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アルジャーノンは誰なのか。

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そう言った後、切なく笑った。同時に、胸が苦しくなった。勿論、興味本位なんかじゃないけど、みかどは自分なんかが踏み込んだら駄目な気がした。すると、空気を読んだ千景が急に意地悪な笑みを浮かべた。
「好きになるには、面倒なタイプだと思うよ」
キシシシと千景は笑った後に、凄く優しい瞳をした。
「鳴海さんの話はできないけど、私が巨乳コンプレックスだった話ならしてあげるわよ」
「コンプレックスだったの!?」
驚くと、千景は呆れたように溜め息を吐く。
「これだから、困るのよねぇ。巨乳には巨乳なりの、悩みがあるのよぉ?」
そう言いながら、両手で胸を持ち上げたり、左右から寄せたりなかなかの絶景を作り出してくれる。男だったら三本の指に入りそうな鼻血ものの絶景だ
「小4の時にね、既にCカップはあったのよ。でね体育の徒競走で、男子たちにからかわれたの。『牛みたいでウケる~』とか、一字一句覚えてるわよ。今からでも、出会ったらひっぱたいて股間に蹴り入れたいぐらい。でもね。嫌だけど、隠したり恥ずかしがったら、余計に馬鹿にされたり、妬まれたりするの。おばあちゃんにも、自慢はしても卑屈になるなって言われた。だから、堂々と強調したり自慢し始めたら、楽しくて楽しくて、コンプレックスじゃなくて、私の武器になったのよねぇ」
フッと強気に笑う千景は格好良かった。
「凄く前向きで千景さんらしいです」
自分に無い物、持ってて羨ましい、そう素直に言葉が零れた。
「私は、みかども頑張ってると思うよ」
杏仁豆腐のお皿だけ返されたのは少し悲しいけど、千景は嬉しい言葉をくれた。
「人と関わろうって勇気を出して、私を探して尋ねてくれたんでしょ? 視野が広がるのは、怖いけど、嬉しい出会いもあるもんなんだよ」
「そりゃあ、アルジャーノンを訪ねて来た時、死にそうな覇気のない顔で心配したけどさ。でも頑張ってるよ。私、『私なんか~』とか『羨ましい~』とか言って努力しない、うじうじ系は嫌いなんだけどねぇ。純粋であたふたしてるみかどは、可愛いって思ってるよ」
優しい。綺麗で凛とし強く気配りもできるし、千景は本当に良い人だと思う。憧れる存在だ。
「決めた、私、決めたよ。千景さん!」
両手を握り締め、堅く決心した。
「岳リンさんと、デートする!」
綺麗な千景の顔が、間抜けな顔になった。それでも、みかどの決心は変わらない。
「ちょっとね、脅されてたんだけど、逃げないって決めた。ありがとう、千景さん! 千景さんのおかげで勇気出たよ」
「いやいやいや、待って! 話が分からないけど、デートを脅迫されてたの?」
みかどが頷くと、瞬時にデコピンが帰ってきた。
「痛い……」
おでこをすりすりするが、千景は鬼の形相で睨んでいる。
「ばっかー! そーゆーヤツこそ話してよー! 岳理さんとか得体の知れない要注意人物だよ」
「だ、だから、会ってみようかなって。お兄さんに、近づくのに深い訳があるなら聞いてみたいし、聞きたい事もあるし」
「ねぇ、それって、みかどの『お父さん』に関係あるの?」
千景は岳リンの言葉を覚えてた。
「うん。いつまでも、居ない人の影に怯えちゃ駄目だから、頑張ってみる」
と言っても、長年父が正しいと刷り込まれて生きてきて、見放された今、まだ現実を上手く直視できてはいない。けれど、立ち止まっていても仕方が無いのだ。
「あんま、頑張りすぎないでね。いつでも相談のるよ」
「そうだ! 千景さん、アドレス教えてくれる?」
「いいよ。交換した気でいた」
千景に背中を大きく押され、みかどは微笑む。晴れ晴れした空を見上げるために。そう言って、手を引っ張られて立たされた。
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