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番外編『恋愛初夜/for you』

番外編『恋愛初夜/for you』②

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「私はいつも詰めすぎてポロポロ溢れちゃうのに、二人は本当に上手に巻いていたよね」

「お前は大雑把すぎる」

「幹太は慎重だから、じゃあ丁度いいね」


何気なくそう発した言葉に、幹太は鋭い視線を送る。

「何よ」
「無自覚なら――お前は俺を弄ぶ天才だな」
「どういう意味よ!」

「良いから手を回せ」

まるで、春月堂で咲哉くんに指導している様な、職人口調で言われてしまった。
私たち、何なの?
恋人じゃなかったけ?
可愛くない私が悪いのかもしれないけど、未だに口に出さない幹太も幹太だ。



手巻きずしパーティーは、晴にも大盛況でまだ酢飯は早いかなと海苔巻きにしたら大喜び。
かっぱ巻きに納豆巻きに鉄火巻き、口元にご飯粒をいっぱい食べて大はしゃぎしていた。

幹太は――本当の父親みたいに晴の口元のご飯粒を指先で取ると自分の口に入れて行く。

――晴哉なら、こんな時どんな行動をしただろうか。




***

「寝ちゃった」


晴の布団を掛けながら、眠ってしまった晴に呆然とする。
いつもなら、お腹をトントンしてもなかなか寝ないのに。
幹太がお馬さんしてくれたり、玩具で一緒に遊んでくれたり追いかけっこしてくれたからだ。

無口で見た目は怖い癖に、本当にそんな所は上手いのよね。


「寝たのか」

縁側で一人日本酒を飲みながら、遠くの幹太の家で揺れる桔梗を見ていた幹太は私の方へ視線を送った。

「うん。幹太のお陰」
「そうか」

また背中を向ける幹太にちょっとだけ、むっとする。

だから、幹太の背中から抱きしめてみる。

動揺した顔が見たくて。

「おい、まだお前は食べた皿の片付けもあるんだからな」

「ちゃんとこっちを見て。私より、あっちの桔梗の方が好きなのかしら?」

背中から大きく幹太の首筋の匂いを嗅ぐと、こんな時まで仄かに甘い餡の匂いがした。
きっと今日は餡を大量に作ってたんだ。

「あんまからかうな」

私の腕を外そうとした幹太にムカついて、その嘘つきな背中に噛み痕をプレゼントしてやった。

筋肉でガードされて、深くまでは歯が到達しなかったけど、歯型は残るまで離してあげなかった。


「桔梗、痛い」

痛そうな声では無い。

声でさえ、この人は無表情なんだから。

「私に食べられていいの?」

クスクスと笑うと、そのまま幹太の正面へ回る。

丁度咲き誇る桔梗を視界から消し去ってやるんだから。


「それとも私を食べる?」

両手を広げて、受け止めるからと意思表示をすると幹太は眉を寄せる。

「酒でも飲んだか?」
「キスしたら分かると思うけど?」
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