艶夜に、ほのめく。

一夜、辛くはないが、激甘でもなく。

一夜、辛くはないが、激甘でもなく。一

　泉さんの家に転がり込む形で同棲がスタートした。




「これって本当に必要だった？」

　歯ブラシを咥えた泉さんが、私に猫のクッションを目の前に突きだした。
　猫の形をした目つきの悪いデブ猫のクッション。

「必要ですよ。泉さんがソファで転がったら私は床で転がらなきゃでしょ？　この猫はその時に下敷きにするんです」
「……だからふわふわ感がないんだ」

　納得したのか私の席に猫を置くと、洗面所へ消えた。
　朝ご飯の片づけをしていた私もすぐに自分の部屋へ用意に駆け込む。


「日曜に大きなソファ見に行く？」

　ネクタイを結びながら私の部屋に泉さんが覗きこんできた。
　一応、入ってこない。
　ルールではないのだけど。泉さんは私の部屋に入りたがらない。
　汚くはないけど、モノは多いからかもしれない。


「ソファって、反対側に小さいの買うってこと？」
「二人が寝ころんでも大丈夫な大きなソファだよ」
「良いですよ。私クッションさえあれば」
「猫が可愛そうじゃん」

そんなに私が猫のクッションを敷いて床に転がるのが嫌なのだろうか。


「うーん。私のお財布の中身が相談を拒否してます」
　浮気野郎が出て行かないので私が出ていくしかなかった。
　ベットやソファや家具は、四又した相手が使ったものだと思うと持ち出したくなかった。
　おかげで服とか靴や化粧道具以外は財産がない状態。家賃、食費全て払っていたのでろくな貯金もない。

「俺のお金で買えるよ」
「また夜に話さない？　着替えたいんですが」

　朝から下着姿を晒して着替えるのはちょっと抵抗がある。

「ん。分かった。今日はハンバーグ」
「ケチャップですね。了解」


　私が返事すると満足そうにリビングへ向かった。
　なんか新婚みたいな、いや何年も同棲しているカップルみたいな朝の会話がまだくすぐったいのは私だけなのかな。
　どんどん自分の居住スペースに私のモノを置きたがるくせに、ネコのクッションとか変わったものは不思議がるんだよね。
　急いで着替えながらも、そんな泉菜さんの謎行動もいくつかあって彼をまだ掴めない。
　浮世離れしていると言われたら、全部納得出来ちゃうような不思議な感覚で生きてる人。