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「時」探し
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フッと足元が崩れる。
ものすごい勢いで落下していく―――!
何かに掴まらなきゃ……。何かに――。
辺りを見渡したが、また光に遮られなにも見えなくなる。
けれど突然、目の前に現れたのは、地面に突き刺した剣。
私はすがる様にその地面から生えた剣の柄を掴んだ。
なんとか剣に捕まり、落下は防いだ。
私が胸をなでおろすとバサバサと地面にノートが落ちる音。
何故かその光景に違和感を感じたけれど、私は日本の腕で必死に自分の体重を支えていてそれどころではなかった。
「【追悼】の剣で、何をしているのですか?」
目の前の人は、震えながらメガネをクイッとあげて、必死で落ち着いた声をだす。
白い白衣に胸ポケットにはごちゃごちゃとペンが入っている。
何故かその場景も不自然で――…その不自然な理由がやっと分かった。
「何故、貴方は反対に立ってるの?」
私は目の前の人と逆さまに見つめあっていた。
「地面から、空へ落ちそうになっているのは貴方の方ですよ」
彼は信じられないと呟きながらも、落としたノートに何かを書きなぐっていく。
(え――?)
私はゆっくり足元を見る。
そこは、
吸い込まれてそうな青い空――。
「えぇ――! なんで? どうなってるの?」
私はこの剣を離すと、空に落ちていくってこと?
何故――?
重力は何してるんだ―!
「とりあえずそれ以上【追悼】の剣に触れるのは止めて頂きたい。それは国の重要文化財で有り、今でも【いつの時代の何の出来事の名残】か調査中なのですよ?」
その男の人はキリッと仕事の顔に戻ると私を冷ややかに見つめる。
「でも、私これ離すと空に落ちちゃいます」
ハァッとため息を溢された。
「誰も、この剣を抜けずに最低でも400年は経っているというのに! 前代未聞の非常事態です」
チラリと私の格好を眺めながら訝しげに睨む。
「貴方も非科学的な【魔法】の研究をしたのですか?
でしたら当然の報いですよ。そんな非科学的な力を信じ、その力に甘んじて自分の精進を怠るから」
魔法?
研究?
「重力を逆さまにしたら剣が抜けるとも思ったのですか? 私は魔法を使って何かできると思うのは浅はかな恥ずかしい考えだと思いますよ。この剣は、歴史の年月の重みで突き刺さっているのですよ? その重みも理解せずに抜こうとするなんて、私の研究の邪魔も良いとこです」
「だらだら分かりましたから! だったら助けて下さいよ。私が望んでこんな事していると思うなら貴方に研究は向いてないと思うわ」
段々と手が痺れて痛くなってきているのだ。
こうずっと彼の話を聞いていたら、多分私は空に吸い込まれてる。
「わ、私がどうこうできる問題では有りません。リーダーを呼んでくるのでまだ頑張って耐えて下さい」
彼は私に背を向けて、遥か向こうの塀の奥の冷たい機械じみた研究所へ駆けてゆく。
その研究所の方が、この場所には不似合いで何故か私を不快にした。
その私の不快な思いに比例するかの如く、微かに剣が地面から抜けようと動いた。
ええ――……!
剣が抜けてゆく感触に私は青ざめる。
堕ちていく……?
研究生は背を向けていくから気付かない。
声を出したら本当に終わりな気がして私はギュッと目を瞑った。
***
ピタッと「時」の番人は動きを止めた。
「誰だ。【追悼】の封印を起こす者は。もし「時」の神に気付かれてみろ、今度は、オーバードライブだけじゃ済まないぞ。「時」が終わる――……」
そしてフと迷子の少女の顔が頭をよぎる。
歳はまだ20歳もいかないだろう、あの幼き少女に良く似たあの少女。
「頼むから、番人の平穏をこれ以上奪うなよ」
***
もう駄目だ。
剣が抜けるのは絶対いけないから、私が手を離すしかない。
でも空に落ちたらどこまで行くのかな。
宇宙にさ迷う頃には死んでしまうよね。
不安に押し潰されそうになりながら、ゆっくりと手を離した。
が、手が開かない。私の意志が手に全く反映されていない。
「離れないっ」
ダメだ!
