58 / 62
番外編 神様に、ありがとう。
番外編 神様に、ありがとう。 ②
しおりを挟む
ポトフを深皿に注ぎながら、ニヤニヤと水樹さんは言う。
汚れないように肩にネクタイをあげているのが手慣れてみえる。
「そりゃあ寂しいな」
侑哉が明美先生の家に入り浸りなのは確かに寂しい。
寂しいと思うのは、一軒家に自分しかいないからかもしれない。
「みなみも俺と住めよ」
「なっ ええ!?」
「一緒に住めたら、毎日甘やかしてやるのに」
み、水樹さん、甘やかすのも徹底的でスパルタのくせに。
いつも怖くて厳しいイメージがある人が、膝枕したり一緒にお風呂をねだってきたり、あーんって食べさせてくれたり。
甘やかすのは佑哉がいるから慣れてるけど、甘やかされるのは慣れてない。
「みなみはもっと人に甘えるべき。ってか俺だけでもいいけど」
「だって、そんな無理です。無理! 真くんだって居るし!」
「真にはちゃーんと、俺はみなみに惚れてるって伝えてる」
「!?」
なんて用意周到なんだろう。
この人、真くんから固めていくつもりだ。
「さ、姫。そこに座れ座れ」
『姫』と言うわりには随分ぞんざいな扱いだけど、私が姫なら、この口の悪い人は王子さまなのか。
そう思っていたら、水樹さんが椅子を引いてくれたので、警戒しながらも座る。
そして上機嫌の水樹さんは次々とご飯を並べ始めた。
「わ、可愛い……」
デミグラスソースに沈むチキンライスは熊の顔で、卵がお布団のように乗っている。
ポトフに入っているニンジンはハートやお花の形。
極めつけは手作りプリンに刺さる旗。
「可愛いだろ。真用にこんなのならサッと作れるんだぞ」
た、確かに可愛いしスーツ姿でテキパキ作ったのが想像できる。
うちの侑哉は炒める系の男らしい料理が多いからこんな細かいのはできない。
……私もだけど。
「これって私が『部長は料理できないんじゃないですか?』って聞いたからですか?」
「――もちろん。俺は仕事も家事もとことんやるからな。隙はねーよ?」
う。意外と根に持ってる。
以前有沢さんが水樹さんを『家事は全部彼女にやらせてた』って言ってたから、引っ越し先がマンションだった時に『料理できないんじゃ……』と驚いたのが発端か。
私と水樹さんの中で、有沢さんは格好いいけど空気が読めない最低男の総称だと決まった。
それにしても、こんな手の込んだ料理を水樹さんが作るなんて。
自然と笑みが浮かんでくる。
「何をクスクス笑ってんだ。早く食え。俺が食べれねーだろ」
「ふふ。だって」
そう笑っていたら、水樹さんは横の椅子を引いて座る。
「あの水樹さん、」
「――ん?」
サラサラと音がなりそうな髪を揺らして、首を傾げて私を甘く見つめてくる。
「普通、向かいに座りませんか?」
「こっちの方が距離が近いだろ」
同期や水樹さんに怒鳴られていた同じ営業課の皆に見せてやりたい。
実はこんなに水樹さんは優しい人なんだと。
「早く食べろ。見ててやるから」
「~~余計食べれませんよ!」
やっぱり。
こんなに水樹さんが素敵な人だというのは皆に内緒。
一人占めしたい。
……なんて。
私が食べ終わるのを、水樹さんは缶ビール片手に本当に見るだけだった。
「食べないんですか?」
「今食べたら眠る。すげー疲れててさ」
やっぱり家を継ぐのって大変なんだろうな。
水樹さん、それでも疲れた顔しないでいつも優しくて。
ずるい。
一人だけ頑張ってずるい。
弱いところ見せてくれたっていいのに。
「私、私が洗い物しますから水樹さん、着替えて楽にしてて下さいね」
……少しでも負担を軽くしてあげたい。
私が水樹さんに助けられた時のように。
お皿を洗い、布巾で拭いていると『まことせんよう』と書かれたふりかけや、熊や戦隊物のコップなどが目に入ってくる。
それが、可愛くて自然と顔が綻ぶ。
水樹さんと真くんの存在があちこちに見え隠れするこの空間。
……私もいつか入っていいのかな。
そう考えると少し切なくなった。
「水樹さん、終わりまし……」
パタパタとスリッパの音を響かせていたのを止め、脱いて水樹さんのそばに近寄る。
リビングのソファで、ネクタイを脱ぎかけたその手のまま。
――水樹さんは気持ち良さそうに眠っていた。
汚れないように肩にネクタイをあげているのが手慣れてみえる。
「そりゃあ寂しいな」
侑哉が明美先生の家に入り浸りなのは確かに寂しい。
寂しいと思うのは、一軒家に自分しかいないからかもしれない。
「みなみも俺と住めよ」
「なっ ええ!?」
「一緒に住めたら、毎日甘やかしてやるのに」
み、水樹さん、甘やかすのも徹底的でスパルタのくせに。
いつも怖くて厳しいイメージがある人が、膝枕したり一緒にお風呂をねだってきたり、あーんって食べさせてくれたり。
甘やかすのは佑哉がいるから慣れてるけど、甘やかされるのは慣れてない。
「みなみはもっと人に甘えるべき。ってか俺だけでもいいけど」
「だって、そんな無理です。無理! 真くんだって居るし!」
「真にはちゃーんと、俺はみなみに惚れてるって伝えてる」
「!?」
