艶夜に、ほのめく。

篠原愛紀

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一夜、辛くはないが、激甘でもなく。

一夜、辛くはないが、激甘でもなく。二

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 会社へは別々に出勤するので彼が先に部屋を出た後、私が時間をずらして部屋を出る。
 泉さんなら気にしないだろうけど、浮気野郎と別れたばかりの私が転がり込んだと分かれば印象が悪いだろうし。
 浮気野郎は今回は仕事場の後輩にも手を出してるから私が別れた事はきっとせまいネットワークで広がってるだろう。





 最低限のものしかなかった部屋に私のモノがあふれかえっていく。
 それって、なんか違うような。
 満たされた気でいるだけの気がする。


 今日だって猫のクッションを気にしていたけど、理由も言わない。
「ふう」
 部屋を出てカードキーで鍵を閉めてからエレベーターに乗るとため息が出た。
 実はと言うと、こんなに泉さんが住んでいるマンションが大きいとは思ってもいなかった。


 お酒飲んでべろんべろんになった私を、コンシェルジュさんが部屋まで送ってくれたり、配達やクリーニングも頼めるし。
 前の日に時間伝えたらエントランスに車も出してくれる。
 なんか相手が泉さんではなかったら、大企業の社長の愛人になった気分だ。

 うちの会社って中小企業というか。セキュリティ会社で、うちはシステム管理部。
 システムに誤作動はないかとか違法なアクセスはないかとか、システムの向上とか、大体は部長が仕切ってくれてる。
が、私は電話とか契約した相手先の個人情報の管理だし。そんな普通の中小企業に、こんな豪華なマンションから電車で泉さんは出勤している。


 私生活の匂いがしなかったとはいえ、驚いた。
 元々、亡くなった祖父の遺産相続で不動産を相続して管理しているらしい。
 私とは住む世界が違うような人が同じ会社で働いているとは気付けなかった。



***

「佐々木さん、私のりゅんりゅんが帰ってこないんですけど知りませんか?」

 出社してタイムカードを切ろうとしたら、後輩の稲生綾香(いのうあやか)が仁王立ちで現れた。

 それが面白くて鼻で馬鹿にしてしまう自分は本当に性格が悪いと自覚している。
 けれど、私と付き合っていると知っていながら自分から家へ誘い、女が数人いるとわかっているくせに自分は一番 だからとふんぞり返っていたこの後輩の今の姿は、ざまあみろと笑える。


「なんですか」
「いや。『綾香は本命だから浮気されません。だから佐々木さんが別れてください~~』って言ってた女が私にそんな事聞くんだ。ダサいねって思って」
「はあ!? やっぱ綾香に嫉妬して寝取ったんでしょ?」

 小動物系の大き目に小さな身体に、大きな胸。
 私みたいな鶏ガラ体系に嫉妬しなくてもいいのに、可愛い顔が台無しだった。


「もうあんな男に興味ないよ。殴って鼻骨折させたのに、懲りずに浮気してるなんて、別れて清々しいよ」
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