8 / 34
弐:最恐最悪装備の魔王VS就活のダボダボスーツ装備勇者
一
しおりを挟む
美鈴からはすぐに電話がきた。
「もしもーし、勇者どうしたの? 私に惚れたの?」
谷間の写メをお願いした件は心から謝罪し、リクルートスーツのシャツをアイロンしながら俺は言う。
「魔王が復活した」
「まっじ?」
「指紋と顔写真、そして乳首と太腿の写真をチラつかせ脅迫されている」
「いや、色々待って。色々待て」
それは一体何があったのか、全く状況が理解できないと言われた。
何から伝えればいいのか考え、正直にマッチングアプリのことと魔王の面接を伝えた。
「それって普通にコンシェルジュの面接じゃない?」
「ありえない。あの魔王だぞ? 俺が水浴びしていたら高確率で戦いに挑んでくる卑怯な奴だぞ」
「それはただの覗きだと思う。隣に女風呂あったのにねえ」
しみじみと昔を語られても困る。俺は今現在、何も能力もとびぬけたステータスも名誉もなにもない人間なのに、権力ある大人に脅迫されているんだ。
「うーん。ユウユウに明日会いに行くとか? 賢者、聖女、勇者は揃ってるよね。あとは剣士。あの脳まで筋肉、210センチ、89キロ、歩くだけで敵が逃げていくリアルモンスター。ケイビーがいれば揃うね」
確かにケイビーがいれば頼りになる。隣にいるだけで安心できるからな。
「あと一人、魔術使いのカミーユも」
「ああ……いたね。使い物にならなかったけど」
何をいうか。仲間に上も下もない。魔術に長けていたカミーユには助けてもらってばかりだったというのに。
「とりま、21時になりましたので、美鈴は眠ります」
「あ、おい」
お肌の曲がり角なんて言われて眠ってしまったら、どうすればいいんだ。
ケイビー。せめてケイビーぐらい明日再会できないだろうか。
絶望の中、パソコンの前で項垂れていたら携帯に着信が来た。
見ると登録していない携帯からの着信。拒否したかったがまさか魔王からかもしれない。
そう思い、恐る恐る電話を取った。
「もしもし」
『夜分遅くごめんね。就職課の間宮です』
「なんだ。間宮さんか」
良かった。魔王より数百倍良かった。
「こんな遅くにごめんね。さっき君が履歴書送った企業側から一刻も連絡してと、大学側のお偉いさまに連絡来たみたいでさ」
「構いませんよ。ええ。なんでしょう」
さきほど、そのお偉いさんに乳首の写真を送ったり、百万課金されたことは黙っておく。
『ママー、おれもでんわしたい』
ママ?
『ああ、ごめん。息子が電話で起きちゃって。こら、寝なさい』
間宮さん、結婚してお子さんもいたのか。驚いた。
「いえ。勤務時間外にすみません」
『いいのよお。明日、急遽面接したいって。すごいね。大学に送り付けて初の面接らしいわ』
だろうね。あの求人票は俺をあぶり出すための偽求人票だったんじゃないかって今では思う。
『ママ―、おれもでんわあ』
『啓彌(けいび)、だめでしょ。寝てなさい』
『リーヤー・ル・シャルル』
「ぶ!?」
思わず先ほど食べたおにぎりを吐き出してしまいそうになった。
いや、今、『リーヤー・ル・シャルル』って言った?
前世での俺の名前なんだけど、今、言った?
戸惑う俺に、電話の向こうの舌足らずな男の子は電話に出た。
『もしもし、お前、リンリンか』
この子ども。美鈴が前世でも使っていた俺の愛称をなぜ知っているんだ。
『悪い。今、ママの電話で把握した。魔王は現世で復活しているんだな』
「もしかして……。お前、世界最強の剣士、ケイビーか」
「如何にも、俺はケイビー・スリトン・スターニ。前世でお前の仲間だった」
ようやく。
ようやくまともに話が出来そうな相手が現れた。舌足らずな子どもみたいだけど。
「良かった。ケイビーにまた会えて。大変なんだ、俺、魔王に」
『すまん。俺はまだ齢4歳の保育園児なんだよ。身長も100センチもない』
な。
なんだってー。
なんて驚かない。可愛い声にうすうす気づいていたからね。
「もしもーし、勇者どうしたの? 私に惚れたの?」
谷間の写メをお願いした件は心から謝罪し、リクルートスーツのシャツをアイロンしながら俺は言う。
「魔王が復活した」
「まっじ?」
「指紋と顔写真、そして乳首と太腿の写真をチラつかせ脅迫されている」
「いや、色々待って。色々待て」
それは一体何があったのか、全く状況が理解できないと言われた。
何から伝えればいいのか考え、正直にマッチングアプリのことと魔王の面接を伝えた。
「それって普通にコンシェルジュの面接じゃない?」
「ありえない。あの魔王だぞ? 俺が水浴びしていたら高確率で戦いに挑んでくる卑怯な奴だぞ」
「それはただの覗きだと思う。隣に女風呂あったのにねえ」
しみじみと昔を語られても困る。俺は今現在、何も能力もとびぬけたステータスも名誉もなにもない人間なのに、権力ある大人に脅迫されているんだ。
「うーん。ユウユウに明日会いに行くとか? 賢者、聖女、勇者は揃ってるよね。あとは剣士。あの脳まで筋肉、210センチ、89キロ、歩くだけで敵が逃げていくリアルモンスター。ケイビーがいれば揃うね」
確かにケイビーがいれば頼りになる。隣にいるだけで安心できるからな。
「あと一人、魔術使いのカミーユも」
「ああ……いたね。使い物にならなかったけど」
何をいうか。仲間に上も下もない。魔術に長けていたカミーユには助けてもらってばかりだったというのに。
「とりま、21時になりましたので、美鈴は眠ります」
「あ、おい」
お肌の曲がり角なんて言われて眠ってしまったら、どうすればいいんだ。
ケイビー。せめてケイビーぐらい明日再会できないだろうか。
絶望の中、パソコンの前で項垂れていたら携帯に着信が来た。
見ると登録していない携帯からの着信。拒否したかったがまさか魔王からかもしれない。
そう思い、恐る恐る電話を取った。
「もしもし」
『夜分遅くごめんね。就職課の間宮です』
「なんだ。間宮さんか」
良かった。魔王より数百倍良かった。
「こんな遅くにごめんね。さっき君が履歴書送った企業側から一刻も連絡してと、大学側のお偉いさまに連絡来たみたいでさ」
「構いませんよ。ええ。なんでしょう」
さきほど、そのお偉いさんに乳首の写真を送ったり、百万課金されたことは黙っておく。
『ママー、おれもでんわしたい』
ママ?
『ああ、ごめん。息子が電話で起きちゃって。こら、寝なさい』
間宮さん、結婚してお子さんもいたのか。驚いた。
「いえ。勤務時間外にすみません」
『いいのよお。明日、急遽面接したいって。すごいね。大学に送り付けて初の面接らしいわ』
だろうね。あの求人票は俺をあぶり出すための偽求人票だったんじゃないかって今では思う。
『ママ―、おれもでんわあ』
『啓彌(けいび)、だめでしょ。寝てなさい』
『リーヤー・ル・シャルル』
「ぶ!?」
思わず先ほど食べたおにぎりを吐き出してしまいそうになった。
いや、今、『リーヤー・ル・シャルル』って言った?
前世での俺の名前なんだけど、今、言った?
戸惑う俺に、電話の向こうの舌足らずな男の子は電話に出た。
『もしもし、お前、リンリンか』
この子ども。美鈴が前世でも使っていた俺の愛称をなぜ知っているんだ。
『悪い。今、ママの電話で把握した。魔王は現世で復活しているんだな』
「もしかして……。お前、世界最強の剣士、ケイビーか」
「如何にも、俺はケイビー・スリトン・スターニ。前世でお前の仲間だった」
ようやく。
ようやくまともに話が出来そうな相手が現れた。舌足らずな子どもみたいだけど。
「良かった。ケイビーにまた会えて。大変なんだ、俺、魔王に」
『すまん。俺はまだ齢4歳の保育園児なんだよ。身長も100センチもない』
な。
なんだってー。
なんて驚かない。可愛い声にうすうす気づいていたからね。
0
お気に入りに追加
109
あなたにおすすめの小説

