物凄く綺麗な酸素が通ってるような……これがもしかして――魔力的なやつ? の感覚なのかな?」
良い表現がみつからないのか、少年は体内に得体の知れない心地よさを感じながら、曖昧な感じに言う。
「うーん、感覚は人それぞれだろうし、よくわからないけど。たぶんそうだと思う」
「へえ。なくすっていうのを少し懸念してたんだけど、確かにこれなら、無くすことはなさそうだ」
「けど、今なくしたら、いっかんのおわりだよ。ここへは簡単に戻ってこられないし、わしからも、きみに会いに行くことはできないからね」
「……っていうか、なんでこんなことしてくれるんだよ。別に――あんたがおれをここに連れてきたわけじゃないんだろ?」
少年の問いに、白髪の少女は頷く。
「うん。気付いたらきみがここにいたんだ。きみもそうだっただろうけど、最初に見かけたときは、こっちも驚いたよ。随分長いこと生きてきたけど、こんなことは初めてだったからね」
「へえ……どのくらい、その、生きてきたんだ?」
女性に歳を尋ねるのをなんとなくためらいつつも、彼は好奇心に負けてしまい、おずおずと訊く。
「さあ――わすれちゃったよ」
「ふうん……っていうかさ、本当にかみさまなんだったら、地球ぐらい知ってるんじゃないの?」
胡乱な視線を向ける少年に、白髪の少女はやれやれといったふうに方をすくめる。
「いやいや、だから言ったじゃないか――わしは、はしくれだって。地球っていう星は、わしの管轄外なんだ。それに、聞いたこともないから、これからきみが行く惑星からからだと、何光年先のところにあるのかもわからないよ」
「へえ……。っていうか、その喋り口調で“わし”っていう一人称は、なんか変じゃないか?」
「そうかい? わしは気に入ってるんだけどね」
「まあ、あんたがそういうなら、それでいいんだけどさ」
少年はやれやれと肩をすくめる。
「で――どうしてなのさ?」
「ああ、さっきの質問だね。それは、まあ――暇つぶし、かな?」
「……ん? 暇つぶし?」
首をかしげる少年に、白髪の少女は考え込むような表情を浮べて言った。
「いや、きまぐれ? ともいえるのかな。とにかく――たまたまだよ。なんとなく、きみを助けてみようかなって思ったんだ」
「……へえ」
少年は単純な返事をした。
そっけなくしようとしているのではない。落ちついているように見えるが、事情があり、彼はまだ現状を飲み込みきれていないのである。
混乱する思考を、どうにかおさえながら、彼は白髪の少女と会話をしていたのだった。
「――っていうかさ。試しがてら、いまのうちに使ってみたら?」
唐突な白髪の少女の言葉に、少年は首をかしげる。
「……なにを?」
「――力をだよ。さっき貯めたぶんをとっておくのもいいけど、その足じゃ、異世界についたとき、大変でしょ?」
「ああ、そりゃあ、まあ……」
白髪の少女に言われて、少年は足元へ視線を向ける。
彼は――裸足だった。
服装は、パーカーにスウェット。ぼさっとした長くも短くもない髪は、寝起きの時のそれだ。
というより、少年は実際のところ――本当に寝起きなのである。
日本で生きていた少年は、自宅で就寝をし――なぜかこの場所で目を覚ましたのだった。
真っ暗で、なにもないこの場所で、少年はさきほど目を覚ましたばかりなのである。
そして、おかしな点があった。
白髪の少女の存在もそうだが、それはさておき、光源がないというのに、少年と白髪の少女は互いに見合うことができているのである。普通ならありえないことだろう。
そういった細々とした疑問が積み重なっていてるのもあり、少年は現状に、まだ微妙についていけずにいるのである。
「とりあえず、もうすぐ時間が来ちゃうからさ。そのまえに、足を保護するものとか用意していった方がいいんじゃないかな?」
「いや、そんなことを言われても……」
「ああ、もしかして、魔力の使い方がわからない?」
首をかしげる白髪の少女に、少年は頷く。
「使ったことないからさ。まあ、それについては、後で色々と試してみればいいかなって思ってたんだ」
「なるほど。……だったら、しかたがない――わしが教えてあげよう」
「ん? それって……」
戸惑いの表情を浮べる少年の眼前で、白髪の少女はふわりと宙を浮いたまま少年の背後へと移動する。
それから、彼女は少年の肩に両手をのせると、
「ほら、肩の力を抜いて……――」
昔言われたそんな言葉を、いつまでも気にするほど、彼はもう子供ではないが、それは、何気なく思い出してしまうような、そんな些細な――針だった。
痛みをともなわず、その針はずっと、少年の中に――あり続ける。
そして、それを言った彼と少年は、二度と会うことはないだろう。
別に、いざこざがあったとか、そういったことではない。
会おうと思わなければ、会うこともない。
そんな、なんていうことのない話なのである。
だがその針は、どういうわけだか、それを言った誰かのことよりも、ずっと鮮明に残りやすく、その結果、少年は自分の名前を、女っぽいなと思うようになったのだった――。
*――*――*――*――*
