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キミのその嘘つきな、
キミのその嘘つきな、
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まだ「おめでとう」を言われていない。
その無表情で、いつもキツく閉じられた唇は、キミの悪い癖だと思う。
「じゃーん。たった今から『長岩 桔梗』から『日高 桔梗』になりました。はい、拍手!」
自動ドアをが開くと同時に、私は両手を上に掲げてそう言いながら中へ入る。
もちろん閉店間際でお客が居ないかをちゃんと確認してからの決行。
老舗和菓子店『春月堂』は年齢層も高く上品なお客が多いから、私みたいな客が現れたら腰を抜かしてしまうかもしれない。
だから閉店間際。――幹太が店番をしてる時間だからこそ出来る。
「……シャッター閉めるから出てけ」
「なっ! お客に失礼だぞ。どら焼き二つ!」
幹太に2本の指を突きだして、鼻息荒く笑ってやった。
幹太は不機嫌そうな顔で私を見ると、溜め息を吐き、どら焼きをレジに打ち出す。
(せっかく私が『おめでとう』を言えるチャンスを作ったのに)
婚約すると幹太に報告してから結婚した今日まで、私は幹太からお祝いの言葉を聞いていない。
幼馴染みで、私と彼と幹太は仲良しだと思っていたから、――喜んでくれると思ってたのに。
作業衣の紺色の甚平に腰巻きエプロンを着た、和菓子職人見習いの幹太。物心ついた時から無口で、しかめっ面で、無表情で、威圧的なオーラを放っていた。
普通にしていれば、 くっきりした二重に、男らしいスッとした眉毛、高い鼻、ラグビー部で引き締まった身体。
そこそこモテるはずなのに浮いた話も出てこない。
恋愛に奥手なのだろうか?
だから私と彼を祝福するのが照れ臭い?
それか私みたいな馬鹿そうな女と大事な幼馴染みが結婚なんて虫酸が走るとか?
無表情でレジを打つ幹太…心を読み取れないかと、腕組みしながら睨み付けてみる。
そんな無意味な空気の中、調理場の暖簾が揺れた。
「桔梗ちゃん、新作の栗餡なんだが試食してくれないかな」
暖簾から顔を出したのは、幹太の父親でここの和菓子職人。幹太の見習い作業衣とは違い、ちゃんとした白い作業衣を着ている。
おじさんは甘く作りたてホクホクの栗餡を私の手のひらにスプーンで乗せた。
「モンブラン餅を作ろうかと思ったんだけど」
「うーーん。美味しい!」
出来立てだからだろうか。温かい甘い餡は美味しくて癖になりそうだった。
「桔梗ちゃんがそう言うなら、どら焼きの次に看板になれるな。このモンブラン餅は」
「うん。期待しとくね」
にやりと笑って隙を見て更に餡を味見してみた。やっぱり栗の控え目な甘さが美味しい。
「ほら、どら焼き」
「ありがとー」
すぐにカバンから財布を取り出そうとしたが、幹太は低い声で「いらない」と言うと、どら焼きの入った紙袋をを渡してきた。
「……お祝いのつもり?」
返事はない、目も合わせない。
ただ黙ってレジを締め出す。そうやってわざと私を見ようとしないその仕草が嫌。
無理に冷静と取り繕って無表情に努めているのがバレバレなんだから。
「言葉はくれないの? 物で私を誤魔化す気?」
「……あいつが待ってんだろ? 行けよ」
レジを仕舞い終えたのか、私に背を向けてそう冷たく言う。
「そうやって、自分の意見は言葉で言わなくて、空気で読みとらせようとする、キミのその嘘つきなところ大嫌い。祝福できないぐらい私のこと嫌いならそう言いなさいよ。私たち、両思わないよ! 良かったわね」
内心、『両思わない』の意味が分からなかったが、私ももう引っ込みが付かなかった。
