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四、蓋を開けると。

四、蓋を開けると。⑬

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幹太は、言葉をくれたことなんてない。
いつでも、いつまでも、黙って背中を向ける。
でも、そう仕向けてきたのは本当は私だった。
私だって分かっていた。


幹太の視線が熱いって分かったのは、婚姻届を出したあの日、幹太がおめでとうを言わなかった時だ。
いつも背中を向けて言葉をくれないのは、馬鹿な私から気持ちを隠すため。

それに気付いても、私にはどうすることも出来ない。


今まで生きてきた中全てに、晴哉がいるの。
幼稚園も小学校も、中学も高校も大学も晴哉がいたの。


馬鹿で単純で強勢ばっかで生きてきた私と言う人間を、守って形成してくれていたのは晴哉だよ。
結婚して、今からだって思っている。

安心を、暖かさを、幸せをくれた晴哉に、家族として包み込んで安心して帰って来られる家を作ろうって一歩を踏み出したばかりだった。
そんな幸せは、交通事故で簡単に晴哉ごと奪われて。

本当は私、一緒に死んでしまいたかった。死にたかった。
それぐらい晴哉がいないと情けない女なんだ。

これからだったの。私たちは。
不器用ながらもこれから、恋人として、家族として、大人として、二人で成長していけるって二人で頑張って行けるって思っていたの。


でも死にかけた私は、何で死ねなかったのか分かっているよ。
おぼろげながらも、頭を掠めていたんだもん。

頑張ってまた一から歩き出そう、晴哉がくれたもの全て、晴一へ渡そうって決めたのも、
幹太が助けてくれたからじゃない。

私が今此処に居るのは晴哉と晴のおかげだから。


手を差し伸べて救ってくれた幹太を、男なんだと意識したくなかった。
触れられた唇、覆いかぶさられた体温、布団へ押し付けられた肩に手首。

全部全部、消えないの。
私の中から消えないの。

助けてと、晴哉の名前を呼びたくなって、それだけは我慢して涙だけは我慢せずに流した。

分からない。
晴哉を忘れたくないけど、幹太との向き合い方が、私にはもうよく分からなかった。
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