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五、溺愛×賞味

五、溺愛×賞味⑮

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 パパって呼び方が似合うかもしれませんというと、ゆるっと空気が軽くなる。

「もう少し、相手が逆恨みしないような交わし方を身に付ける努力はする。が、紗矢が姉さんをかばって尻もち着いたのには冷や冷やして頭に血が上ったんだ。頼むから、大根持って暴れまわったりはこれが最後にしてくれ」

「それは……反省します。ごめんなさい」

 痛かったですか、大根。
 部屋の隅の椅子の上に置かれた大根に言う。
 そう尋ねると、お腹を抱えて笑い出したので私も笑った。
 確かに喬一さんの親戚は、一癖二癖ある人たちが多いのかもしれない。

 でもそれは父の周りだってそうだ。会社にだってややこしい派閥だの全くないわけじゃない。だから私だって喬一さんの面倒だと嘆く親戚とは上手に距離を取れるように努力する。

 でも先ほどの左京さんみたいに、喬一さんに遠慮して距離を取ろうとしている姿はちょっとだけ胸が痛んだ。昔仲が良かったのなら、親のせいで距離を取るのは寂しい。

 喬一さんの不器用な防御壁で、喬一さん自身が傷つかないように、夫婦なんだから上手く見守っていけたらいいなと思う。

 完璧だと思っていた彼の、傷。それは少しだけ寂しいけど、完璧人間じゃなくてホッとした気がする。

そして全く何も映っていないエコー写真とお腹を交互に見る。

「喬一さん、私ですね」
「ああ」

「今、父が勝手に新部署を作って会社がバタバタしてるし、喬一さんの受付の方が辞めるって聞いたし、そんなときに妊娠したら周りに迷惑かけちゃうかなって勝手に悩もうとしてたんですけど」

「そうなの」

「エコー写真を見て、そんな考えは全部吹っ飛びました。まず浮かんだのが、嬉しい!って感情です。驚きの後はただただ、嬉しい、喬一さんの子どもって喜びしかなかったです」

 へへっと笑うと、喬一さんは私の手を包むように握り、引き寄せてくれた。
 そして頭を何度も何度も撫でて、抱きしめてくれる。

「それでいい。思いっきり喜んで、そのあとのことは二人で悩もう。一緒に考えよう」

 俺も今なら空を飛べそうなほど嬉しいよと教えてくれた。


 なので何度も頷く。
 未熟で、いつも喬一さんに甘やかされて、そしてぶくぶくに幸せで太っていたけれど。
 お腹に来てくれた赤ちゃんのために、喬一さんとしっかりした大人になりたい。

 もっと自立した、大人の女性になりたいと、心からそう願った。
 そしてきっとできる、と喬一さんの隣で思う。

 こんなに幸せなのだから、溢れるぐらい満たされてるのだから、きっと赤ちゃんにも分けてあげられる。伝えていけれると思う。
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