指輪が重く光るのを感じながらも、どら焼き代をレジに叩きつけるとおじさんに挨拶もせずに店を飛び出した。
その無表情で、いつもキツく閉じられた唇は、キミの悪い癖だと思う。
「じゃーん。たった今から『長岩 桔梗』から『日高 桔梗』になりました。はい、拍手!」
自動ドアをが開くと同時に、私は両手を上に掲げてそう言いながら中へ入る。
もちろん閉店間際でお客が居ないかをちゃんと確認してからの決行。
老舗和菓子店『春月堂』は年齢層も高く上品なお客が多いから、私みたいな客が現れたら腰を抜かしてしまうかもしれない。
だから閉店間際。――幹太が店番をしてる時間だからこそ出来る。
「……シャッター閉めるから出てけ」
「なっ! お客に失礼だぞ。どら焼き二つ!」
幹太に2本の指を突きだして、鼻息荒く笑ってやった。
幹太は不機嫌そうな顔で私を見ると、溜め息を吐き、どら焼きをレジに打ち出す。
(せっかく私が『おめでとう』を言えるチャンスを作ったのに)
婚約すると幹太に報告してから結婚した今日まで、私は幹太からお祝いの言葉を聞いていない。
幼馴染みで、私と彼と幹太は仲良しだと思っていたから、――喜んでくれると思ってたのに。
作業衣の紺色の甚平に腰巻きエプロンを着た、和菓子職人見習いの幹太。物心ついた時から無口で、しかめっ面で、無表情で、威圧的なオーラを放っていた。
普通にしていれば、 くっきりした二重に、男らしいスッとした眉毛、高い鼻、ラグビー部で引き締まった身体。
そこそこモテるはずなのに浮いた話も出てこない。
恋愛に奥手なのだろうか?
だから私と彼を祝福するのが照れ臭い?
それか私みたいな馬鹿そうな女と大事な幼馴染みが結婚なんて虫酸が走るとか?
無表情でレジを打つ幹太…心を読み取れないかと、腕組みしながら睨み付けてみる。
そんな無意味な空気の中、調理場の暖簾が揺れた。
「桔梗ちゃん、新作の栗餡なんだが試食してくれないかな」
暖簾から顔を出したのは、幹太の父親でここの和菓子職人。幹太の見習い作業衣とは違い、ちゃんとした白い作業衣を着ている。
おじさんは甘く作りたてホクホクの栗餡を私の手のひらにスプーンで乗せた。
「モンブラン餅を作ろうかと思ったんだけど」
「うーーん。美味しい!」
出来立てだからだろうか。温かい甘い餡は美味しくて癖になりそうだった。
「桔梗ちゃんがそう言うなら、どら焼きの次に看板になれるな。このモンブラン餅は」
「うん。期待しとくね」
にやりと笑って隙を見て更に餡を味見してみた。やっぱり栗の控え目な甘さが美味しい。
「ほら、どら焼き」
「ありがとー」
すぐにカバンから財布を取り出そうとしたが、幹太は低い声で「いらない」と言うと、どら焼きの入った紙袋をを渡してきた。
「……お祝いのつもり?」
返事はない、目も合わせない。
ただ黙ってレジを締め出す。そうやってわざと私を見ようとしないその仕草が嫌。
無理に冷静と取り繕って無表情に努めているのがバレバレなんだから。
「言葉はくれないの? 物で私を誤魔化す気?」
「……あいつが待ってんだろ? 行けよ」
レジを仕舞い終えたのか、私に背を向けてそう冷たく言う。
「そうやって、自分の意見は言葉で言わなくて、空気で読みとらせようとする、キミのその嘘つきなところ大嫌い。祝福できないぐらい私のこと嫌いならそう言いなさいよ。私たち、両思わないよ! 良かったわね」
内心、『両思わない』の意味が分からなかったが、私ももう引っ込みが付かなかった。
指輪が重く光るのを感じながらも、どら焼き代をレジに叩きつけるとおじさんに挨拶もせずに店を飛び出した。
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