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四 あの夜のこと
四 あの夜のこと 九
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明美先生が私に会いに来たのは、侑哉が家に居るんではないかと思ってたから。
どこかで侑哉が自分に気があると分かっていて、慰めてもらおうとしただけ。
侑哉が労わるように明美先生の肩を支えたのを見て、携帯を落とした私を、
煙草を吸いながら、玄関の外から見ているのは、部長。
それで気づかれたと思う。
私の悲惨な顔を部長はしっかりと見つめてきたから。
ばれ、た。
――ばれた。
私は、明美先生に酷い顔を向けていたはずだ。
――侑哉を取らないでって悲痛にも似た顔で。
「お前ら、邪魔。通れん」
「げっ」
「真君のお父さん!!」
「――あっち、借りたいんだけど?」
部長は無表情で、携帯を落として呆然としている私を指さした。
どうしていいのか、どこに逃げていいのか分からなくて固まる私を。
「は!? ダメだし」
「――お前には聞いてないけど?」
侑哉の横を擦り向けながら、部長は冷ややかに一瞥した。
「おねーちゃんが大切なら、その子置いて追いかけて来い」
「部長!」
手を握られ、そのまま引っ張られると靴を履くように顎で指示された。
「みなみ……」
侑哉の声は迷って揺れていた。
私の心も迷って揺れている。
部長は舌打ちすると、適当なサンダルを選び私と共に車に乗せる。
あの夜のことが思い出されたけれど。
現実は、意地悪だった。
神さまなんて居ないから意地悪だ。
疲れがピークに達していたから、上手く思考が回らないんだ。
部長の車はどんどん坂を上り、ラブホがちらちらと視界に入る中、高速に乗った。
そっか高速道路の回りって、ラブホ多いもんね、とか
もう自分の考えている事の意味さえ分からない。
明美先生の肩を労わるように支える侑哉は、普通の恋する男の子なはず。
なのに私は、ぐらぐらと視界が揺れた。
不安でお腹が痛くなった。
痛くなったのは、あの支えてくれる腕は私のものだと、醜い感情が浮かんだからだ。
明美先生がポロポロ泣くのを見ながら、『侑哉にしときなよ』そう言いたかったのに声を出せなかった私が居た。
明美先生ももしかしたらその言葉を待っていたのかもしれない。
「お腹、痛いです……」
無言の部長は、前をずっと見ている。
私を見ようとはしない。
「そう言ったら弟君は心配してくれるわけか」
ハッと馬鹿にするように笑うと、すぐに見えるパーキングに車を止めた。
夜だから人は疎らなのに、その疎らな人たちは大体カップルで、寄り添うように夜景を見ている。
ここのパーキングって夜景スポットなのかな?
そうぼんやり考えていたら、車から降りた部長が素早く私の方へ回り、ドアを開けてサンダルを履かせてくれた。
跪くように恭しく私に履かせてくれる部長に、私は簡単にときめいた。
長い指先が、私の足に触れて、
威圧的だけど整っている部長の顔を見下ろして、
簡単に私を浚ってしまった部長に。
そんなの、神様が許しても私には許されないはず。
「お前ら、デキてんの?」
「えっ?」
ごほっと咳き込みながら立ち上がると、部長は私に手を差し出す。
まだ熱も下がってないのかもしれないのに、会いに来てくれたんじゃないのかなって勝手に胸がドキドキしてしまう。
身勝手な私の鼓動に、本当に呆れてしまう。
丁度、月夜を背に手を伸ばすので、深い陰の中、じっと私を見る目が印象的に浮かび上がっている。
その手を取るのを、部長が待っていた。
「キスが嫌だったとかガキみたいなこと、言うなよ?」
「言い、言いませんよ!」
「キスの返事を貰おうと思ったら、あんな表情見せられるんだから腹が立った。お前ら、できてんの? ってかヤッた?」
どこかで侑哉が自分に気があると分かっていて、慰めてもらおうとしただけ。
侑哉が労わるように明美先生の肩を支えたのを見て、携帯を落とした私を、
煙草を吸いながら、玄関の外から見ているのは、部長。
それで気づかれたと思う。
私の悲惨な顔を部長はしっかりと見つめてきたから。
ばれ、た。
――ばれた。
私は、明美先生に酷い顔を向けていたはずだ。
――侑哉を取らないでって悲痛にも似た顔で。
「お前ら、邪魔。通れん」
「げっ」
「真君のお父さん!!」
「――あっち、借りたいんだけど?」
部長は無表情で、携帯を落として呆然としている私を指さした。
どうしていいのか、どこに逃げていいのか分からなくて固まる私を。
「は!? ダメだし」
「――お前には聞いてないけど?」
侑哉の横を擦り向けながら、部長は冷ややかに一瞥した。
「おねーちゃんが大切なら、その子置いて追いかけて来い」
「部長!」
手を握られ、そのまま引っ張られると靴を履くように顎で指示された。
「みなみ……」
侑哉の声は迷って揺れていた。
私の心も迷って揺れている。
部長は舌打ちすると、適当なサンダルを選び私と共に車に乗せる。
あの夜のことが思い出されたけれど。
現実は、意地悪だった。
神さまなんて居ないから意地悪だ。
疲れがピークに達していたから、上手く思考が回らないんだ。
部長の車はどんどん坂を上り、ラブホがちらちらと視界に入る中、高速に乗った。
そっか高速道路の回りって、ラブホ多いもんね、とか
もう自分の考えている事の意味さえ分からない。
明美先生の肩を労わるように支える侑哉は、普通の恋する男の子なはず。
なのに私は、ぐらぐらと視界が揺れた。
不安でお腹が痛くなった。
痛くなったのは、あの支えてくれる腕は私のものだと、醜い感情が浮かんだからだ。
明美先生がポロポロ泣くのを見ながら、『侑哉にしときなよ』そう言いたかったのに声を出せなかった私が居た。
明美先生ももしかしたらその言葉を待っていたのかもしれない。
「お腹、痛いです……」
無言の部長は、前をずっと見ている。
私を見ようとはしない。
「そう言ったら弟君は心配してくれるわけか」
ハッと馬鹿にするように笑うと、すぐに見えるパーキングに車を止めた。
夜だから人は疎らなのに、その疎らな人たちは大体カップルで、寄り添うように夜景を見ている。
ここのパーキングって夜景スポットなのかな?
そうぼんやり考えていたら、車から降りた部長が素早く私の方へ回り、ドアを開けてサンダルを履かせてくれた。
跪くように恭しく私に履かせてくれる部長に、私は簡単にときめいた。
長い指先が、私の足に触れて、
威圧的だけど整っている部長の顔を見下ろして、
簡単に私を浚ってしまった部長に。
そんなの、神様が許しても私には許されないはず。
「お前ら、デキてんの?」
「えっ?」
ごほっと咳き込みながら立ち上がると、部長は私に手を差し出す。
まだ熱も下がってないのかもしれないのに、会いに来てくれたんじゃないのかなって勝手に胸がドキドキしてしまう。
身勝手な私の鼓動に、本当に呆れてしまう。
丁度、月夜を背に手を伸ばすので、深い陰の中、じっと私を見る目が印象的に浮かび上がっている。
その手を取るのを、部長が待っていた。
「キスが嫌だったとかガキみたいなこと、言うなよ?」
「言い、言いませんよ!」
「キスの返事を貰おうと思ったら、あんな表情見せられるんだから腹が立った。お前ら、できてんの? ってかヤッた?」
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