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第一章

それはあくまでも

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「ん?」

 プリルが少し驚いたように顔を上げる。
 他の面々も、同じような反応をしていた。
 ――二人を除いて。

「ああ、今のは……」

「……すかしっぺに……なっちゃった……」

 シルクハットの少年の言葉を、ポーラが引き継いだ。
 彼女の唐突な告白に、少女たちは驚――くことはなかった。
 少女たちは落ち着いた様子で、なるほど、とそれぞれ納得の表情を浮かべている。
 先ほど二度鳴ったときもそうだったが、慌てていたのはエレナだけで、その生理現象を深刻なものとして捉えるものは、この場にはいないらしい。

「別に、謝ることはないでしょ」

 プリルが微笑みながら言う。

「確かに。ロゼリアやメリッサみたいに誤魔化したりしないし、白状してくれただけ、気分がいいよ」

 エレナが「うんうん」とうなずいていると、「あら」とメリッサが反応した。

「ミステリアスなほうが、魅力があっていいじゃない」

「ミステリアスって……」

 エレナはげんなりとした顔で肩を落とす。
 彼女は何か言いたげにメリッサを見るが、話を流すことにしたらしく、結局何も言うことなく黙り込んだ。

「ところで、エレナ。調子はどう? そろそろ頃合なんじゃないの?」

「え? ……あ、うん……まあ……」

 エレナはそう言ってロゼリアへ向けた目を逸らし、泳がせる。そして、何かに気づいたように「はっ」と声を漏らした。

「そ、そういえば! ベランカもまだ――」

 ~ ぶっ! ぼぶううぅぅううぅぅうう、ぶびびぃ!

 豪快な音が、部屋の中に響き渡っていく。

 * 『カチッ』

 それは、ベランカのお尻の下からの音だった。

「ごめんなさい、エレナ。いま、わたしの名前を呼ばなかった?」

「……い、いや。なんでもないよ」

 エレナはそれだけ言うと、引き下がってしまう。
 不思議そうに首をかしげるベランカ。だが、エレナはそれいじょう何もいえず、無言でうつむいてしまった。
 羞恥心からか、その顔がじんわりと赤く染まり、息が荒くなっていく。
 と――そこに、

「エレナ」

「っ――はい!」

 シルクハットの少年に呼ばれ、エレナは慌てたように顔を上げる。
 その反応に、彼は両手を上げてジェスチャーし、彼女へ落ちつくよう促す。

「そんなにかしこまらなくてもいいよ、たいしたことを言うつもりもないし。……いや、なんて言うか、きみはまだここにきて日が浅いだろ? 色々と、戸惑うことが多いんじゃないかな、と思ってね」

「それは……」

「おまけにここは、変な場所だから、馴染むのに時間がかかるのは当たり前のことだよ」

「あ、いや……」

 自分でそれを言うのか――と、そういいたげにエレナは複雑そうな表情を浮かべる。
 そんな彼女の反応を見て、シルクハットの少年は可笑しそうに薄く笑った。

「けど、無理をする必要なはないんだよ。まあ、エレナは真面目な性格だからね。頑張ろうとしてしまうんだろうけどさ。そんなに気を張らなくても、きみなら大丈夫だよ」

 自身ありげにそう言い切る彼に、エレナは「あ、あのー……」と少し遠慮するように口を開く。

「……いやぁ。ちょっと、いいずらいんだけど。別に、心配されるほど悩んでるわけじゃないんだ。少し……恥ずかしかっただけで……」

「ああ」

 シルクハットの少年は納得したような表情を浮かべると、安堵するように息を吐いた。

「なるほど。てっきり落ち込んでるのかと思ったけど、ぼくの早とちりだったみたいだね」

「うん、そうみたい」

 そう言いつつも、やはり緊張していたのか、エレナは穏やかに笑いながら、肩にかかっていた力を抜いた。
 彼女の様子にか、場に安堵のような気配があり、弛緩したような空気が流れていく。
 そして――

 ~ ぷううぅぅ……ぅぅううぅぅ……ぷうっ!

 * 『カチッ』

 波打つような長めの音が聞こえ、視線がいっせいに――音のした方へと集まった。
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