上 下
78 / 80
エピローグ

エピローグ③

しおりを挟む
オーベルジュの初ウエディングが私たちなので多少の注目は覚悟するけど、無駄使いだけは何とか踏みとどまらせよう。
ナイスタイミングで、私と颯真さんのお母さん達も来てくれて、二人も説得してくれたので無事にレンタルになったのは安心した。
それが終わって、午後から出勤。仕事は結婚後も続けていく予定だと伝えたけれど、結婚式準備で抜けることも多く、今の時期はちょっとだけきつかった。  
休憩室へ入るや否や、他のスタッフさん達が歓声を上げていた。
「菊池さんおめでとうございますーっ」
「すっげ、一流商社マンっすか」
「毎日、菊池さんのこと送って下さってるあのイケメンですよね」
左手の薬指に光る指輪を見せながら、菊池さんが真っ赤な顔で頷いている。
「わ、ついに! おめでとうございますっ」
「わかばちゃん、ありがとうー」
菊池さんが飛んできて、首に抱きついてきた。
菊池さんと柾も、私と颯真さんが婚約したあの日に付き合ったらしいから交際6カ月でプロポーズかあ。
柾って意外とこーゆうのはスマートなんだなあ。颯真さんと暮らしだして、結婚式の準備にばたばたしててここ数カ月そう言えば顔を見ていない。
でも菊池さんがこんなに幸せなんだから、きっと幸せなんだろうな。
「私たちも、オーベルジュで式を挙げたいから、色々と教えてね、わかば先輩!」
「やっ 滅相もないです! 私なんてっ」
それでも私の言葉なんて耳にも入らないぐらい幸せなのか、着替えもしないまま、店長に報告しに飛び出して行った。
18時に仕事を終え、ダッシュで家へ帰るのは最近の日課になりつつある。
「風くん。ごめんね、直ぐにご飯用意するね」
家に帰って、買ってきた食材をキッチンに置くと、リビングの風くんを探した。
風くんは、一番日が当たっているグランドピアノの椅子の上で、丸まって日向ぼっこしていた。
「あ。やだ、鍵盤開けたまま試着に行ったんだ。毛が入ったら更に壊れちゃうよー」
風くんを退かして椅子に座ると、ピアノが壊れていないか弾いてみる。
茜さんにも、颯真にも、寿命だと宣告された私たちの思い出の詰まった大切なピアノ。
それを、廃棄処分にはせず、ここで騙し騙し調律しながら飾っておくことが出来たのも、颯真さんの考えのお陰だ。此処でなら、下手くそな私しか弾くことはないもんね。
こっそりとサプライズで、結婚式の時に弾こうと思っている曲の楽譜さえ開いたままだった。
自分のクローゼットに楽譜を仕舞い、二番目に日当たりの良いソファの上で、風くんと料理本を読む。
毎日疲れてるのにちゃんとご飯を食べに帰ってくる颯真さんに、厭きが来なくて美味しくて、そしていて見た目も凝っている奴――。
三冊目に突入しても決まらず、ついつい朝から走りまわった疲れがドッと出て、うたた寝をしてしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

長い片思い

詩織
恋愛
大好きな上司が結婚。 もう私の想いは届かない。 だから私は…

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

【完結】やさしい嘘のその先に

鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。 妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。 ※30,000字程度で完結します。 (執筆期間:2022/05/03〜05/24) ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ 2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます! ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ --------------------- ○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。  (作品シェア以外での無断転載など固くお断りします) ○雪さま (Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21 (pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274 ---------------------

結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「結婚したらこっちのもんだ。 絶対に離婚届に判なんて押さないからな」 既婚マウントにキレて勢いで同期の紘希と結婚した純華。 まあ、悪い人ではないし、などと脳天気にかまえていたが。 紘希が我が社の御曹司だと知って、事態は一転! 純華の誰にも言えない事情で、紘希は絶対に結婚してはいけない相手だった。 離婚を申し出るが、紘希は取り合ってくれない。 それどころか紘希に溺愛され、惹かれていく。 このままでは紘希の弱点になる。 わかっているけれど……。 瑞木純華 みずきすみか 28 イベントデザイン部係長 姉御肌で面倒見がいいのが、長所であり弱点 おかげで、いつも多数の仕事を抱えがち 後輩女子からは慕われるが、男性とは縁がない 恋に関しては夢見がち × 矢崎紘希 やざきひろき 28 営業部課長 一般社員に擬態してるが、会長は母方の祖父で次期社長 サバサバした爽やかくん 実体は押しが強くて粘着質 秘密を抱えたまま、あなたを好きになっていいですか……?

届かない手紙

白藤結
恋愛
子爵令嬢のレイチェルはある日、ユリウスという少年と出会う。彼は伯爵令息で、その後二人は婚約をして親しくなるものの――。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開中。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

【完結】その男『D』につき~初恋男は独占欲を拗らせる~

蓮美ちま
恋愛
最低最悪な初対面だった。 職場の同僚だろうと人妻ナースだろうと、誘われればおいしく頂いてきた来る者拒まずでお馴染みのチャラ男。 私はこんな人と絶対に関わりたくない! 独占欲が人一倍強く、それで何度も過去に恋を失ってきた私が今必死に探し求めているもの。 それは……『Dの男』 あの男と真逆の、未経験の人。 少しでも私を好きなら、もう私に構わないで。 私が探しているのはあなたじゃない。 私は誰かの『唯一』になりたいの……。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...