42 / 80
症状四、それは風邪みたいなものでして。
症状四、それは風邪みたいなものでして。④
しおりを挟む
「ありがとう」
ソファに座った颯真さんから、シャンプーの良い香りが漂ってくる。
部屋着用なのか、大きく首元が開いたセーターから、濡れた鎖骨がちらちら見えて、心臓が口から飛び出しそうだった。
「ふ、珈琲も二人分注いだ方がいいですか?」
「いらない。もうすぐ打ち合わせに担当が来るだけだから」
長い指先が私の方に差し出され、その手に珈琲を渡すと目を閉じて匂いを嗅いでいる。その姿さえ、絵画から飛び出した様な色気だ。芸術作品みたい。
「担当さんも朝早くから来られるんですね」
「ん。昨日、散々電話で一緒に徹夜してもらったから、良いモノを食べてもらおうかなって」
「優しいですね。てっきり二人前食べられるのかと思いましたよ」
「あはは、俺、そんなに大食いに見える?」
私のお馬鹿な発言にも笑って答えてくれる辺り、やっぱり心が広いんだろうな。
「あれ、俺、携帯どこだろ」
珈琲を飲みながら、彼が目で辺りを探しだした。でも、私がちょっと回りを探索していた時、携帯なんて見ていなかったような。
「バスルームですか? 見て来ますね」
「ありがとう」
座っている颯真さんにそう伝えてバスルームに入ると、きちんと畳んでいるズボンの上に携帯が置かれていた。緑色に光が点滅しているからメッセージを受信しているようだった。
「ありましたよー」
画面を見ないように裏にして持ち上げると、洗面台の上にピンク色の眼鏡ケースが置いているのが見えた。ピンクに花柄の、上品なブランドのケースだ。
「ありがとう。担当もう来るかな」
私の気持ちにも気づかず、彼はメッセージを確認し出した。
女の人の眼鏡ケース。いや、もしかしたらサングラスを入れるのかもしれない。そう思うと、私の頭の中に浮かぶのはやっぱり茜さんだった。
「担当さんって女性ですか?」
ポロっと出てきた言葉に思わず両手で口を隠しても遅い。颯真さんが不思議そうに顔を傾げる。
「俺の担当は全員男だよ。クマみたいなむさ苦しいけど頼れる人ばかり」
そんな事言われたら、益々あの女性ブランドのサングラスケースが担当さん達のではないと裏付けされてしまう。
「すいません、変な事言っちゃって。帰ります。食べ終わったら電話下さい。とりに伺います」
早口で言うと、彼が私の手を掴もうとする。
「わ、駄目っ」
強く拒絶したかのように、彼の手を払いのけてしまった。
「あの、忙しい時間帯なので、これで」
そそくさと部屋から出ようと走り出すと後ろで彼が立ち上がるのが分った。
追いつかれないように急いでドアノブを回すも、トンっと長い腕がドアに伸び、私の視界を塞いだ。
「颯真さん、通して下さい」
「何が変な事した?」
後ろから彼の声がするのに、色んな気持ちがぐるぐる回って答えが出ない。
ソファに座った颯真さんから、シャンプーの良い香りが漂ってくる。
部屋着用なのか、大きく首元が開いたセーターから、濡れた鎖骨がちらちら見えて、心臓が口から飛び出しそうだった。
「ふ、珈琲も二人分注いだ方がいいですか?」
「いらない。もうすぐ打ち合わせに担当が来るだけだから」
長い指先が私の方に差し出され、その手に珈琲を渡すと目を閉じて匂いを嗅いでいる。その姿さえ、絵画から飛び出した様な色気だ。芸術作品みたい。
「担当さんも朝早くから来られるんですね」
「ん。昨日、散々電話で一緒に徹夜してもらったから、良いモノを食べてもらおうかなって」
「優しいですね。てっきり二人前食べられるのかと思いましたよ」
「あはは、俺、そんなに大食いに見える?」
私のお馬鹿な発言にも笑って答えてくれる辺り、やっぱり心が広いんだろうな。
「あれ、俺、携帯どこだろ」
珈琲を飲みながら、彼が目で辺りを探しだした。でも、私がちょっと回りを探索していた時、携帯なんて見ていなかったような。
「バスルームですか? 見て来ますね」
「ありがとう」
座っている颯真さんにそう伝えてバスルームに入ると、きちんと畳んでいるズボンの上に携帯が置かれていた。緑色に光が点滅しているからメッセージを受信しているようだった。
「ありましたよー」
画面を見ないように裏にして持ち上げると、洗面台の上にピンク色の眼鏡ケースが置いているのが見えた。ピンクに花柄の、上品なブランドのケースだ。
「ありがとう。担当もう来るかな」
私の気持ちにも気づかず、彼はメッセージを確認し出した。
女の人の眼鏡ケース。いや、もしかしたらサングラスを入れるのかもしれない。そう思うと、私の頭の中に浮かぶのはやっぱり茜さんだった。
「担当さんって女性ですか?」
ポロっと出てきた言葉に思わず両手で口を隠しても遅い。颯真さんが不思議そうに顔を傾げる。
「俺の担当は全員男だよ。クマみたいなむさ苦しいけど頼れる人ばかり」
そんな事言われたら、益々あの女性ブランドのサングラスケースが担当さん達のではないと裏付けされてしまう。
「すいません、変な事言っちゃって。帰ります。食べ終わったら電話下さい。とりに伺います」
早口で言うと、彼が私の手を掴もうとする。
「わ、駄目っ」
強く拒絶したかのように、彼の手を払いのけてしまった。
「あの、忙しい時間帯なので、これで」
そそくさと部屋から出ようと走り出すと後ろで彼が立ち上がるのが分った。
追いつかれないように急いでドアノブを回すも、トンっと長い腕がドアに伸び、私の視界を塞いだ。
「颯真さん、通して下さい」
「何が変な事した?」
後ろから彼の声がするのに、色んな気持ちがぐるぐる回って答えが出ない。
0
お気に入りに追加
63
あなたにおすすめの小説
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】やさしい嘘のその先に
鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。
妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。
※30,000字程度で完結します。
(執筆期間:2022/05/03〜05/24)
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます!
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
---------------------
○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
(pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274
---------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる