作り物のお話

MEIRO

文字の大きさ
上 下
1 / 2

作り物の部屋

しおりを挟む
「それじゃあ、はじめてくれ」

 俺は声をマイクに通し、ガラスの向こうの部屋へ、指示を出す。
 その部屋には、ベッドにクローゼット。勉強机――といった。
 いかにもといった、学生の部屋といった様子が広がっていた。
 ちなみに、窓があるが、窓を開いても、外にはつながっていない。

 ――作り物。
 ある目的のためだけに作られた部屋で。
 向こうからは、俺のことがみえないようになっている。
 とりあえず、そこらへんの説明はのちにするとして――。

 部屋には、十代半ばといった感じの男女が一人ずつおり、二人ともベッドに腰をかけていた。
 そして、少女のほうだけが、俺の声に反応し――ウェーブがかったセミロングの髪をかきあげ、決められた合図で俺に返すと、

『それじゃあ、これ。はずすわね』

 少女は少年に言い。
 少年の目にかけられていたアイマスクをとる。
 要するに、少年は何も知らない状態でそこにいたのだ。
 少女の声に、少年は一度、『え?』と反応してから、おずおずと口を開いた。

『あの……、ここは……?』

 少年が少女にたずねる。
 すると、少女は柔らかな笑みを浮かべて答えた。

『ここは、私の部屋よ』

 それはもちろん――演技だ。
 ここは、彼女の部屋などではなく、俺の――いや、この話も、いったんおいておくことにしよう。
 とにかく、彼女は俺に雇われ、俺の指示で動いていた。
 そして、そんな少女の言葉に、少年は疑問の表情を浮かべると、

『そうなんだ……? ちなみに、どうして僕は、アイマスクをつけなきゃいけなかったの?』

『え……?』

『いや、だから……』

『へ……?』

『あ、いや……。なんでもないです……』

『そう……』

 なんだか、茶番のようなやり取りだが、これは俺の指示ではない。
 彼女――音夢ねむは少しばかり、天然のところがあるようだ。
 それでいて、与えられた指示をきっちりこなすのだから、面白いこだったりする。

 さて、それで。
 彼女に与えた指示だが――、

 ぷううぅぅ……

 その音は、ガラスの向こう――イヤホンから聞こえてきた。
 部屋は防音になっていて、きっちり遮音されている。
 そのため、マイクを通さないと、向こうの物音が聞こえないのだ。

 ちなみに、マイクは音夢に身につけさせている。
 そのほうが――ほしい音が、聞き取れるからだ。
 と、まあそんな具合で、話は展開していき――、

『『…………』』

 唐突に黙り込む二人。
 音の出所は明らかに――音夢であり。
 先ほどの音は、どうきいても、放屁音といった感じだ。

 つまり、ここは――男の見せ所といった場面であり。
 呆然としていた、少年だったが、すぐに気を取り直したようすで、音夢のフォローをしようという気配を見せた。
 しかし、

『――うっ……』

 声を詰まらせる少年。
 その理由は――いわずもがなだろう。
 まあ、考えずらいだろうが。

 音夢の屁が――臭いのだ。
 彼女の屁は人よりも臭い。
 原因は、わかならいが。

 以前、健康診断にいかせたことがあったが、問題ないらしく。
 だというのに――なぜか、規格外に臭いのだった。

 ひょっとすると、スカンクの生まれ変わりかなんかだろうか。
 と、思ったこともあったりしたが、その話はさておき、

『ど、どうしたの……?』

 音夢がおずおずと、少年にたずねる。
 目を動揺で揺らし、明らかにうろたえているような様子だ。
 まあそれも――演技なわけだが。
 その様子に、少年は少し慌てると、

『あ、いや。その……、大丈夫? 体調とか、悪いのかな……、って……』

 おそらく、今すぐ鼻をつまみたいだろうに。
 少年はどうにか臭いをこらえながら返答する。
 それを受け、少女はぎこちない笑みを浮かべ、『うん……』とだけ返した。
 すると、

『けど……、あれだから。僕、そういうの気にしないし……。気を使わなくて大丈夫だからね』

 ああ、いい返答だ。
 俺はその台詞に、合格点をだす。
 というより、その言葉を待っていたというほうが正しいだろう。
 それに、このあとの展開を思えば、少年が気の毒に思えて。
 俺はおもわず――。

 やれやれ。
 いったん落ち着こう。
 そう思い、深呼吸する俺の眼前では、話がさらに展開しており。
 音夢が安堵するように、少年へ『ありがとう』と返し。
 その反応に、少年も安堵した様子で笑みを浮かべた。

