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第二章
隠しステージ
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「――どこだ、ここ」
シルクハットの少年が指を鳴らした瞬間、リックの視界には、見覚えのない空間が広がっていた。
先ほどまで、とある屋敷の中で、大金を賭けたダーツをやっていたはずなのだが、今彼がいるのは室内ですらなく――、
「……森?」
リックは周囲を見回しながら呟く。
辺りは木々に囲まれていた。空からは太陽の日がさしているが、その光は、沈んでいくように空の向こう側へと向かっており――早く森を抜け出さなければと、リックの焦燥感を煽っていく。
と、そこへ、草むらから何ものかが飛び出してくる。
が、リックはなぜか、そのものを上手く認識できなかった。目視しているはずなのだが、何らかの力によって、記憶に留めていられない――といった、よくわからない感じになっているのだ。
ひとまず、ぱっと見た感じ。
リックがわかるのは、そのものが人の形をしていること。
女性だということ。
だが、その腰からは、白黒の尻尾が生えていて、獣人なのかもしれない、ということ。
そして、逃げなければ――と。
リックが考えているうちに。
この空間にぞろぞろと、そのものと同様な様子の――六人の人影がやってくる。
「……ひっ」
その異様な様子に、思わず腰を抜かすリック。
するとすかさず、彼の身体を、六人のうちの一体が、地面へと押さえ込んでしまう。
「――んっ!? ぐぐっ!?」
仰向けに、もがくリック。
だがその抵抗もむなしく、六人のうちのもう一体が――むにゅ。
なにがしたいのか――りっくの顔に座ったのだった。
そうして、一体はリックの身体をおさえ、もう一体はリックの頭部を、尻でおさえ。
それだけで、リックは逃げることはできなくなってしまった。
だが、諦めるわけにはいかないと、リックはもがき続ける。
と、そこへ、
「――! ――――!」
リックの身体にしがみつく一体が、何かを叫んだかと思えば――、
~ ぷっすううぅぅ――ううぅぅ……
リックの目の前にある尻から、暖かな空気が漏れ出してきたのだった。
それはどう考えても――オナラの放出で。
しかし、それは唐突過ぎて、リックの思考は追いつかなかった。
そして、思わず息を吸い込んでしまった彼は――、
「――ああああ!!」
思わず叫ぶリック。
彼の鼻を通り抜けたのは、ねっとりと質量をもったかのような腐卵臭を凝縮したような臭いで、そのあまりの臭気に、リックはたまらず声をあげてしまったのだった。そして、このままもう一度――なんてこともありえる恐怖が、リックの精神を満たしていき、そんな彼の顔から、その一体は――尻を持ち上げた。
「……へ?」
リックの呼吸が少しだけ楽になる。
そこに、リックは砂粒のような、わずかな安堵を覚えた――が、そんな彼をあざ笑うかのように――むにゅ。
と、さらに別の一体がその顔の上にすわり――、
~ むすすううぅぅ――しゅううぅぅ……
またも――すかしっ屁。
そして、熱い風がリックへとまとわりついていき――、
「――ひぎゃああぁぁっ!?」
ガツンとくるような臭気による衝撃にリックは再び叫び声を上げ――そこへさらに。
別の一体が入れ替わるように――むにゅ。
そして――、
~ す――かああぁぁああぁぁ――ああぁぁ……
えげつない。
実にあんまりな、三連続のすかしっ屁。
その臭いの前にリックは――、
「……ぁっ。……ぁ、が」
あっというまに、暴れる力を失ってしまい、ぐったりとしながら、リックは怯えた。
もう、その臭いを嗅ぎたくない。
助けてくれ。
と、リックは目を閉じて。
心中で何かに祈る。
すると――すっ。と、身体と顔をおさえつけていた重さがなくなっていった。
「……?」
今度はなにが起きようとしているのだろう。
そんなふうにリックは注意をする。だが、警戒しつつも、ひょっとして、今度こそ、この臭い責めが終わるのではないだろうか、と淡い期待を抱きながら――ふと、リックはあることを思い出す。
それは、この場所に来る前に――シルクハットの少年に言われた言葉だった。
借金を――そのぶんの臭い責めを受けることで、許してもらえると。そんな――嘘みたいな甘い話だ。
