艶夜に、ほのめく。

篠原愛紀

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五夜、本気になったら負けだと思う。

五夜、本気になったら負けだと思う。三

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「……アンタ、誰?」

 私の冷めた目と言葉に、隣の千夏が爆笑する。
 龍一も龍一だ。
 自分の腕に、可愛い女の子を捲きつけときながら、よくもまあ私の前に現れたな。
 綾香じゃない別の相手を連れて、悪びれもせずに私に笑いかけるのはなんでなの。

「そんな連れないこと言うなって。お前の荷物処分してやるから、金出せよ」


 隣の女の子も、モデル関係なのだろう可愛く清楚な子なのだけど、龍一と一緒にクスクス笑っている。

「ってかあの家にある家具は全部私が買ったやつだから、お前が出て行けばいいんじゃない? 隣の彼女に心も貧しいから貧乏で家賃払えないんでちゅって素直に言ってみたら?」

「あのさ、お金も無い顔だけの男なんて、結婚には魅力ないからこっちから別れたって分からないの?」
「そーそー。結婚控えてる美琴にもう近付かない方がいいよ、次は警察呼ぶからさ」

 ぶひゃっと千夏が下品な笑い声を出すと、龍一の顔が一瞬無表情になった。

「顔以外の無力がないカス」
「せっかく円満に別れたのに、その態度はないっしょ」

 煙草吸っていい?とテーブルを二回トントンと叩く癖はそのままだったので、「いやだ」ときっぱり断った。
 千夏は灰を落としながら「吸うなよ」と楽しそうだ。


「じゃあお金なんて請求してこないで。アンタなら顔だけは良いんだから困らないでしょ。その子や、綾香がいるんだし」

 今頃綾香はどこかでキャバしてるのかと思うと、同情はしてやれないけど哀れだと思う。


「ちょっと試したかっただけだよ。駆け引きってやつ? 美琴が俺の事どう思ってるかってな」
「試してみてどうだった?」

「そうだなあ。ゴミ箱に捨てたはずの視界に入れたくないゴミってとこか」
「――正解」


6年一緒に居ただけあって、龍一は私の扱いが上手なままだ。


「本当にもう会わない? 俺は――」
「セフレとか言わないでよ。アンタには六股以上にそんな関係の人がいっぱい居るんだから」
「仕方ねえじゃん。居心地がいいから戻っちまうんだよ、お前の所に」

 ……本当に酷い奴だ。
 隣に私より可愛くて若い女の子をはべらしておいて。

 綾香だってそう。
 浮気した女の子はほとんど皆、若くて可愛い子だったのに、そんな謳い文句で私に言うなんてずるいし最悪すぎる。


「これがたらしって奴かあ。アンタ、天性じゃね?」

 千夏も関心したのか呆れたのか、口を大きく開けて頷いている。

「もう遅いよ。もし仮に、死ぬまで浮気を隠してくれてたら私は幸せだったかもしれないけど。アンタは浮気は当たり前だと隠しもしなかった。そこの価値観の違いだから」

 バイバイと手を振ると、やっと諦めたのか龍一も手を上げて、可愛い彼女と去って行った。




「あれじゃあアンタが部長を選んだ気持ち分かるわ」

「お礼言うべきかな」

ぷっと笑うと、千夏もグラスの氷を鳴らしながら豪快に笑った。

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