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参、被害者で加害者で、今はただの恋に溺れた美形魔王で。

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 そのままドアまで走って行こうとする俺を、ダンが逃がすわけはない。簡単に捕まえられると、逃げて暴れる俺を後ろから抱きしめた。
「……薔薇の甘いにおいを身に纏わせ、どこに行くんだ」
「はな、離せ」
 ずるずると湯船の中に引きずられる。
 頬についた花びらを指先で弾かれ、首の花びらを摘ままれ、胸についていた花びらを唇で吸われて、剥がされた。
 まるで恋人の儀式みたいに優しい愛撫に、目頭が熱くなる。
「どうした、りん」
 相変わらず死んだ目だ。濁っている目だ。
 なのに、人の心が分かったダンは、だた惚れ薬で俺に優しいだけ。
 本心で人を心から愛しているわけではない。
 目の前のダンが、本当に生まれ変わっていたら良かったのに。そうしたら俺は自分の命を投げ打ってまで封印したかいがあったって思えたのに。
 偽りなんだよ。あんたのその愛情は全部創られた偽物なんだよ。
「泣くな。萎えてしまったじゃないか」
「ダン。俺、知ってる。お前は今も前世も俺のことが好きじゃないんだよ」
 優しく気遣うように問うダンの目が大きく見開かれた。
「何を言う。私の気持ちは私が一番知っている。お前の苦痛で歪む顔に気持ちが高揚したり、純粋で馬鹿で無垢で、私にまで話し合おうとしたお人よしを、私は前世で一番欲していた」
「かわいそうに」
 俺から零れ落ちた言葉にダンの魔力が上がっていく。
「私を憐れむのか。人の心に寄り添わないからか。お前以外の人間に興味がわかないからか」
「……俺のことを好きって気持ちが、呪いだからだよ」
 ダンの掴んだ手が弱まったので、再び逃げようとすると今度は荒々しく湯船に投げ入れられた。
 頭から湯船に浸かった俺を引き上げると、体中に貼りついた花びらを歯で剥がしていく。
「抵抗したり暴れたら、痛むぞ」
「ダン」
「お前は無邪気だから優しくしてやったが、私の気持ちを疑うのはお前でも許さない」
 濁った眼が怒りで暴れている。それでも俺が首を振ると、動きを止めるために首の花びらにかみついた。
「――っ」
 唇から吐き出すと、肩の花びらにも噛みつかれる。
「いっ、いたっ」
 痛いのに、全身が痺れていく。暴れて逃げ出そうとすると歯が肌に食い込む力が強くなった。
「ダン、痛いっ」
「優しく剥がしてほしいなら抵抗せず、私に委ねなさい」
 自分に意見を言うのも反抗するのも許さないって。
 結局は生まれ変わっても何も変わっていないじゃないか。
 お前が綺麗なのは外見だけか。
「魔王、聞いてほしい、俺は」
「名前で呼べと言ったろ」
 肩を噛んでいた魔王の唇が離れ、俺の胸に顔をうずめた。
 そして舌が這う。乱暴に輪郭をなぞられた胸の突起に、背中が震えたが次の衝撃を予想して体をねじった。

「ダン、待って、だっ、あああああああっ」
 乳首を噛まれたんだとわかった瞬間に、背中が大きくしなる。
 逃げ出そうと暴れる俺の腰を掴み、さらに歯に力がこもった。
「いたっ、いたい、ひぃっ、ああ」
 生理的な涙が浮かんできて、汗が全身から沸き上がった。
 湯船をバシャバシャと両手が暴れても、ダンの歯は食いちぎらんと言わんばかりの俺の乳首を噛んでいる。
「あっ、あ、いっいいっ」
 声にならない声。涙が頬を伝い、顎まで滴り落ち、魔王の鼻に当たった。 
 目がチカチカして、痛みにたえるべく歯を食いしばった。
 浮かんでくる涙を必死で拭おうとして、ようやくダンの唇がはがれた。
「愛いな」
「ひぃあっ」
 痛む乳首を舌で舐められ、頬を濡らしていた涙にも舌を這わせた。
「許してやるから、お前だけは私を疑ってはいけない。いいな?」
 優しい言葉に、まだ痛む胸。
 必死で頷くと、ダンは俺を抱きしめてくれたけど、胸は今日一番痛くて張り裂けそうだった。
 


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