だが、リックはそれにすがるしかなかった。
お金なんてないのに、一生かけても返せるかもわからないような大金を借金してしまったせいで、リックはその話に乗っかるしかなかったのだった。
そして、それが本当なら、確かに――甘い。と、リックはそう思う。
強烈な臭いを嗅いだ今でもそう思うぐらい。
お金を稼ぐというのは大変なことだと、リックは感じていた。
だったら。
シルクハットの少年が行っていたことが本当なのだとしたら。 もしこのぐらいのことで、お金が返せるのだったら――と。
リックは気持ちを持ち直していく。
それなら約束どおり、この罰を甘んじて受けよう。
そう思って目を開けたリックを、絶望感が満たした。
リックの顔を囲むように、六体ぶんの尻がこちらを向いていたからだ。
そして、その中の一人が今、リックの顔へ尻を向け、その腹の上へと座った。
周囲には囲むようにすわる六体。
今思い出した――臭い責め、というワード。
それらに、リックは恐怖で震えた。
が、臭いの方は、一向にこない。
どういうことなのだろうか――と思ったリックだったが。
リックは恐怖が薄らぎ、クリアになっていく意識の中で、六人が――雑談のようなことをしていることに気づいた。
リックをそっちのけで。
まるで臭い責めなどするような素振りをみせず。
力がぬけ、怯えるリックを囲むように、彼女たち(?)は会話をしていた。
相変わらず、リックの思考に、その者たちの情報が入ってこない。
そんなわけのわからない感覚を覚えながら。
先ほどの臭いもすっかり薄まった今。
リックはほっと、息をはいた。
安心、というほどでもない。
ぎちぎちに張り詰めていたものをほんの少しだけ、解いた程度。
そのぐらいは許されてもいいだろう、と思えるような程度に、リックはわずかな安堵をし――すぐにリックは気を引き締めなおす。
気が緩みきっているどころに、先ほどのようなのをくらわされてはと、背に冷たいものが走ったからだ。
が――一向に、臭いはこなかった。
気づけば、臭いでくらくらしていた意識も回復していて、身体は、しっかりと力が入るようになっていた。
それに気づいた瞬間――リックの考えが変わった。
観念し、覚悟を決めようとしていたリックだったが、今リックを押さえつけているのは、お腹に乗っている一体だけだ。
今、全力で暴れれば、ここから抜け出せるかもしれない。
そう思って、リックが起き上がろうと力を込めた瞬間――、
~ ふしゅううぅぅううぅぅ……
「――が、はあっ!?」
一方の尻から、暖かな風が吹き、その臭いを嗅いだリックが声をあげた。
別のところに意識を向けているタイミングに、その腐卵臭は放出され、リックの思考をばちばちとはじけさせ、嗅ぎ方が悪かったのもあり、リックはそのまま――目を回してしまう。
しかしそれ以降、またもや臭いの放出はやみ。
しばらくして、リックの意識は再び回復し、やはり逃げ出してみようと、リックは気持ちを高ぶらせた。
そして今度は、先ほどの失敗を生かし――息を止めてから。
「――ぐぬぬああぁぁっ!」
起き上がろうとするリック。
それに気づいた六体のうち三体が、リックの身体を押さえつけようとし、残りの三体は――、
~ ぷしゅ――しゅううぅぅううぅぅ……
~ もふすううぅぅ――ううぅぅ……
~ むっすうう――ううぅぅぅぅ……
どうやら、息を止める、というリックの選択は正解だったようで。
しかし、このままぬけだせなければ――と。
その恐怖が、リックの内心に焦燥感を加えていく。
だが――身体を押さえる三体の力が、思いのほか強く。
「――っ!?!?!? あぎゃあああああああああああああああああ!」
息を吸い込んだリックは、鼻に感じたあまりの臭いに叫んだ。
そして、彼の力が弱りきったのを確認すると、その身体を抑えていた三体も、元の体制に戻り、
~ ぷううぅぅううぅぅっ!
だめ押しの一発が、一方から放出された。
そして再び、
「……ぁ、……っ」
リックは虫の息になり、その目から、涙をこぼしたのだった。
それからまた、六体はしばらく雑談をはじめ。
しばらくして――少しずつ回復していくリックの意識を、
~ ぷううぅぅううぅぅ
と、静めていき。
さらに、もうしばらくして。
再び回復していく、リックの意識を、
~ ぶむぶおおぉぉおおぉぉ!