* 【0】――【22】 *
「――っせええええええええええぇぇぇ!!」
少年のくぐもった叫び声が場にこだましていく。
それは言葉としての形をかなり崩しているが、一言で言えば――くさい、と、彼はそう言いたいのである。
少年は地面にうずくまりながら、鼻を口ごと両手でおさえており、それが声がくぐもっていた原因となっているようだ。
そんな彼の反応が、よっぽど可笑しかったのだろう。少年の目の前にいる白髪の少女はけらけらと笑っていた。
「そんなだったかい? それは、よっぽどのにおいだったんだね」
白髪の少女が愉快そうに言うと、少年は手のひらで鼻を覆ったまま、勢いよく顔を上げた。
「がああ! ふっざけんな! これ、まじでやべぇって! 可愛い顔して、こんな――」
「いや、いやいやいや……ちょっとまってよ。確かに、自分でもちょっときつかったかな、って思うし、気持ちはわからないでもないけどさ。いったい――誰のためにやってあげたと思ってるんだよ?」
「そ、それは……! けど――」
「恥ずかしさを堪えてまで頑張ったっていうのに……そこまで言うかな、普通」
白髪の少女は少し悲しそうに言う。
「――あ……。え……?」
少年の勢いは急速に失われていく。
申し訳なさそうに鼻から手を離し、目をきょろきょろと泳がせる彼に、少女はむすっとした顔を向ける。
「そもそも、これは――きみが選んだ力だよね? 苦しかったんだろうけど、そんなの自業自得じゃないか」
不満げにそう口にしているのは、白い髪をした少女だった。
白髪というには、その長い髪は絹のように美しく――癖の凄すぎる髪型をしている。
まるで、わたがしのように、あるいは、首がいくつもある蛇のように、円を描くように、くるりと、外側にはねている。
重力を無視したかのような、髪型だ。
そして――重力と言えば。
彼女自身も、それを無視しているかのように――宙に浮かび、なにもないところであぐらをかいていた。
「まったく、これでもわし――かみさまの端くれなんだよ。そんな口の聞きかたしてもいいと思ってるの?」
「いや、それって自称――」
「まあ、きみが信じないというなら、その力――返してもらってもいいんだけどね」
白髪の少女は少し偉ぶるように、慎ましやかな胸はりながら言う。
そして、彼女は服を着ていなかった。
否――厳密に言うなら着ている。
肌の上に布切れを巻いているだけのような、簡素な格好であるが。
「……いや、返品したいのは山々なんだけどね」
少年が目のやり場に困りながらぼそっと言うと、白髪の少女は盛大に溜息を吐いた。
「きみは、わかってないね。身一つで異世界に投げ出されて、まともにやってけると思ってるの? その、地球――だっけ? その場所で、きみは――一人で生きてきたのかい?」
「……いや、父と母と……それから妹と……」
少年は内側から溢れそうになるものを堪えながらいう。
寂しさ、というよりかは、自分だどれだけ誰かに支えられて生きてきたのか、それをふと思いだし、少年は感謝を覚えたのである。
それと同じように、支えてくれた人たちへ、なにも返せていないことに、彼は今になって悔しさを覚えたのだ。
「だから――戻ったらいいじゃないか。そのために、きみは安全策を反故にしてまで、その力にしたんだろ?」
「けどさ。帰るなんて、そんなこと……できるのかな?」
「それは――きみ次第かな。変てこな条件がついているぶん、ポテンシャルは無限大だからね」
白髪の少女はひとさし指立てて、話を続ける。
「まあ、かみさまの中では、無条件でとんでもないものをプレゼントできる方もいるみたいだけど。わしは、それほど凄いかみさまではないんだよね。力を渡す前に説明したとおり、力の譲渡でいうと、わしはリスクをとることでしか、そのポテンシャルを上げられない。しかも――チャンスは一度っきりだ。力を注ぐための器は、一つの命に、一つしかないからね。そして、きみはその賭けに――勝った、というわけだ」
「……へ? 勝ったって……いやいやいや、そんなわけ――」
「――血液」
「ん?」
唐突に発っせられた白髪の少女の声に、少年は口をつぐむ。
「例えば、力を使う代償として、大量の血液が必要、とかだったら? あるいは、骨を折る――とか」
「…………」
「どんな条件になるかは、賭けだった。だから極端な話、そういった恐ろしいものが条件になりえることだって、ありえたんだよ。だからこそ、その見返りも大きいんだ。それを思えば、きみの条件なんて、たいしたことないだろう?」
白髪の少女は苦笑いを浮べながら、少年へと何かを投げた。
「そりゃあ……まあ……」
少年はわだかまりを残しつつ頷き、飛んできたものを受け取る。
そして、彼が手に取ったのは――白くて丸い、小物だった。
マシュマロのような弾力があり、そこになにやら穴が二つついている。
「ちなみに、それはなくさないようにね。それがきみにとっての――『魔力タンク』みたいなものらしいから」
「らしい……って」
「いや、代償の種類は無数なんだよ。大抵のことなら、どんなことだって代償になりえるからね。それらの特徴を、すべて把握するなんて、やってられないでしょ」
