転生してマッチングアプリでサクラしてたら、魔王に見つかって求婚されました。

篠原愛紀

文字の大きさ
上 下
31 / 34
参、被害者で加害者で、今はただの恋に溺れた美形魔王で。

しおりを挟む
 プチプチと花びらを湯船に浮かばせると、薔薇の少し青臭い香りと檜の香りがミスマッチで面白くなっていた。
 棘が処理された薔薇は、一輪一輪簡単に花弁が散らされていく。裸になった茎は、洗面器の中に投げ入れて、楽しくなってきた。
 楽しくなってきたのに、お腹いっぱい食べたせいでお腹がぽっこり出ているし、下半身が元気だ。本当に活発になってしまっているじゃん。
 薔薇の花びらで隠さなければ、魔王が喜んでしまう。
 ……違う。今はもう魔王って呼び方は違う。ダン。名前で呼ばないと。
 前世の薬のせいで俺に恋をしてると錯覚してしまった可哀そうな人間なんだから。
「遅くなった。隅々まで洗って待っていたか」
 パァンと小気味が良い音と共にタオルを肩に乗せたダンが現れた。
 目をごしごし擦って、今のおやじ臭い行動が本当にダンだったのか疑ってしまう。
 いや、股間にタオルと叩きつけるよりいいのか。
「愛い。私のプレゼントを本当に気にいってくれたんだな。薔薇の精みたいだぞ」
 俺が薔薇の精?
 一体どんな強力な媚薬を飲まされてしまったんだろう。哀れだ。
 哀れだし寛大すぎた。高級な薔薇を全て散らしても怒らないんだから。
「つまんない。ダンは何をしたら怒ってくれるの」
「私に怒られたかったのか。そんなにかわいい子は悪い子だ」
 ――そんなにかわいいこは悪い子だ?
 眼科を薦めたくなるほどの狂いっぷりだ。よくもまあ村に火を放ったり、挑んできた他の勇者を塵にした恐怖の象徴が、そんなとち狂った発言をするなあ。
 ……いったい、何をしたらダンにかかった呪いは解けるんだろう。
 惚れ薬と言う名の、呪い。
「そんなに見つめられたら、困るな。りん」
「そお? 嫌だ?」
 流石にダンでも俺に裸を見られると照れちゃうのか。
「ああ。爆発してしまいそうだ」
 シャワーの前で座ったダンの下半身からむくむくと顔を上げた物体に、思わず悲鳴を上げそうになった。
 わお。わおわお。とても素晴らしい魔剣をお持ちだった。そちらは封印していただいて構わない。
 先ほどまで勢力抜群のおかげで元気だった下半身が降参したかのようにしなしなと項垂れた。流石元魔王。まったく勝てない。
 驚いて視線を逸らせないまま、ダンが髪を洗うのも体を洗うのも見つめてしまう。
 長い髪が背中に張り付くのも、綺麗だ。ちゃんとパーツパーツは男らしいし輪郭は雄なのに、どうして造詣が綺麗なんだろう。
 目が離せない。それに金髪と一緒で下の毛も金色だった。ついつい観察してしまう。
「逃げないし嫌がらないし、その瞳は期待しているようにみえるよ、りん」
 身体を洗ったダンが、髪を絞りながらやってくる。
 そして固まっている俺の前で跪き、両手で頬を包み込んだ。
「薔薇の香りは私たちの時代では媚薬効果があると、初夜の部屋に用意される風習があった」
「へえ。でも俺がお風呂に散らしちゃったね」
「ここが薔薇のベットになれば問題ない」
本当に愛されているんじゃないかって錯覚してしまう。
 昨日、脅されるって絶望していたくせに。
 今は、惚れ薬で正常じゃない魔王を憐れみ同情して近づいたくせに、まるで本当に愛されているようで、居心地がよくて流されてしまいそうだった。
 前世では、俺は勇者でダンは魔王だった。
 魔王に村を焼かれただの恋人を殺されただの泣く人々を散々見てきた。
 目の前の優しくて愛情にあふれる男はまやかしだ。嘘で作り上げた男なんだ。
「りん?」
「で、でる。のぼせた!」
 勢いよく立ち上がると、体中にバラの花びらがひっついていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜

車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第2の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。

隠れヤンデレは自制しながら、鈍感幼なじみを溺愛する

知世
BL
大輝は悩んでいた。 完璧な幼なじみ―聖にとって、自分の存在は負担なんじゃないか。 自分に優しい…むしろ甘い聖は、俺のせいで、色んなことを我慢しているのでは? 自分は聖の邪魔なのでは? ネガティブな思考に陥った大輝は、ある日、決断する。 幼なじみ離れをしよう、と。 一方で、聖もまた、悩んでいた。 彼は狂おしいまでの愛情を抑え込み、大輝の隣にいる。 自制しがたい恋情を、暴走してしまいそうな心身を、理性でひたすら耐えていた。 心から愛する人を、大切にしたい、慈しみたい、その一心で。 大輝が望むなら、ずっと親友でいるよ。頼りになって、甘えられる、そんな幼なじみのままでいい。 だから、せめて、隣にいたい。一生。死ぬまで共にいよう、大輝。 それが叶わないなら、俺は…。俺は、大輝の望む、幼なじみで親友の聖、ではいられなくなるかもしれない。 小説未満、小ネタ以上、な短編です(スランプの時、思い付いたので書きました) 受けと攻め、交互に視点が変わります。 受けは現在、攻めは過去から現在の話です。 拙い文章ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。 宜しくお願い致します。

弟勇者と保護した魔王に狙われているので家出します。

あじ/Jio
BL
父親に殴られた時、俺は前世を思い出した。 だが、前世を思い出したところで、俺が腹違いの弟を嫌うことに変わりはない。 よくある漫画や小説のように、断罪されるのを回避するために、弟と仲良くする気は毛頭なかった。 弟は600年の眠りから醒めた魔王を退治する英雄だ。 そして俺は、そんな弟に嫉妬して何かと邪魔をしようとするモブ悪役。 どうせ互いに相容れない存在だと、大嫌いな弟から離れて辺境の地で過ごしていた幼少期。 俺は眠りから醒めたばかりの魔王を見つけた。 そして時が過ぎた今、なぜか弟と魔王に執着されてケツ穴を狙われている。 ◎1話完結型になります

王道学園なのに、王道じゃない!!

主食は、blです。
BL
今作品の主人公、レイは6歳の時に自身の前世が、陰キャの腐男子だったことを思い出す。 レイは、自身のいる世界が前世、ハマりにハマっていた『転校生は愛され優等生.ᐟ‪‪.ᐟ』の世界だと気付き、腐男子として、美形×転校生のBのLを見て楽しもうと思っていたが…

変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話

ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。 βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。 そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。 イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。 3部構成のうち、1部まで公開予定です。 イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。 最新はTwitterに掲載しています。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

ヤンデレ化していた幼稚園ぶりの友人に食べられました

ミルク珈琲
BL
幼稚園の頃ずっと後ろを着いてきて、泣き虫だった男の子がいた。 「優ちゃんは絶対に僕のものにする♡」 ストーリーを分かりやすくするために少しだけ変更させて頂きましたm(_ _)m ・洸sideも投稿させて頂く予定です

処理中です...