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参、被害者で加害者で、今はただの恋に溺れた美形魔王で。
九
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プチプチと花びらを湯船に浮かばせると、薔薇の少し青臭い香りと檜の香りがミスマッチで面白くなっていた。
棘が処理された薔薇は、一輪一輪簡単に花弁が散らされていく。裸になった茎は、洗面器の中に投げ入れて、楽しくなってきた。
楽しくなってきたのに、お腹いっぱい食べたせいでお腹がぽっこり出ているし、下半身が元気だ。本当に活発になってしまっているじゃん。
薔薇の花びらで隠さなければ、魔王が喜んでしまう。
……違う。今はもう魔王って呼び方は違う。ダン。名前で呼ばないと。
前世の薬のせいで俺に恋をしてると錯覚してしまった可哀そうな人間なんだから。
「遅くなった。隅々まで洗って待っていたか」
パァンと小気味が良い音と共にタオルを肩に乗せたダンが現れた。
目をごしごし擦って、今のおやじ臭い行動が本当にダンだったのか疑ってしまう。
いや、股間にタオルと叩きつけるよりいいのか。
「愛い。私のプレゼントを本当に気にいってくれたんだな。薔薇の精みたいだぞ」
俺が薔薇の精?
一体どんな強力な媚薬を飲まされてしまったんだろう。哀れだ。
哀れだし寛大すぎた。高級な薔薇を全て散らしても怒らないんだから。
「つまんない。ダンは何をしたら怒ってくれるの」
「私に怒られたかったのか。そんなにかわいい子は悪い子だ」
――そんなにかわいいこは悪い子だ?
眼科を薦めたくなるほどの狂いっぷりだ。よくもまあ村に火を放ったり、挑んできた他の勇者を塵にした恐怖の象徴が、そんなとち狂った発言をするなあ。
……いったい、何をしたらダンにかかった呪いは解けるんだろう。
惚れ薬と言う名の、呪い。
「そんなに見つめられたら、困るな。りん」
「そお? 嫌だ?」
流石にダンでも俺に裸を見られると照れちゃうのか。
「ああ。爆発してしまいそうだ」
シャワーの前で座ったダンの下半身からむくむくと顔を上げた物体に、思わず悲鳴を上げそうになった。
わお。わおわお。とても素晴らしい魔剣をお持ちだった。そちらは封印していただいて構わない。
先ほどまで勢力抜群のおかげで元気だった下半身が降参したかのようにしなしなと項垂れた。流石元魔王。まったく勝てない。
驚いて視線を逸らせないまま、ダンが髪を洗うのも体を洗うのも見つめてしまう。
長い髪が背中に張り付くのも、綺麗だ。ちゃんとパーツパーツは男らしいし輪郭は雄なのに、どうして造詣が綺麗なんだろう。
目が離せない。それに金髪と一緒で下の毛も金色だった。ついつい観察してしまう。
「逃げないし嫌がらないし、その瞳は期待しているようにみえるよ、りん」
身体を洗ったダンが、髪を絞りながらやってくる。
そして固まっている俺の前で跪き、両手で頬を包み込んだ。
「薔薇の香りは私たちの時代では媚薬効果があると、初夜の部屋に用意される風習があった」
「へえ。でも俺がお風呂に散らしちゃったね」
「ここが薔薇のベットになれば問題ない」
本当に愛されているんじゃないかって錯覚してしまう。
昨日、脅されるって絶望していたくせに。
今は、惚れ薬で正常じゃない魔王を憐れみ同情して近づいたくせに、まるで本当に愛されているようで、居心地がよくて流されてしまいそうだった。
前世では、俺は勇者でダンは魔王だった。
魔王に村を焼かれただの恋人を殺されただの泣く人々を散々見てきた。
目の前の優しくて愛情にあふれる男はまやかしだ。嘘で作り上げた男なんだ。
「りん?」
「で、でる。のぼせた!」
勢いよく立ち上がると、体中にバラの花びらがひっついていた。
棘が処理された薔薇は、一輪一輪簡単に花弁が散らされていく。裸になった茎は、洗面器の中に投げ入れて、楽しくなってきた。
楽しくなってきたのに、お腹いっぱい食べたせいでお腹がぽっこり出ているし、下半身が元気だ。本当に活発になってしまっているじゃん。
薔薇の花びらで隠さなければ、魔王が喜んでしまう。
……違う。今はもう魔王って呼び方は違う。ダン。名前で呼ばないと。
前世の薬のせいで俺に恋をしてると錯覚してしまった可哀そうな人間なんだから。
「遅くなった。隅々まで洗って待っていたか」
パァンと小気味が良い音と共にタオルを肩に乗せたダンが現れた。
目をごしごし擦って、今のおやじ臭い行動が本当にダンだったのか疑ってしまう。
いや、股間にタオルと叩きつけるよりいいのか。
「愛い。私のプレゼントを本当に気にいってくれたんだな。薔薇の精みたいだぞ」
俺が薔薇の精?
一体どんな強力な媚薬を飲まされてしまったんだろう。哀れだ。
哀れだし寛大すぎた。高級な薔薇を全て散らしても怒らないんだから。
「つまんない。ダンは何をしたら怒ってくれるの」
「私に怒られたかったのか。そんなにかわいい子は悪い子だ」
――そんなにかわいいこは悪い子だ?
眼科を薦めたくなるほどの狂いっぷりだ。よくもまあ村に火を放ったり、挑んできた他の勇者を塵にした恐怖の象徴が、そんなとち狂った発言をするなあ。
……いったい、何をしたらダンにかかった呪いは解けるんだろう。
惚れ薬と言う名の、呪い。
「そんなに見つめられたら、困るな。りん」
「そお? 嫌だ?」
流石にダンでも俺に裸を見られると照れちゃうのか。
「ああ。爆発してしまいそうだ」
シャワーの前で座ったダンの下半身からむくむくと顔を上げた物体に、思わず悲鳴を上げそうになった。
わお。わおわお。とても素晴らしい魔剣をお持ちだった。そちらは封印していただいて構わない。
先ほどまで勢力抜群のおかげで元気だった下半身が降参したかのようにしなしなと項垂れた。流石元魔王。まったく勝てない。
驚いて視線を逸らせないまま、ダンが髪を洗うのも体を洗うのも見つめてしまう。
長い髪が背中に張り付くのも、綺麗だ。ちゃんとパーツパーツは男らしいし輪郭は雄なのに、どうして造詣が綺麗なんだろう。
目が離せない。それに金髪と一緒で下の毛も金色だった。ついつい観察してしまう。
「逃げないし嫌がらないし、その瞳は期待しているようにみえるよ、りん」
身体を洗ったダンが、髪を絞りながらやってくる。
そして固まっている俺の前で跪き、両手で頬を包み込んだ。
「薔薇の香りは私たちの時代では媚薬効果があると、初夜の部屋に用意される風習があった」
「へえ。でも俺がお風呂に散らしちゃったね」
「ここが薔薇のベットになれば問題ない」
本当に愛されているんじゃないかって錯覚してしまう。
昨日、脅されるって絶望していたくせに。
今は、惚れ薬で正常じゃない魔王を憐れみ同情して近づいたくせに、まるで本当に愛されているようで、居心地がよくて流されてしまいそうだった。
前世では、俺は勇者でダンは魔王だった。
魔王に村を焼かれただの恋人を殺されただの泣く人々を散々見てきた。
目の前の優しくて愛情にあふれる男はまやかしだ。嘘で作り上げた男なんだ。
「りん?」
「で、でる。のぼせた!」
勢いよく立ち上がると、体中にバラの花びらがひっついていた。
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