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毒のない、猛毒

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 それは、たった一発で、猛毒だった。
 命の危機を感じるほどの、臭いだけの毒ガスが、彼女達の武器であり。
 遊び道具であり。
 そんなガスを鼻に受けたものが、どうなってしまうのか――。
 今回は、そんな話を語ることにしよう。

 + + + + + +

 スカンク娘。
 そんな存在が、仮にいるとするならば、どんな想像をするだろうか。
 ほとんどの人が、黒に白が混じったような、獣の耳と尻尾を生やした少女を、想像するのではないだろうか。

 さて。

 スカンク娘という存在を、軽く想像してみたところで。
 次に、特徴としてあげられるものといえば。

 そう――放屁だろう。
 それも、強烈なやつ。
 キロ単位まで、臭ってしまうような、毒ガスのような屁を想像するのではないだろうか。

 ちなみに、あれは厳密に言えば屁ではないのだが――まあ、その話はいいだろう。
 そういった、細々とした部分をあげては、この後のお話に、入り込みづらくなってしまうだろうから。
 そういった話は、さておくとして――、

「――どう? 私特製の、ガスのニオイは~」

 ある少女が、地面に寝転がる何者かに問う。
 彼女は、ショートの髪に、ひらっとした服装の――尻尾の生えた少女だった。
 そして、髪色と尻尾の色には、全体的に――黒に白が混じるような、そんな姿をした少女だった。

 と、まあそんな感じで。
 その少女が何者かというと、

「ねえねえ、どうなの? スカンク娘のおならを嗅いだ感想を、聞かせてよ~」

 少女は再び問う。
 どうやら、スカンク娘というのが、彼女のことのようで、その視線の先にいるのは――、

「ねえ、狼男さん。聞いてる~?」

 スカンク娘の少女は、苦悶の表情で地面に寝転がっている――狼男に問う。
 まあ、ここまでの経緯をざっくりすると。

 狼男の自業自得的な展開というか。
 なるべくしてなった、という感じ、というか。
 つまり、そんなこんなで、狼男は危機的状況に陥っていたのだった――。

 さて。
 その狼男だが。目を白くし、口から泡を吐き、それはもうとんでもない目にあっているわけなのだが。
 いったいどんなひどい目にあったんだ――と、初見の人は思うだろう。
 そして、スカンク娘ちゃんが、極悪非道にみえていることだろう。

 あれ、そんなこともない?
 なるほど。さてはあなた、おならフェチですね?

 それとも、違いましたか?
 まあ、その話はいったん置いておくとして――ちなみにですが。

 この先のお話は、ある程度――“そういったシチュ”への耐性のない方には、少し厳しいお話になるかもしれません。
 なので、気をつけて読み進めてください。

 とまあ――そんな感じで。
 この後は、少しばかり、下品な話へと展開していくわけでなのだが――、

「ねえってば~」

 スカンク娘の少女は、眉をハの字にして狼男の体をゆらす。
 あそびたりない、といわんばかりだ。
 まあ実のところ、本当に遊び足りないと、彼女は思っているわけなのだが――。

「むっ……、ぐひぃ……」

 なにやら、わけのわからないことをつぶやく狼男。
 何かを拒否しているようだが。ろれつが回らず、返事すらまともにできないのだ。

 ちなみに、狼男がどんな目にあったかというと、

「もう、おおげさだなぁ……。鼻先に、私特製のガスを――ぷう。ってやっただけなのに~……」

 その言葉うとおり。
 彼女は、本当に短く――ぷう。とやっただけだった。
 それで、おしまい。
 たったそれだけのことで、彼女は喧嘩無敗と巷で噂の狼男を、地面へと沈めたのだった。

 まあ、相性が悪かったとも言えるだろう。
 狼男は、もちろん鼻がいいわけで。
 おならを武器とするスカンク娘とは、最悪の組み合わせといったところだろう。

 ちなみに、彼女のいう『特製ガス』というのは、スカンクでいう分泌液――ではなく。
 腸のほうから降りてきた、ものすご~~~~く臭いだけの――ただの『屁』だ。

 そう。
 本物のスカンクとは――少しばかり違った存在。
 それが、この物語においての、スカンク娘なのである。
 そして、まだ世間知らずな彼女は、知らなかった。

 自分が、どれほどのことをしてしまったのかを。
 と、そんなこんなで、お話は展開していくわけなのだが――。

 スカンク娘の少女は、狼男の様子をしばらく観察していた。
 観察して――、

「それじゃあさ~……。――もう一回、嗅いでみる?」

「……!?!?」

 少女の言葉に、狼男が目を見開く。
 なんて恐ろしいことをいうのだろうか。
 狼男は大粒の冷や汗をかき、地面をはいずるように、少女との距離をとる。

 そして、そのまま、逃げるようにして、ずるずる……、と、狼男は体を引きずった。
 しかし――、

「ちょ、ちょっと、まってよ~! どこいくのさぁ~……」

 少女はそういって狼男の進行方向へ先回りをすると。

 なんと。

 自分の尻尾を使い。
 狼男の顔面を――自分の尻へと引き寄せてしまった。

「んんぅぅーー!! むぐううぅぅーー!!」

 狼男が必死で暴れる。
 もしこのまま――屁でもされてしまったなら、と。
 生命の危機を感じるレベルで、狼男は暴れ続ける。

 しかし――狼男は抜け出すことは、できなかったようだ。
 自慢の力が、入れたそばから、するすると抜けていくのだ。
 狼男に蓄積したダメージは、それほどまでに深刻なものだったのである。