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜
車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第2の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。

隠れヤンデレは自制しながら、鈍感幼なじみを溺愛する
知世
BL
大輝は悩んでいた。
完璧な幼なじみ―聖にとって、自分の存在は負担なんじゃないか。
自分に優しい…むしろ甘い聖は、俺のせいで、色んなことを我慢しているのでは?
自分は聖の邪魔なのでは?
ネガティブな思考に陥った大輝は、ある日、決断する。
幼なじみ離れをしよう、と。
一方で、聖もまた、悩んでいた。
彼は狂おしいまでの愛情を抑え込み、大輝の隣にいる。
自制しがたい恋情を、暴走してしまいそうな心身を、理性でひたすら耐えていた。
心から愛する人を、大切にしたい、慈しみたい、その一心で。
大輝が望むなら、ずっと親友でいるよ。頼りになって、甘えられる、そんな幼なじみのままでいい。
だから、せめて、隣にいたい。一生。死ぬまで共にいよう、大輝。
それが叶わないなら、俺は…。俺は、大輝の望む、幼なじみで親友の聖、ではいられなくなるかもしれない。
小説未満、小ネタ以上、な短編です(スランプの時、思い付いたので書きました)
受けと攻め、交互に視点が変わります。
受けは現在、攻めは過去から現在の話です。
拙い文章ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
宜しくお願い致します。
王道学園なのに、王道じゃない!!
主食は、blです。
BL
今作品の主人公、レイは6歳の時に自身の前世が、陰キャの腐男子だったことを思い出す。
レイは、自身のいる世界が前世、ハマりにハマっていた『転校生は愛され優等生.ᐟ.ᐟ』の世界だと気付き、腐男子として、美形×転校生のBのLを見て楽しもうと思っていたが…

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話
ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。
βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。
そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。
イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。
3部構成のうち、1部まで公開予定です。
イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。
最新はTwitterに掲載しています。

弟勇者と保護した魔王に狙われているので家出します。
あじ/Jio
BL
父親に殴られた時、俺は前世を思い出した。
だが、前世を思い出したところで、俺が腹違いの弟を嫌うことに変わりはない。
よくある漫画や小説のように、断罪されるのを回避するために、弟と仲良くする気は毛頭なかった。
弟は600年の眠りから醒めた魔王を退治する英雄だ。
そして俺は、そんな弟に嫉妬して何かと邪魔をしようとするモブ悪役。
どうせ互いに相容れない存在だと、大嫌いな弟から離れて辺境の地で過ごしていた幼少期。
俺は眠りから醒めたばかりの魔王を見つけた。
そして時が過ぎた今、なぜか弟と魔王に執着されてケツ穴を狙われている。
◎1話完結型になります

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。
※(3/14)ストック更新終わりました!幕間を挟みます。また本筋練り終わりましたら再開します。待っててくださいね♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる