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五、乱入者。
五、乱入者。⑧
しおりを挟む「そんなにむきになるぐらいなら、また幹太を押し倒しちゃいなさいよ」
私が何か言う前に、巴ちゃんが先に言ってしまった。
「は?」
「見たわよう。昨日。ふふふふ。既成事実さえ作れば、確かに幹太なら責任をとってくれるかもしれないわねえ」
昨日のデートをしきりに言っていたのは、たまたまかわざとか知らないけど、目撃しちゃったってわけね。
幹太が昨日私を押し倒したのも、それが関係してたのかな。
でも幹太みたいな大柄の、元ラグビー部の男をこんな小柄な美鈴ちゃんが押し倒せるのかな。
というか、美鈴ちゃんが幹太を押し倒して、関係がどうこうなるような気もしない。
「でも、それは美鈴ちゃんが望んでいる形じゃないよね」
私がそう言うと、悔しげに美鈴ちゃんは唇を噛みしめた。
そして、巴ちゃんを親を殺した犯人かのように睨みつけている。
まあ、間違いではないからしかたない。こいつは人の怒らせる天才なんだと思う。
「私もね、晴哉を愛してるよ、これからもずっと、ずっと。それは変わらないし、幹太もそれは分かっていると思うよ。だから悪いけど貴方が望む言葉も安心しできる言葉もあげることはできないの。ごめんね」
謝れば、美鈴ちゃんが惨めになるのは分かっていたけれど、私のエゴでそれを伝えた。
そうすることでしか、私も答えを出せないのだから。
「そうねえ。でも相手が死ぬ前に後悔しないように伝えることは確かに大事だものね」
死に前にって。
そんなのいつ死ぬかなんて誰も分かりはしないのよ。
私も、幹太も、――晴哉も。
「じゃあ、私も幹太の事を逃げてる間に死んじゃうことがるのね」
「やだわ。桔梗ちゃんったら不謹慎」
坊主が言うな。このオカマ坊主。
「その話し方、わざと過ぎて気持ち悪いだけですから!」
私と巴ちゃんを睨みつけながら、美鈴ちゃんは幹太の方へ向かう。
「一番に幹太さんを大切にしないのなら、私も諦めがつけませんから」
そのまま車の方へ小さく手を振ると、幹太は窓を開けて此方の方へ顔を向ける。
美鈴ちゃんではなく、私の方を見ている。
でも今日は約束なんてしていない。
「やばっ 行くわよ、巴ちゃん」
「りょーかい。さあ、乗って!」
巴ちゃんがヘルメットを投げてよこしたけれど私は大きく首を振る。
「いや、私乗れないって言ったじゃん」
「じゃあ、どうするのよ」
「歩こうよ」
目を見開いて呆れかえった顔をする巴ちゃんだが、元の顔が悪くないので面白い顔にはならなかった。
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