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症状二、判断力低下。

症状二、判断力低下。⑫

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「実は、締め切りが近いから終わるまで。一週間は居るかな」 

一週間もホテルに居てくれるんだ。

「じゃあ、それまでは婚約者のフリをすればいいんですね」
「そうだね、できれば毎日こうやって会って駅までは送らせて欲しいかな」
「演技ですね。任せて下さい!」
胸を叩くと、颯真さんは手の甲を口に当てて震える。
「――や、だから気合入れなくて良いから」
私のヤル気はから回りにしかならないらしい。
「どうしよう。普通、普通……」

真っ赤な頬を押さえて考えても、既に颯真さんの隣でお酒を飲んでいるこの状態が普通ではない。

「そのまま、鈍感な君でいてほしいかな」
のらりくらりした彼との会話。結局、今日は颯真さんのことは謎の部分が多いままだった。でも、連絡先は無事にゲットできた。
「で、帰る? 俺の部屋で飲み直す?」
「か、帰ります!」

閉店時間になり追い出されたBARの前で、冗談か分からないことばかり言うんだから。

「じゃあ、タクシー下に呼ぶか」
「……お願いします」

案外あっさりとそう言われると拍子抜けしてしまう。やっぱりからかっているだけなんだ。エレベーターで乗り込む際、誰も他には乗っていないのに距離が近い様な気がしてじりじり離れた。

「今日はありがとうございました」
「いいえ。俺も助かったし楽しかったし」
「颯真さんは――」

茜さんとは正式に付き合っていたのだろうか。聞きたいのに、何故か唇が重くなっていく。
婚約のふりをしているんだから色々とお互いのワケを聞きだすのは悪いことではないのだけど、聞きたくないのに気になってしまう自分の気持ちが分からない。
急に熱が上がって行くこの気持は、自分では気づかないうちに風邪を引くみたいで。

『ニャーオ』

ん? 颯真さんが受付にタクシーを呼んでくれるように頼んでくれていた時だ。
ロビーで待っていた私は、もやもや考えるのを止めて猫の鳴き声に辺りを見渡す。
それは、ヤス君とは違う若くて赤ちゃんみたいな甘い鳴き声だった。

ホテルに猫が侵入したなんてあるはずないけど、辺りを見渡す。すると、階段のほうからまた小さい鳴き声が聞こえた。

大変だ。もしかしてお客様がペット禁止なのに持ち込まれたのかもしれない。階段の方へかけ出そうとして後ろからふわりと後ろから抱きとめられた。

「危ない」
どうやら意外と飲んでいた私は、足がもつれていたみたい。しかも転びそうなのにも気づかず走ろうとするなんて。
「って、そそそ颯真さん」
「ぷ。可愛い反応だね。でも走ったら危ないよ」
「すいません」
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