 だが、スカンク娘の少女は、それを理解していないのか。
 ただひたすらに、きらきらと楽しげな瞳を、狼男へと向けると、

「とにかく。いったん落ち着こう~……、ね?」

 そんな少女の声に、狼男は尻尾に顔を巻かれたまま、ちいさく。
 できるだけ、彼女の尻を刺激をしないよう、小さく。
 二度、首を縦にふった。

 そんな狼男の様子に、少女は安堵するように息をはくと、

「おお、いいこだね~。本当に、素直でいいこだぁ~……」

 やわらかく微笑みながら、口調もふんわりさせて少女は言う。
 そして――、

「「…………」」

 唐突に、黙り込む二人。
 その様子に、狼男は、なぜだろう――と。顔に巻きついたままの尻尾に対して疑問を覚えつつも。
 下手に少女を刺激してしまわないよう、押し黙った。

 自分の調子を探るようにして、狼男は沈黙していた。
 どうやら、臭いが尻尾に染み付いていた、なんてこともなっかたようで。
 つまり、逃げる準備が整えるのに、丁度いい状態になっていたのだ。

 と――そこに、

 ぷう……

 …………。
 …………。
 …………。
 さて、どういうことなのだろうか……。
 それは――唐突過ぎるできごとだった。
 何の脈絡もなく、その放屁音は、少女の尻――つまり、狼男の鼻先で鳴り、

「みっ――!?!?!? ぎぃ――!?!?!?」

 くぐもった狼の男の悲鳴。
 それは――3秒ともたず、

「ひっ……、あぅ……」

 たった――これだけ。
 たったそれだけのことで、狼男は白目をむき。口からは泡をふき。体を痙攣させ。
 その生命は、虫の息まで落とし込まれまれてしまったのだった。

 なぜ、少女はそんなひどいことをしたのだろうか。
 狼男が刹那に感じた疑問の理由はというと――、

「ご、ごめんね~。もれちゃったぁ~……」

 てへへ、と。そんな様子で。
 少女は顔を少し赤くし、頬をかいた。
 狼男の頭を――尻尾でつつんだままだ。

 もしかして、そのまま狼男を、開放しないつもりなのだろうか。
 狼男にとって、あまりにも酷い仕打ちが続いてるのだが。
 そんな状態だというのに――、

「まあ、すんだことはしょうがないよね~。とにかく、ほら。元気出して~」

 ぶふうぅ……

 少女はきらきらした瞳のまま、無邪気といった様子で。
 もう一発――ガスを狼男の鼻先へ放出した。
 それを受け、

「……っ!?!? づぁ……、ぐっ……!!」

 ほんの少しの間だけ、少女の言葉通り、狼男が元気になった。
 まあ、

「ぅ……、ぁ……」

 ほんの少しの間、だけだが――。
 それにしても、少女は本当に、どういうつもりで狼男を嗅覚を責め続けているのだろうか。
 彼女の表情からは、これといって邪気のような雰囲気が、見受けられない――。
 だというのに、

「あれ~? へんだなぁ~……」

 ぷう……

「どうしちゃったの~?」

 ぶひぃ……

「ほら、これならどう~?」

 ぶふう……

 まるで、狼男の命の火を――ふっ、と。消してしまいそうな様子だ。
 そんな少女の目に浮かんでいたのは――好奇心のような、何かだった。

 狼男の様子を、注意深く観察し。
 理解する。
 そうして、そんな彼女の表情が――唐突に、くずれていった。

 スカンク娘の少女は、今まで知らなかった――何かの感情を、その瞬間に知ったのだ。
 そして――、

「ああ、これは……、そういうことなんだ~……」

 少女はそうつぶやき、静かにいつのまにか荒くなっていた息をもらす。

「ようやく気づいたよ~……」

 そして、そのときはきた――、

「ごめんね~……。いま――楽にしてあげるからぁ……」

 少女は真っ赤な表情でそういうと――、

 むっすううぅぅううぅぅ~~……ううぅぅううぅぅ~~……
 すっ……かああぁぁああぁぁ~~……ふしゅううぅぅ~~……

 と。
 このときに、初めての感情を覚えた少女は。
 ろうそくの火を、消すかのように。
 ながく、長い、すかしの音と共に。
 毒ガスのような熱を、自分の尻から狼男の鼻腔へと、放出したのだった――。

 それは、たった一発で、猛毒だった。
 命の危機を感じるほどの、臭いだけの毒ガスが、彼女の武器であり。
 遊び道具であり。
 そんなガスを吸い込まされた狼男は。
 長いすかしっ屁を、最後まで耳にすることなく、静かにその動きを止めたのだった。
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