 さて。
 これで、一件落着――とはいかないのが、俺の作ったシナリオだ。
 音夢はおずおずと口を開くと、

『それじゃあ……。もう少し、だしちゃっても……、いいかな?』

『……へ?』

 呆然とする少年。
 予想外の返答だったのだろう。
 あるいは、音夢の屁のキツさを知って、怖じ気ているのか――。
 しかし、少年は気を取り直すと、はっきりと頷いた。

『いいよ。我慢は体に悪いからね』

 その返答に、音夢は『そう……』とつぶやくと、

『ありがとう……』

 音夢はお礼の言葉を口にすると、少年の手を両手とも――ぎゅっ、と握った。
 その様子に、少年は驚愕したように目を見開き。
 さらに、音夢が手を握ったままなのを見て、その驚きは深いものとなっていく。
 ひょっとして、自分に好意があるのだろうか。
 と、少年は思ったことだろう。

 しかし、こちらの思惑はそういったことではなく――。
 音夢は少し恥ずかしそうに笑みを浮かべて言った。

『それじゃあ、ごめんね。もうちょっと、だすから……』

『え? ちょ――』

 ふっすううううぅぅううぅぅううぅぅ~~……

 それは。
 長く。長い、すかし。

 まるで聞いているこっちまで臭ってくるかのような音だ。
 そんな屁を音夢は少年の手をぐっと握ったまま放出し――、

『――うっ……!?!?』

 少年が苦しげな声をもらす。
 よっぽど強烈だったのだろう。
 一瞬、手を握られていることも忘れているかの様子で、自分の手を見て。
 手が動かせないことを理解する。

 思わず、鼻をつまもうとしたのだろう。
 しかし、それはかなわず、少年は漂う音夢の屁を思いっきり吸い込んでしまい、

『っ……、うっぷ……』

 くらりと、少年は白目を向きかけ、頭をゆらす。
 表情が真っ青といった具合で、今にも、胃の中身を吐き出してしまいそうな感じだ。
 しかし、音夢はそんな彼の様子に目を向けると――、

『ごめんね……』

『ぁ……、え……?』

 少年はぼやけた調子で返し、少しずつ我に返っていく。 
 そして、はっと、顔をあげたタイミングで、

『まだ、出そうなの……。いいよね?』

『ぁ……』

 むっすううううぅぅううぅぅううぅぅ~~……

 絶望感をにじませる少年の前で。
 音夢は再び、長いすかしっ屁を放出させた。
 そして、その臭いは――、

『おっ!! おええぇぇええぇぇっっ!!』

 少年は声だけを搾り出す。
 胃の中のものがあふれ出てくることはなかったが、ひたすら具合の悪そうな様子だ。

 と、そこで、少年は少し強引に、音夢の手を引き離そうとする。
 が、音夢の力が思いのほか強かったのか、腕は外れず、

『ぉお……! ぉねがぃ……!』

 少年が少し泣きそうな表情で言う。
 俺にはわかる。
 彼がなさけないのではなく、そうなってしまうほどに、音夢の屁がキツいのだ。
 しかし、地獄はまだ終わらない。
 音夢は無言のまま――『ふん』といきむと、

 ふ――っしゅううううぅぅううぅぅ~~……

 今度も、すかし。
 何度聞いても、ぞっとするような音だ。
 おそらく、毒ガスのような濃厚な腐卵臭が部屋の中にたまっているだろう。
 しかし、自分のものだからか、音夢は平然と、心なしか心地よさげに、ねっとりとした、ガスを放出させていた。
 と、そこでついに、

『――っ!』

 切羽詰ったような表情で、少年は腕を引いた。
 すると、どうにか音夢の手から腕がはずれ。
 彼は、涙目で鼻を押さえると、窓のほうへと急いだ。
 そして、少年は――ガラリ、と。窓をあけ、

『……ぇ?』

 呆然とする少年。
 その眼前に広がったのは――コンクリートだった。
 太陽の光だと思っていたものは、外の光をうまく再現されただけの、ただの人工的な光だったのだ。

 その先に、新鮮な酸素はどこにもなく。
 次に、少年はドアのほうへと急いだ。
 窓が開かないのならば、部屋をでればいい話なのである。
 しかし――、

『……ぁ?』

 ドアが、開かず、鍵を回したどころでびくともしない。
 それもそのはず。そのドアの鍵は、遠隔操作で管理しているのだから。
 俺の気が変わらない限り、少年が部屋から出ることはできない。

