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02 すみません。ちょっと用事があので……

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 どうしてこんなことになってしまったんだろう。
 薫の心を焦燥感が満たしていく。

「……はあ」

 薫は溜め息をつくと、きょろきょろと視線だけをあたりに向ける。
 辺りには、相変わらず綺麗な女性で溢れており――男が見当たらない。
 そして、奇妙なことに、女性達の視線は――薫へと向けられていた。
 しかし、それをモテ期だと自惚れてしまえるほど、十九年という月日は短くない。
 何かがおかしいと、薫の疑心は膨れ上がっていく。
 とはいえ、いつまでも気を張っているというのは疲れる。
 薫は張り詰めていた神経を一度ほどくことにした。

「とりあえず、一人になれる場所を探すか……」

 薫は人通りの少なそうな横道を見つけると、その細い道へと入っていく。
 するとそこで、すれ違った人とぶつかりそうになり、

「あ、すみません」

 薫は半歩横にずれ、小さく頭をさげる。
 すれ違った人は、薫と同い年、もしくは年上のような雰囲気の――やはり、綺麗な少女だった。
 ウェーブのかかった淡い紫色をした長い髪が、彼女の色気を醸すように揺れている。
 服装は、紺色をよく使ったカーディガンとスカートといった組み合わせであり、柔らかな雰囲気のシルエットを作っていた。
 背丈は、薫よりも少し小さいくらいで、平均的な女性の身長より少し高い印象だ。
 その少女はすれ違いざまに、灰色の眼で薫の姿を見た。

「いえ、こちらこそ……。――あら?」

 薫と同じように、頭を下げ――かけて、ぴたっと、少女はその動きを止める。

「あなた……ひょっとして……」

 少女は言いながら、半歩分、薫との距離を詰める。
 その様子に異様なものを感じで、薫は進行方向へ進みつつ、少女との距離を半歩分取った。

「あの、もしかして俺、何か変ですか?」

「変? いえ、特にそのようなことは思ってないですけど……。そんなことより――どうして逃げようとするんですか?」

 少女は再び薫との距離を詰めると――その手首を掴んだ。

「――っ!?」

 寒気を覚える薫。
 不可解であることが、薫の恐怖心を掻き立てていく。
 何故、話しかけてくるのだろう。
 何故、触れられているのだろう。
 何故、この人もお腹を撫でているのだろう。
 何故、何故、何故……。
 薫の思考の中で、いくつもの疑問が混ざり合っていく。
 そして――、

「な、なんか……、よく分からないんですけど……。す――すみませんっ!」

 頭が真っ白になってしまった薫は、またも逃げ出したのだった。
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