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二夜。傲慢じゃないが優越感は生まれる。
二夜。傲慢じゃないが優越感は生まれる。七
しおりを挟む拗ねた言い方に、思わずこの人の年齢が分からなくなった。
「弟なんだからいいんじゃないの?」
「遊馬は馬鹿みたいに過去にとらわれて、俺の反対を押し切って刑事なんかなってさ。顔も見たくないよ」
「――どっちが過去に囚われてるのよ」
きゅっと蛇口を閉めると、御風呂のボタンを押した。
自動で溜まってくれるのであとは蓋をしているだけでいい。
――そう。蓋をするだけで簡単に見えなくなるのに。
泉さんが勝手に蓋を開けるから、見えてしまって私も苛々して暴言を吐いてしまう。
「死んだ人間なんかにヤキモチ妬かないで」
「妬いてないよ。私、浮気のラインはえっちだし。死んだ人間とえっちできないでしょ?」
ふんぞり返って腕を組みながら言うと、泉さんも苦笑した。
「そうだった。君はそんな人だよね」
「泉さんも実は腹でいっぱい抱えてるなら言って。今のやり取りの方がなんか恋人っぽくて好き」
殺伐としている中でも、自分の感情を相手に押し付けようとしている感じが、空回っている恋愛みたい。
「そう。じゃあ言うけど」
「うん」
「トラブルがあったなら、たとえ解決していたとしても教えて。別に俺は人に興味がないわけじゃないし。心配ぐらいはするし」
え。
はっきり言って、心配してくれるとは思っていなかった。
二人ともふわふわした現実見がない恋人を演じていると思っていたから。
言えば、面倒くさがうだろうし、内心自分で処理しろよと言われるだろうから、だったら最初から言うつもりはなかった。
頼るつもりはなかったから、言う必要ないと。
「ごめんなさい。なんか綾香がお金に困って、私に前借を要求してきて」
「ふうん。君の元彼と一緒に住んでいるんでしたよね?」
「そう。多分、私が居ないから家賃も払えてないと思う」
私にはどうでもいいことだし、もう駅で待ち伏せもないと思うけど。
「じゃあこれからは一人で行動しないで。帰りも俺か、俺が仕事で忙しい時はタクシー使って。いい?」
「ありがと」
さっきの遊馬さんの時とは違い、泉さんには素直にお礼が言えた。
それからの泉さんは、頑なに遊馬さんに冷たくて、遊馬さんは冷たくされてもぐいぐいと絡んできていた。
仲が悪いのか良いのか分からないけれど、こんな頑なな泉さんは初めてだった。
「拗ねてるんだよ。たかが刑事になったぐらいで」
「へ?」
とうとう日付が変わる頃にはソファを占領して倒れこんでしまっていた。
最近仕事も忙しいし、無能な派遣は切ってしまったし、疲れていたのかもしれない。
タオルケットをかけていると、遊馬さんは台所の換気扇の下で煙草を吸いながら、ぽつりと落とすように言う。
「兄として危険な仕事に心配してるってこと?」
「そう、と言えたら単純なんだけど、ちょっと違うかも」
「仲が悪いわけではないのに、泉さんがツンツンしてる感じがちょっと意外と言うか、でも遊馬さんに気を許してるのか甘えてるんだろうね。ちょっと羨ましい」
私なんて甘えてばかり。
甘えてこようとはしないんだから。
「羨ましい、か。俺は兄貴が変わってしまったあの痛ましい事故をもっと知りたくて刑事になったから。兄貴には目の上の瘤なんだろうな」
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