 と、そんな彼の、背後へ、

『――ひっ……!』

 するぅ、と。
 音夢は絡みつくように腕を回し、

『やっ、ゃめ……』

 ベッドの方へと少年を引きずった。
 音夢は、意外と力が強い。さらに、少年は臭いで力が抜けている状態だ。
 少年に勝ち目などあるはずもなく――。
 音夢は少年をベッドの上に仰向きで寝かせると、

『いったのに』

 音夢の言葉に、少年は『へ……?』と、疑問の表情を浮かべる。
 そんな彼へ、音夢は続けて言った。

『気にしない、って。いったのに……』

 悲しげなトーンでいう音夢。
 それを受け、少年は弁明をしようと、口を開こうとして、

『……?』

 少年は音夢の行動に、表情を硬くする。
 音夢が唐突に、少年へ尻を向けたのだった。
 そして、

『――むぐううぅぅっ……!』

 少年のくぐもった声。
 音夢が履いているスカートをめくり、尻で、彼の顔を下敷きにしたのだ。
 さらに、下着の生地に、先ほどの臭いが残っていたのだろう。
 尻の感触など、感じる暇すらなく、少年は地獄を味わっていることだろう。
 そんな彼へ、音夢は少しむっとした顔で『お仕置き』とだけ言うと、

 しゅ……すううぅぅ……ふすううううぅぅううぅぅ……

 これで何度目のすかしだろうか。
 というか、なぜだか知らないが、音夢の屁はほとんどが、すかしだ。
 面白いことに。
 そして、恐ろしいことに。
 すかしが臭いという説に、信憑性などはないのかもしれないが。

 まあ、それはそれとして――。
 音夢の屁の威力は間違いない。
 そのガスで、何人もの意識を沈めてきたのを、俺はこの目で見てきたのだ。
 そして、今回も――、

 むっすううううぅぅううぅぅ……しゅううううぅぅ~~……

 いつの間にか、少年は声をあげることなく。
 痙攣を繰り返していた。
 もう、虫の息といったところだ。

 それはそうだろう。
 先ほどまでのは、散った臭い。
 それで、彼は目を回していたのだ。
 鼻先にかまされては、ひとたまりもないだろう。
 だが、まだ終わりではない。

 すううううぅぅ~~……

 音夢は尻の位置を、もぞもぞと直すと、

 しゅううううぅぅ~~……

 あまりにも、ひどい。
 すかしっへだけで構成された。
 地獄のような責め。
 これは――、

 ふしゅうぅ……

 俺のシナリオではない。

 ふ――っすううぅぅ~~……

 俺がそうであるように。
 彼女もまた、俺とは違った種類の――サディストであり。
 俺と音夢は、互いに欲求を満たしあう関係なのである。

 むっすううううぅぅ~~……

 俺と彼女だけでは、満たせない。
 第三者が介入することで、ようやく空っぽの容器に、どろりとした熱が注がれていく。

 俺と音夢は、そんな。
 ゆがんだ関係で、繋がっているのである――。

 すっかああああぁぁああぁぁああああぁぁ~~……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

パンドラボックス

MEIRO
大衆娯楽
【注意】特殊な小説を書いています。下品注意なので、タグをご確認のうえ、閲覧をよろしくお願いいたします。・・・ 理解の難しい、奇妙で下品な箱のお話。

鎖の少年

MEIRO
大衆娯楽
【注意】特殊な小説を書いています。下品注意なので、タグをご確認のうえ、閲覧をよろしくお願いいたします。・・・特殊な女性が集まる、とあるお屋敷のお話です。

何もない部屋

MEIRO
大衆娯楽
【注意】特殊な小説を書いています。下品注意なので、タグをご確認のうえ、閲覧をよろしくお願いいたします。・・・ 何もない部屋に閉じ込められた少女の下品なお話。

変わりもの

MEIRO
大衆娯楽
【注意】特殊な小説を書いています。下品注意なので、タグをご確認のうえ、閲覧をよろしくお願いいたします。・・・ 変わり者で、下品な彼女のお話です。

モノクロ

MEIRO
大衆娯楽
【注意】特殊な小説を書いています。下品注意なので、タグをご確認のうえ、閲覧をよろしくお願いいたします。・・・ とある白黒の生物が獣人化している、とある世界でのお話です。

花畑の中の腐卵臭

MEIRO
大衆娯楽
【注意】特殊な小説を書いています。下品注意なので、タグをご確認のうえ、閲覧をよろしくお願いいたします。・・・ ドアの向こう側のお話です。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

お隣さんの、お話

MEIRO
大衆娯楽
【注意】特殊な小説を書いています。下品注意なので、タグをご確認のうえ、閲覧をよろしくお願いいたします。・・・ 壁の薄いアパート内で起きた、とある下品なお話です。

処理中です...