それから、さらにもうしばらくしたあと、
~ す――すううぅぅううぅぅううぅぅ……
まるで、拷問のように、リックの意識を。
あげては、沈め。
あげては、沈めていく。
そうして――リックの心が完全に折れたころ。
六体のうちがの一体が、他のものをまとめるように、話し始めた。そのことに、そこはかとなく不穏なものを感じたリックは、身体をぶるぶると震わせるが、逃げ出すような気力はもうない。
そんな彼へ――じりっ。
と、六体はその輪を、をさらに縮め、リックの顔と尻の距離を詰めていく。
これから――本番と、いわんばかりの圧迫感。
その空気を前に、リックはさらに涙をこぼし、祈った。
助けて。
助けて。
助けて――。
そしてそんな彼へ、六方向からの尻はまっすぐに向けられ――。
――――――。
――――。
――。
+ + + + + +
「――お疲れ様です」
穏やかな笑みを浮べながら、シルクハットの少年は、古時計のような形をした置物をぱかっと、引いてあけながら言う。
すると、そこにはリックの姿があり、彼の身体は力なく、ごろりと床へ転がった。
それとともに、置物の中から――むわぁ、とした空気が部屋へと広がり、その腐卵臭のようなその臭気に、シルクハットの少年は少し表情を歪め、小さく笑うと、
「どうでしたか、リックさん? 少女たちのガスの香りは」
床に転がるリックに尋ねるが、彼はすっかり伸びてしまっている。
だが、シルクハットの少年は会話を楽しむように、続けた。
「今回は……、この台、細工をしてあったんですけど。やはり、気づきませんでしたね。不正を暴けば、それだけで僕の負けだったのに」
そう言って、シルクハットの少年は置物の開いた部分を閉じると、ダーツの的のようになっているところに刺さったままのダーツの矢を三本抜き、そこから二メートル弱の距離をとった。
そして、三本のダーツのうち、二本を8のトリプルへと真っ直ぐに投げ――そのさい、台が位置を調整するように、少しだけずれた。
それを確認すると、シルクハットの少年は、くっくっ、と笑い、
「こんなにはっきりと動いていたのに……。やはり、プレッシャーというのは、人の視野を狭くするようですね」
少年はやれやれと言った風に肩をすくめると、
「まあこんな仕掛けがなくとも――」
三本目のダーツを――ダブルブルの位置へと真っ直ぐ投げ、
「僕のシナリオがぶれることは、ないんですけどね」
仕掛けは作動しておらず、まぐれではない様子で、シルクハットの少年は、リックへとにこやかに笑いかけたのだった。
シルクハットの少年が指を鳴らした瞬間、リックの視界には、見覚えのない空間が広がっていた。
先ほどまで、とある屋敷の中で、大金を賭けたダーツをやっていたはずなのだが、今彼がいるのは室内ですらなく――、
「……森?」
リックは周囲を見回しながら呟く。
辺りは木々に囲まれていた。空からは太陽の日がさしているが、その光は、沈んでいくように空の向こう側へと向かっており――早く森を抜け出さなければと、リックの焦燥感を煽っていく。
と、そこへ、草むらから何ものかが飛び出してくる。
が、リックはなぜか、そのものを上手く認識できなかった。目視しているはずなのだが、何らかの力によって、記憶に留めていられない――といった、よくわからない感じになっているのだ。
ひとまず、ぱっと見た感じ。
リックがわかるのは、そのものが人の形をしていること。
女性だということ。
だが、その腰からは、白黒の尻尾が生えていて、獣人なのかもしれない、ということ。
そして、逃げなければ――と。
リックが考えているうちに。
この空間にぞろぞろと、そのものと同様な様子の――六人の人影がやってくる。
「……ひっ」
その異様な様子に、思わず腰を抜かすリック。
するとすかさず、彼の身体を、六人のうちの一体が、地面へと押さえ込んでしまう。
「――んっ!? ぐぐっ!?」
仰向けに、もがくリック。
だがその抵抗もむなしく、六人のうちのもう一体が――むにゅ。
なにがしたいのか――りっくの顔に座ったのだった。
そうして、一体はリックの身体をおさえ、もう一体はリックの頭部を、尻でおさえ。
それだけで、リックは逃げることはできなくなってしまった。
だが、諦めるわけにはいかないと、リックはもがき続ける。
と、そこへ、
「――! ――――!」
リックの身体にしがみつく一体が、何かを叫んだかと思えば――、
~ ぷっすううぅぅ――ううぅぅ……
リックの目の前にある尻から、暖かな空気が漏れ出してきたのだった。
