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六、昔話をしましょうか。

六、昔話をしましょうか。④

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お月さまは、いつも太陽に隠れていてその意味を見出せないでいた。

マラソン大会の新聞が破られた時、破った相手を殴ってくれた幹太より、
私の気持ちに寄りそってくれて、泣いている私の前で一緒に新聞をテープで貼って修正してくれようとした晴哉に気持ちを傾けていた。

中学時代は、御店の留守番まで買って出て、三人で誰かの家でゴロゴロして過ごす時間も減って、代わりに晴哉と二人で居られる時間が増えていた。
だから、私には、見えていなかった。

見ようとしなかった。

結婚報告のあの日、壁に押し付けられるまで、幹太はこっちを見てくれないんだと諦めていたし。

「驚いた。本当にこんなところにいた」

だからおじさんが言った、幹太の行きそうな場所について聞かされて驚いた。
驚いたのは、そこに幹太がちゃんといたから。


「本当はあんた達って仲が良かったの?」

巴ちゃんの家の御寺の、裏の駐車場。
二台のバイクの間に、巴ちゃんと幹太が居た。

「知らなかったの?」

ふふんっと小馬鹿にした笑みを浮かべながら、巴ちゃんは煙草を吸っている。
幹太は私に背を向けたままだった。

「この子が、バイク好きだって、貴方、知らなかったの?」
「し、知るわけないじゃん!」
「晴哉が居たから? じゃあ、晴哉が居なくなったら、寂しさを幹太で埋めちゃう? 都合が良いものね。この子、貴方しか見てないし」

巴ちゃんの言葉の端々が嫌みったらしくて、オカマの癖に女独特の粘着質な表現を使いやがる。
「あんたに用はないわ。利用されたくないなら、私に関わらなきゃいいんだもの」

それでも背を向ける幹太に、思い切り舌打ちしてしまう。

「で、この前の件や今日の朝の爆弾発言について、お話頂こうかしら?」

背中のすぐ後ろまで歩み寄るけど、幹太は大きなぬいぐるみみたいに返事もしない。
思い切り、バイクに足を乗せながら、私も覚悟を決めた。


「私がぶつかるって言ってるんだから、腹をくくりなさいよ、馬鹿!」


「お前……」
嘆息した幹太が、巴ちゃんの方をちらりと見る。
「悪かった」
「いいえ。余計な子としてごめんなさいね、色々と」
「ああ」

巴ちゃんに短く謝ったあと、私の方を見て、バイクの後ろをポンポンと叩く。

「俺を信じて、後ろに乗ってくれるか?」
「ええ!?」
「怖いか?」

バイクの後ろを見下ろすと、身体が震えだしてきた。
確かに大きくて頑丈そうなのは分かるけど、怖い。
バイクなんて、車と車の間をすり抜けちゃうし、事故が頭を掠めて――怖かった。

けど。
「乗るわ」
乗る。
乗ってみせる。
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