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一、鬼は外、鬼は外。

一、鬼は外、鬼は外。②

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「その辺にしとけよ。晴一にも聞こえているんだから」

「何よ。それより、その袋何? 懐石と和菓子はまだ配達時間じゃないよね」

「あほ。今日は、――晴の誕生日でもあるだろ」

包みから取り出したのは、動物の絵がいっぱい載っているベビーウォーカーだった。
ガサガサと開けると、縁側の端っこで組み立て始める。
こういうのは器用だから羨ましい。

「晴―。おじさんが誕生日プレゼントだってさ。良かったね。この隣の家のおじさんだよー」

大人の腰ぐらいしかない、ほぼ無意味な垣根の向こうは、幹太の家でもあり、私が働いている和菓子屋『春月堂』がある。
晴哉の家を跨いで、幹太の家が大通り側、私が裏の小川が流れる小道に家がある。
それでも、私の家には幹太の家の甘い和菓子の匂いが毎日流れてくるのが大好きで、
おまけにうち、晴哉、幹太の親は私たちが私たちが物心付く前から仲が良かったから、私たちが仲良くなるのも仕方が無いというか、必然というか。

「お前の家も、この家も縁側が多いし危ないんだから、もっと気をつけろよ」
「ありがとう。幹太くん。もうすっかり大人になったわねぇ。桔梗ちゃんの暴走を止められるのは幹太君だけよ」

おいおいとお母さんとまたバトルしようと思ったら、幹太が先に縁側に落ちているお見合い写真を手に取った。

「今日は俺も晴哉を偲びたいな」

ただ、その一言。

その一言で、お義母さんは近くにあった、まだ蒔かれていないお見合い写真を紙袋へ戻していく。
私があんなに外へ放ったり怒鳴っても止めない癖に、幹太のたった一言で大人しくなるんだから。

「晴一と、桔梗ちゃんのご両親を迎えに行ってくるよ。住職さんが遅いけど早く来てくれって」

お義父さんが立ち上がり、晴一を抱き締めながら縁側へ降りて行く。
流石、私の子供。一歳にもなると私じゃない人に抱き締められても泣かなくなった。


「少しは落ち着いたか」

なかなか来ない住職に痺れを切らしたのか、お義母さんは台所へ戻り、幹太はベビーウォーカーを片手で前後に押しながら、滑り心地を試している。

「落ちつく? やっと私が落ちついた女性に見えてきた?」

ふふっと笑うが、幹太は表情を変えないでじっと此方を見る。

「何か言いなさいよ」

「晴一が生まれた時は、ああやっておじさんと外に出かけさせるのも怖がってたろ。自分の目が届かない所に行くと、お前不安そうで、晴一に依存してた」

「そうだっけ? 晴が私以外に抱かれると泣くから私がずっと抱っこしていただけよ?」

きょとんとした私とは反対に幹太は呆れたように深い溜息を吐くと段ボールを小さく折りたたみ始めた。

「無自覚かーー……」
「何よ」
「性質が悪い」
「はあ!? あんた、喧嘩売ってるの!?」

幹太は昔からこうだ。
眼つきは悪いし、声は低いし、おまけにラグビー部だったから身体もがっちりしてるしで、威圧的で見た目が怖い。
それなのに言葉が少ないんだもん。言うより自分が飲み込んだ方が早いとか、動いた方がいいとか思ってそう。
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