やれやれと、やる気なさげに肩をくめる白髪の少女に、少年は興味なさそうに応える。
「へえ……。おれには関係ない話だな」
「まあ、とにかく。大事にあつかわないと、自分が大変になことになるんだから、しっかり気をつけるんだよ。一部の感覚はつながってるんだからね。まあ逆に、そのおかげで、なくすなんて心配はないとおもうけどさ。離れていても、それと繋がってる感覚があるでしょ?」
「ああ……。なんか、わかるかも。この、物凄く綺麗な酸素が通ってるような……これがもしかして――魔力的なやつ? の感覚なのかな?」
良い表現がみつからないのか、少年は体内に得体の知れない心地よさを感じながら、曖昧な感じに言う。
「うーん、感覚は人それぞれだろうし、よくわからないけど。たぶんそうだと思う」
「へえ。なくすっていうのを少し懸念してたんだけど、確かにこれなら、無くすことはなさそうだ」
「けど、今なくしたら、いっかんのおわりだよ。ここへは簡単に戻ってこられないし、わしからも、きみに会いに行くことはできないからね」
「……っていうか、なんでこんなことしてくれるんだよ。別に――あんたがおれをここに連れてきたわけじゃないんだろ?」
少年の問いに、白髪の少女は頷く。
「うん。気付いたらきみがここにいたんだ。きみもそうだっただろうけど、最初に見かけたときは、こっちも驚いたよ。随分長いこと生きてきたけど、こんなことは初めてだったからね」
「へえ……どのくらい、その、生きてきたんだ?」
女性に歳を尋ねるのをなんとなくためらいつつも、彼は好奇心に負けてしまい、おずおずと訊く。
「さあ――わすれちゃったよ」
「ふうん……っていうかさ、本当にかみさまなんだったら、地球ぐらい知ってるんじゃないの?」
胡乱な視線を向ける少年に、白髪の少女はやれやれといったふうに方をすくめる。
「いやいや、だから言ったじゃないか――わしは、はしくれだって。地球っていう星は、わしの管轄外なんだ。それに、聞いたこともないから、これからきみが行く惑星からからだと、何光年先のところにあるのかもわからないよ」
「へえ……。っていうか、その喋り口調で“わし”っていう一人称は、なんか変じゃないか?」
「そうかい? わしは気に入ってるんだけどね」
「まあ、あんたがそういうなら、それでいいんだけどさ」
少年はやれやれと肩をすくめる。
「で――どうしてなのさ?」
「ああ、さっきの質問だね。それは、まあ――暇つぶし、かな?」
「……ん? 暇つぶし?」
首をかしげる少年に、白髪の少女は考え込むような表情を浮べて言った。
「いや、きまぐれ? ともいえるのかな。とにかく――たまたまだよ。なんとなく、きみを助けてみようかなって思ったんだ」
「……へえ」
少年は単純な返事をした。
そっけなくしようとしているのではない。落ちついているように見えるが、事情があり、彼はまだ現状を飲み込みきれていないのである。
混乱する思考を、どうにかおさえながら、彼は白髪の少女と会話をしていたのだった。
「――っていうかさ。試しがてら、いまのうちに使ってみたら?」
唐突な白髪の少女の言葉に、少年は首をかしげる。
「……なにを?」
「――力をだよ。さっき貯めたぶんをとっておくのもいいけど、その足じゃ、異世界についたとき、大変でしょ?」
「ああ、そりゃあ、まあ……」
白髪の少女に言われて、少年は足元へ視線を向ける。
彼は――裸足だった。
服装は、パーカーにスウェット。ぼさっとした長くも短くもない髪は、寝起きの時のそれだ。
というより、少年は実際のところ――本当に寝起きなのである。
日本で生きていた少年は、自宅で就寝をし――なぜかこの場所で目を覚ましたのだった。
真っ暗で、なにもないこの場所で、少年はさきほど目を覚ましたばかりなのである。
そして、おかしな点があった。
白髪の少女の存在もそうだが、それはさておき、光源がないというのに、少年と白髪の少女は互いに見合うことができているのである。普通ならありえないことだろう。
そういった細々とした疑問が積み重なっていてるのもあり、少年は現状に、まだ微妙についていけずにいるのである。
「とりあえず、もうすぐ時間が来ちゃうからさ。そのまえに、足を保護するものとか用意していった方がいいんじゃないかな?」
「いや、そんなことを言われても……」
「ああ、もしかして、魔力の使い方がわからない?」
首をかしげる白髪の少女に、少年は頷く。
「使ったことないからさ。まあ、それについては、後で色々と試してみればいいかなって思ってたんだ」
「なるほど。……だったら、しかたがない――わしが教えてあげよう」
「ん? それって……」
戸惑いの表情を浮べる少年の眼前で、白髪の少女はふわりと宙を浮いたまま少年の背後へと移動する。
それから、彼女は少年の肩に両手をのせると、
「ほら、肩の力を抜いて……――」
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