なんて用意周到なんだろう。
この人、真くんから固めていくつもりだ。
「さ、姫。そこに座れ座れ」
『姫』と言うわりには随分ぞんざいな扱いだけど、私が姫なら、この口の悪い人は王子さまなのか。
そう思っていたら、水樹さんが椅子を引いてくれたので、警戒しながらも座る。
そして上機嫌の水樹さんは次々とご飯を並べ始めた。
「わ、可愛い……」
デミグラスソースに沈むチキンライスは熊の顔で、卵がお布団のように乗っている。
ポトフに入っているニンジンはハートやお花の形。
極めつけは手作りプリンに刺さる旗。
「可愛いだろ。真用にこんなのならサッと作れるんだぞ」
た、確かに可愛いしスーツ姿でテキパキ作ったのが想像できる。
うちの侑哉は炒める系の男らしい料理が多いからこんな細かいのはできない。
……私もだけど。
「これって私が『部長は料理できないんじゃないですか?』って聞いたからですか?」
「――もちろん。俺は仕事も家事もとことんやるからな。隙はねーよ?」
う。意外と根に持ってる。
以前有沢さんが水樹さんを『家事は全部彼女にやらせてた』って言ってたから、引っ越し先がマンションだった時に『料理できないんじゃ……』と驚いたのが発端か。
私と水樹さんの中で、有沢さんは格好いいけど空気が読めない最低男の総称だと決まった。
それにしても、こんな手の込んだ料理を水樹さんが作るなんて。
自然と笑みが浮かんでくる。
「何をクスクス笑ってんだ。早く食え。俺が食べれねーだろ」
「ふふ。だって」
そう笑っていたら、水樹さんは横の椅子を引いて座る。
「あの水樹さん、」
「――ん?」
サラサラと音がなりそうな髪を揺らして、首を傾げて私を甘く見つめてくる。
「普通、向かいに座りませんか?」
「こっちの方が距離が近いだろ」
同期や水樹さんに怒鳴られていた同じ営業課の皆に見せてやりたい。
実はこんなに水樹さんは優しい人なんだと。
「早く食べろ。見ててやるから」
「~~余計食べれませんよ!」
やっぱり。
こんなに水樹さんが素敵な人だというのは皆に内緒。
一人占めしたい。
……なんて。
私が食べ終わるのを、水樹さんは缶ビール片手に本当に見るだけだった。
「食べないんですか?」
「今食べたら眠る。すげー疲れててさ」
やっぱり家を継ぐのって大変なんだろうな。
水樹さん、それでも疲れた顔しないでいつも優しくて。
ずるい。
一人だけ頑張ってずるい。
弱いところ見せてくれたっていいのに。
「私、私が洗い物しますから水樹さん、着替えて楽にしてて下さいね」
……少しでも負担を軽くしてあげたい。
私が水樹さんに助けられた時のように。
お皿を洗い、布巾で拭いていると『まことせんよう』と書かれたふりかけや、熊や戦隊物のコップなどが目に入ってくる。
それが、可愛くて自然と顔が綻ぶ。
水樹さんと真くんの存在があちこちに見え隠れするこの空間。
……私もいつか入っていいのかな。
そう考えると少し切なくなった。
「水樹さん、終わりまし……」
パタパタとスリッパの音を響かせていたのを止め、脱いて水樹さんのそばに近寄る。
リビングのソファで、ネクタイを脱ぎかけたその手のまま。
――水樹さんは気持ち良さそうに眠っていた。
0
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説
会うたびに、貴方が嫌いになる
黒猫子猫(猫子猫)
恋愛
長身の王女レオーネは、侯爵家令息のアリエスに会うたびに惹かれた。だが、守り役に徹している彼が応えてくれたことはない。彼女が聖獣の力を持つために発情期を迎えた時も、身体を差し出して鎮めてくれこそしたが、その後も変わらず塩対応だ。悩むレオーネは、彼が自分とは正反対の可愛らしい令嬢と親しくしているのを目撃してしまう。優しく笑いかけ、「小さい方が良い」と褒めているのも聞いた。失恋という現実を受け入れるしかなかったレオーネは、二人の妨げになるまいと決意した。
アリエスは嫌そうに自分を遠ざけ始めたレオーネに、動揺を隠せなくなった。彼女が演技などではなく、本気でそう思っていると分かったからだ。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
裏切りの先にあるもの
マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。
結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。
王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?
ねーさん
恋愛
公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。
なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。
王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる