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特殊すぎる力

【01】――その力は○○○

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 ――その者達は生き物ではなく。
 ただそこにいて、近づいてきた人間を襲う――【ゴーレム】と呼ばれる、巨大な何かだった。
 要するに、近づかなければ、害はなく。注意さえしていれば、危険な存在ではないのだが、それがなかなか難しかったりする。
 なぜなら、その見た目はそこらへんにある岩と変わらず、じっとしている様子を見て、判別しなければならないからだ。よくよくみれば、特徴がある。頭に――【変な触覚】があるのだ。その触覚を目印に、この世界の者達は、危険を回避していた。だが、常に神経をはりめぐらせているのは疲れるだろう。そして、そういったことからうまれる気の緩みによって、襲われてしまう、なんてこともあるわけで――、

「ぁ……、あぁ……」

 とある森の中。
 数体のゴーレムに囲まれ、声を震わせている少女がいた。
 彼女の名は――レイナ。羽のようにふんわりとしたブロンドの髪に、獣のような耳が見え隠れするように、見えている。つまり、彼女は人間ではなく、獣人族と呼ばれる種族の少女だった。
 服装は動きやすそうなショートパンツスタイルで、背丈は平均的。すばしっこそうな体躯と言った感じだ。
 見た目だけでいえば、すばしっこそうな感じで、ゆったりと近づいてくるゴーレムたちを撹乱し、簡単に逃げることができそうな感じだのだが、恐怖心によって、下手に動けずにいるようだ。とはいえ、一か八かで逃げ回らないのは、冷静な判断とも言えるだろう。
 彼女は呼吸を落ちつかせながら、じっとゴーレムたちを観察していく。だが、いつ動いても悪手になってしまうかのような不安から、なかなか動けずにいた――と、そのとき。

「――おらぁ!?」

 その声の主は、空から振ってきた。
 黒髪の少年だった。彼はまっすぐゴーレムの方へと蹴りを入れると、それを受けたゴーレムの胴体が一瞬で粉々になり、そのまま土に返るかのように、さらさらと姿を失っていた。
 ちなみに、少年がやったのは体術といった感じではなかった。彼を包み込みように、目視できるかのような、恐らく――魔力というのが正しいだろうなにかが、彼を包んでおり、理論的に説明のつかないような現象を引き起こしていたのだった。
 そして向かってくるゴーレムは、残り――三体となり、そこへ、

「――注意して。今の奇襲はうまく言ったけど、適当に突っ込むのは危険だわよ」

 なにやら、変な語尾が特徴的な、少年と同じく、黒髪の少女が、空間に現れる。
 その声に、少年はうまくゴーレムを注意を引きつけ、獣人の少女の方から離すようにしながら、返事をした。

「わ、わかってる、けど。戦いなんて、経験がないからさ……」

「しかたがないわね。ちょっと魔力がもったいないけど……、戦いに慣れるまでは、私もサポートするから、心配しないで」

「ああ、頼むわ」

 そう言って、黒髪の少年と少女はアイコンタクトをすると、

「「『リンク』」」

 二人同時に言う。
 すると、唐突に少女の体からふ、と力が抜け、

「へっ? お――っと……」

 少女の体を、獣人の少女が支える。

「おお、わりぃ。そいつ、『リンク』してるあいだは動けないから、ちょっと見ていてもらえないか?」

「……『リンク』? っていうか、この子を守りながらって――」

「大丈夫。砂の一粒も、そっちにはいかせねえから」

 少年はそういうと、三対のゴーレム全体を意識するように構えると――爆発。
 三体のゴーレムに対して、きっちりと狙いを絞ったかのように大音量が響き、三体同時にを粉々にした。

「な、なんなの……? あの頑丈なゴーレムが……、こんな……。っていうか、詠唱は?」

「――まあ、そんなことはいいじゃない」

 いつの間にか、黒髪の少女が目を覚ましていたらしく、彼女はふんわりとした白を基調としたのワンピースをぱんぱんとはらう。

「それよりもあなた、怪我はない?」

「あ、うん。おかげさまで……」

 戸惑いの色を浮べながら、獣人の少女は答えていると、

「つーかさ、マニラ。やっぱり、さっきのは流石にやりすぎじゃねえか?」

 そう言って二人の方へ歩いてきた少年の手には、なにやら緑色の宝石があった。それはゴーレムを粉々にした、瓦礫にの中から持ってきたもので、この世界において、なかなかの高価値な石だった。ちなみに、その石を目当てに、ゴーレムを討伐するもの達なんていうのもいるが――それはさておき、

「いやいや。エイキはゴーレムをなめすぎなんだわよ。私のサポートがなかったら、こんなに簡単にはいかないんだからね」

「そ、それは……。けどよ……、今ので、空んなっちまったぜ? 魔力」

「まあ、確かに、魔力がないのは困るだわね……」

 そう言いながら、マニラは獣人の少女へ、なにやら、含みのある視線を向ける。

「へ? ……私?」

 自分を指差して戸惑う少女。
 そんな彼女に、マニラは首を横に振って答える。

「いえ……。ちょっと……、つかぬことを訊くんだけれど……。あなた、今――おならを、だせないかしら?」

「……へ?」

 唐突な珍奇な問いに、獣人の少女は言葉を失う。
 あまりの内容に、脳が追いついていない、といった様子で、彼女はぽかんとする。そんな彼女に、マニラは言いずらそうに言葉を続ける。

「まあ、彼。色々と特殊でね。物凄い力を持っていはいるんだけど。力を使うのに――おならが必要なのよ。それで……」

「いやいや。そんなことを言われて、信じられるわけが……。でも、助けてもらったんだよね、私……」

「まあ、そういう反応になるわよね。無理強いをするつもりはないから、大丈夫だわよ。あまり悩まないで」

「…………」

 獣人の少女は、どう答えたら言いのか、分からない様子で黙り込み、「うーん」と考えるように、あごに手をやる。そして、口を開こうとした瞬間――どん。
 巨人の足音のような音が、場に響きわたり。
 三人が向いた先には――先ほどよりも二回りほど巨大なゴーレムがいた。

「おいおい……」

「もしかして、さっきの爆発音で……」

「な、なんで、二人して、私のほうをみるのよ……」

 二人の視線を受けて、マニラが少し居心地悪そうにする。
 その様子に、獣人の少女が「いやいや」と少し慌てた様子で手を横に振る。

「深い意味があるとかじゃなくて……、なんとなくだって」

「まあ、それならいいけど。とにかく、あいつをとめないと……」

 そう言って、マニラは手のひらをゴーレムの方へと向けると、
 何らかの力を発し、それを受けたゴーレムが、規格外にでかいロープで拘束されたかのように、その動きをとめる。
 それを確認すると、マニラはほっと息を吐き、

「さっきの『リンク』で、私のほうにも魔力が少しだけ流れ込んできたみたいだわよ。だから、少しのあいだなら食い止めておけるけど……」

「まじか……。ちなみにマニラ、今――出るか?」

 エイキの含みのある言葉に、マニラはなにやら少しだけ頬を赤くすると、渋い表情で首を横に振る。

「ちょっと……、無理そう、だわよ……」

「じゃあ、逃げるしかねえな……。力があるのに、野放しにするのは、気が引けるけど……。まあ――」

「ねえ」

 唐突に、獣人の少女が話しに加わる。
 彼女もなにやら、頬を少し赤くしており、言葉を待つエイキとマニラに、おずおずとした様子で訊いた。

「さっきの話なんだけど。ほんとう、なんだよね?」

「あ……、ああ、まあ。っていうか、この状況で、嘘をつく理由がないだろ」

「それは……、いや、もう単刀直入に訊くけど。あれを倒すのには、どのくらい……、その、必要なの?」

「まあ、相手があいつ一体なら、『肉弾戦モード』でいけると思うから、軽い一発ぐらいで十分だけど……」

 エイキは言いながら驚きの表情を浮かべ、「まさか……」と問うような視線を獣人の少女へと向ける。
 すると、少女は顔をさらに赤くし、エイキの目をまっすぐにみながら、ゆっくりと頷き、

「だから。やるんなら、はやくして」

「あ、ああ! 助かるけど……」

 緊張をしているのか、硬い口調で言う少女に、エイキは慌ててしたがい、

「わかった。ちゃんと目は閉じてるから。頼むぜ」

「あ、ありがとう……。じゃあ、ぃ――」

 ~ ぷううぅぅううぅぅ!

 その音は、唐突だった。
 タイミングにたいしてか、音にたいしてか、獣人の少女自身が、驚いた様子で、ぽかんとしており。そして、その尻から鳴ったのは紛れもなく――彼女のおならだった。
 それを受けたエイキは、少し面を食らった様子でいたが、すぐに気を取り直すと、勢いよくそれを吸い込み――、

「おええええええええええええええええ!」

「ちょっと!」

 盛大に気分の悪そうな声をあげる少年に、獣人の少女が心外そうに声をあげる。そして、あまりに予想外な事態だったのか、エイキは驚愕するように目を見開き、

「い、いや……、ちょっと……、むせて……、うぐぅ……」

「むせたって……、そんな言い訳が……」

「へえ。まさかの逸材がこんなところに……、うっ、こっちまで……」

 マニラの方にも臭いがきたみたいで、少し顔をしかめる。
 と、そこで、エイキは目を開けると、気を取り直した様子で、ゴーレムのほうを向く。そして、

「へんな反応しちまって、わるい……。そのかわり、ちゃんとそのぶんの仕事はしてくるからよ」

 そうエイキが言ったタイミングで、ちょうどマニラの魔力が空になったのか、ゴーレムの拘束が解ける。

「おつかれ、マニラ」

 額にうっすらと汗を浮べるマニラに、エイキは一言言うと、

「あとは、まかせとけ」

 彼はそう言って、自分の数倍ものサイズのゴーレムへと、向かっていった。
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