それはどう考えても――オナラの放出で。
しかし、それは唐突過ぎて、リックの思考は追いつかなかった。
そして、思わず息を吸い込んでしまった彼は――、
「――ああああ!!」
思わず叫ぶリック。
彼の鼻を通り抜けたのは、ねっとりと質量をもったかのような腐卵臭を凝縮したような臭いで、そのあまりの臭気に、リックはたまらず声をあげてしまったのだった。そして、このままもう一度――なんてこともありえる恐怖が、リックの精神を満たしていき、そんな彼の顔から、その一体は――尻を持ち上げた。
「……へ?」
リックの呼吸が少しだけ楽になる。
そこに、リックは砂粒のような、わずかな安堵を覚えた――が、そんな彼をあざ笑うかのように――むにゅ。
と、さらに別の一体がその顔の上にすわり――、
~ むすすううぅぅ――しゅううぅぅ……
またも――すかしっ屁。
そして、熱い風がリックへとまとわりついていき――、
「――ひぎゃああぁぁっ!?」
ガツンとくるような臭気による衝撃にリックは再び叫び声を上げ――そこへさらに。
別の一体が入れ替わるように――むにゅ。
そして――、
~ す――かああぁぁああぁぁ――ああぁぁ……
えげつない。
実にあんまりな、三連続のすかしっ屁。
その臭いの前にリックは――、
「……ぁっ。……ぁ、が」
あっというまに、暴れる力を失ってしまい、ぐったりとしながら、リックは怯えた。
もう、その臭いを嗅ぎたくない。
助けてくれ。
と、リックは目を閉じて。
心中で何かに祈る。
すると――すっ。と、身体と顔をおさえつけていた重さがなくなっていった。
「……?」
今度はなにが起きようとしているのだろう。
そんなふうにリックは注意をする。だが、警戒しつつも、ひょっとして、今度こそ、この臭い責めが終わるのではないだろうか、と淡い期待を抱きながら――ふと、リックはあることを思い出す。
それは、この場所に来る前に――シルクハットの少年に言われた言葉だった。
借金を――そのぶんの臭い責めを受けることで、許してもらえると。そんな――嘘みたいな甘い話だ。
だが、リックはそれにすがるしかなかった。
お金なんてないのに、一生かけても返せるかもわからないような大金を借金してしまったせいで、リックはその話に乗っかるしかなかったのだった。
そして、それが本当なら、確かに――甘い。と、リックはそう思う。
強烈な臭いを嗅いだ今でもそう思うぐらい。
お金を稼ぐというのは大変なことだと、リックは感じていた。
だったら。
シルクハットの少年が行っていたことが本当なのだとしたら。 もしこのぐらいのことで、お金が返せるのだったら――と。
リックは気持ちを持ち直していく。
それなら約束どおり、この罰を甘んじて受けよう。
そう思って目を開けたリックを、絶望感が満たした。
リックの顔を囲むように、六体ぶんの尻がこちらを向いていたからだ。
そして、その中の一人が今、リックの顔へ尻を向け、その腹の上へと座った。
周囲には囲むようにすわる六体。
今思い出した――臭い責め、というワード。
それらに、リックは恐怖で震えた。
が、臭いの方は、一向にこない。
どういうことなのだろうか――と思ったリックだったが。
リックは恐怖が薄らぎ、クリアになっていく意識の中で、六人が――雑談のようなことをしていることに気づいた。
リックをそっちのけで。
まるで臭い責めなどするような素振りをみせず。
力がぬけ、怯えるリックを囲むように、彼女たち(?)は会話をしていた。
相変わらず、リックの思考に、その者たちの情報が入ってこない。
そんなわけのわからない感覚を覚えながら。
先ほどの臭いもすっかり薄まった今。
リックはほっと、息をはいた。
安心、というほどでもない。
ぎちぎちに張り詰めていたものをほんの少しだけ、解いた程度。
そのぐらいは許されてもいいだろう、と思えるような程度に、リックはわずかな安堵をし――すぐにリックは気を引き締めなおす。
気が緩みきっているどころに、先ほどのようなのをくらわされてはと、背に冷たいものが走ったからだ。
が――一向に、臭いはこなかった。
気づけば、臭いでくらくらしていた意識も回復していて、身体は、しっかりと力が入るようになっていた。
それに気づいた瞬間――リックの考えが変わった。
観念し、覚悟を決めようとしていたリックだったが、今リックを押さえつけているのは、お腹に乗っている一体だけだ。
今、全力で暴れれば、ここから抜け出せるかもしれない。
そう思って、リックが起き上がろうと力を込めた瞬間――、
~ ふしゅううぅぅううぅぅ……
「――が、はあっ!?」
一方の尻から、暖かな風が吹き、その臭いを嗅いだリックが声をあげた。
別のところに意識を向けているタイミングに、その腐卵臭は放出され、リックの思考をばちばちとはじけさせ、嗅ぎ方が悪かったのもあり、リックはそのまま――目を回してしまう。
しかしそれ以降、またもや臭いの放出はやみ。
しばらくして、リックの意識は再び回復し、やはり逃げ出してみようと、リックは気持ちを高ぶらせた。
そして今度は、先ほどの失敗を生かし――息を止めてから。
「――ぐぬぬああぁぁっ!」
起き上がろうとするリック。
それに気づいた六体のうち三体が、リックの身体を押さえつけようとし、残りの三体は――、
~ ぷしゅ――しゅううぅぅううぅぅ……
~ もふすううぅぅ――ううぅぅ……
~ むっすうう――ううぅぅぅぅ……
どうやら、息を止める、というリックの選択は正解だったようで。
しかし、このままぬけだせなければ――と。
その恐怖が、リックの内心に焦燥感を加えていく。
だが――身体を押さえる三体の力が、思いのほか強く。
「――っ!?!?!? あぎゃあああああああああああああああああ!」
息を吸い込んだリックは、鼻に感じたあまりの臭いに叫んだ。
そして、彼の力が弱りきったのを確認すると、その身体を抑えていた三体も、元の体制に戻り、
~ ぷううぅぅううぅぅっ!
だめ押しの一発が、一方から放出された。
そして再び、
「……ぁ、……っ」
リックは虫の息になり、その目から、涙をこぼしたのだった。
それからまた、六体はしばらく雑談をはじめ。
しばらくして――少しずつ回復していくリックの意識を、
~ ぷううぅぅううぅぅ
と、静めていき。
さらに、もうしばらくして。
再び回復していく、リックの意識を、
~ ぶむぶおおぉぉおおぉぉ!
それから、さらにもうしばらくしたあと、
~ す――すううぅぅううぅぅううぅぅ……
まるで、拷問のように、リックの意識を。
あげては、沈め。
あげては、沈めていく。
そうして――リックの心が完全に折れたころ。
六体のうちがの一体が、他のものをまとめるように、話し始めた。そのことに、そこはかとなく不穏なものを感じたリックは、身体をぶるぶると震わせるが、逃げ出すような気力はもうない。
そんな彼へ――じりっ。
と、六体はその輪を、をさらに縮め、リックの顔と尻の距離を詰めていく。
これから――本番と、いわんばかりの圧迫感。
その空気を前に、リックはさらに涙をこぼし、祈った。
助けて。
助けて。
助けて――。
そしてそんな彼へ、六方向からの尻はまっすぐに向けられ――。
――――――。
――――。
――。
+ + + + + +
「――お疲れ様です」
穏やかな笑みを浮べながら、シルクハットの少年は、古時計のような形をした置物をぱかっと、引いてあけながら言う。
すると、そこにはリックの姿があり、彼の身体は力なく、ごろりと床へ転がった。
それとともに、置物の中から――むわぁ、とした空気が部屋へと広がり、その腐卵臭のようなその臭気に、シルクハットの少年は少し表情を歪め、小さく笑うと、
「どうでしたか、リックさん? 少女たちのガスの香りは」
床に転がるリックに尋ねるが、彼はすっかり伸びてしまっている。
だが、シルクハットの少年は会話を楽しむように、続けた。
「今回は……、この台、細工をしてあったんですけど。やはり、気づきませんでしたね。不正を暴けば、それだけで僕の負けだったのに」
そう言って、シルクハットの少年は置物の開いた部分を閉じると、ダーツの的のようになっているところに刺さったままのダーツの矢を三本抜き、そこから二メートル弱の距離をとった。
そして、三本のダーツのうち、二本を8のトリプルへと真っ直ぐに投げ――そのさい、台が位置を調整するように、少しだけずれた。
それを確認すると、シルクハットの少年は、くっくっ、と笑い、
「こんなにはっきりと動いていたのに……。やはり、プレッシャーというのは、人の視野を狭くするようですね」
少年はやれやれと言った風に肩をすくめると、
「まあこんな仕掛けがなくとも――」
三本目のダーツを――ダブルブルの位置へと真っ直ぐ投げ、
「僕のシナリオがぶれることは、ないんですけどね」
仕掛けは作動しておらず、まぐれではない様子で、シルクハットの少年は、リックへとにこやかに笑いかけたのだった。
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