もう剣は半分抜けてしまっている。
このままじゃ本当に――……。
その時だった。
ゆっくりと青いマントをなびかせて、地上に降り立つとその人はゆっくりと『時』を止めた。
「これ以上迷子になっちゃ駄目だよ…」
フーー……間に合った、と安堵しながら、「時」の番人は私の手から剣を離し、私を横抱きで受け止めると、地上へ下ろした。
「ありがとうございます……」
自分より背の高い番人を、少女は見上げる。
少し困った顔で笑っている番人の、顔が見えそうで更にじっと見つめていたら、
「貴様ら何をしている! 何故剣が動いているのだ! せっかくの研究を…!」
声のする方へ番人は振り向いた。
その顔は険しく、鋭く怒っているようだった。
「いいか、よく聞けよ」
「この剣の封印を解いたら、研究どころではないよ。一瞬で世界が終わるんだからな。忘れるなよ。この封印はお前達が関わっていいものじゃねえんだから」
数人の研究生や研究者は息を飲んだ。
番人の言葉に嘘,偽りがないと分かったから。
私に話かけた研究生は、ノートをパラパラとめくり、何かを探していた。
「おい、人の話を聞いているのか?」
番人はその研究生の傍へ歩みよる。
研究生はノートのあるページを見て固まり、ノートから目を離さずに言った。
「書物に伝説的に残され、度々不都合な『時』を隠す番人……。魔法や伝説は信用に値しませんが……
ですが……貴方があの悪名高い『時』の番人なのですか?」
全身を震わせて研究生が尋ねると、番人はにやりと笑う。
そうだよ、と短く答えた。
それは、「何」に対しての返答なんだろう。
「貴方に関する書物は辻褄が合わなくて不自然で……。貴方は自分を守る為に力を使うのは愚かなで浅ましい行為だと思わないのですか?」
―……あぁ、また
哀しいあのメロディが流れてくる。
「浅ましくて愚かで馬鹿げてるよね。でも、お前も剣の状態を気にして研究所に駆け込んだよな。彼女の命を何よりも優先しなきゃいけなかったのに」
愚かで自分の欲で動くのは、当たり前なんだよ。
番人はそう言い残すと、「時」の中へ消えていった。
ああ、誰かが泣いている。
地面に突き刺した剣は、光輝き、地面から生えてきたバラのツルに守られる様に巻かれてゆく。
私は静かに目を閉じた。
ものすごい勢いで落下していく―――!
何かに掴まらなきゃ……。何かに――。
辺りを見渡したが、また光に遮られなにも見えなくなる。
けれど突然、目の前に現れたのは、地面に突き刺した剣。
私はすがる様にその地面から生えた剣の柄を掴んだ。
なんとか剣に捕まり、落下は防いだ。
私が胸をなでおろすとバサバサと地面にノートが落ちる音。
何故かその光景に違和感を感じたけれど、私は日本の腕で必死に自分の体重を支えていてそれどころではなかった。
「【追悼】の剣で、何をしているのですか?」
目の前の人は、震えながらメガネをクイッとあげて、必死で落ち着いた声をだす。
白い白衣に胸ポケットにはごちゃごちゃとペンが入っている。
何故かその場景も不自然で――…その不自然な理由がやっと分かった。
「何故、貴方は反対に立ってるの?」
私は目の前の人と逆さまに見つめあっていた。
「地面から、空へ落ちそうになっているのは貴方の方ですよ」
彼は信じられないと呟きながらも、落としたノートに何かを書きなぐっていく。
(え――?)
私はゆっくり足元を見る。
そこは、
吸い込まれてそうな青い空――。
「えぇ――! なんで? どうなってるの?」
私はこの剣を離すと、空に落ちていくってこと?
何故――?
重力は何してるんだ―!
「とりあえずそれ以上【追悼】の剣に触れるのは止めて頂きたい。それは国の重要文化財で有り、今でも【いつの時代の何の出来事の名残】か調査中なのですよ?」
その男の人はキリッと仕事の顔に戻ると私を冷ややかに見つめる。
「でも、私これ離すと空に落ちちゃいます」
ハァッとため息を溢された。
「誰も、この剣を抜けずに最低でも400年は経っているというのに! 前代未聞の非常事態です」
チラリと私の格好を眺めながら訝しげに睨む。
「貴方も非科学的な【魔法】の研究をしたのですか?
でしたら当然の報いですよ。そんな非科学的な力を信じ、その力に甘んじて自分の精進を怠るから」
魔法?
研究?
「重力を逆さまにしたら剣が抜けるとも思ったのですか? 私は魔法を使って何かできると思うのは浅はかな恥ずかしい考えだと思いますよ。この剣は、歴史の年月の重みで突き刺さっているのですよ? その重みも理解せずに抜こうとするなんて、私の研究の邪魔も良いとこです」
「だらだら分かりましたから! だったら助けて下さいよ。私が望んでこんな事していると思うなら貴方に研究は向いてないと思うわ」
段々と手が痺れて痛くなってきているのだ。
こうずっと彼の話を聞いていたら、多分私は空に吸い込まれてる。
「わ、私がどうこうできる問題では有りません。リーダーを呼んでくるのでまだ頑張って耐えて下さい」
彼は私に背を向けて、遥か向こうの塀の奥の冷たい機械じみた研究所へ駆けてゆく。
その研究所の方が、この場所には不似合いで何故か私を不快にした。
その私の不快な思いに比例するかの如く、微かに剣が地面から抜けようと動いた。
ええ――……!
剣が抜けてゆく感触に私は青ざめる。
堕ちていく……?
研究生は背を向けていくから気付かない。
声を出したら本当に終わりな気がして私はギュッと目を瞑った。
***
ピタッと「時」の番人は動きを止めた。
「誰だ。【追悼】の封印を起こす者は。もし「時」の神に気付かれてみろ、今度は、オーバードライブだけじゃ済まないぞ。「時」が終わる――……」
そしてフと迷子の少女の顔が頭をよぎる。
歳はまだ20歳もいかないだろう、あの幼き少女に良く似たあの少女。
「頼むから、番人の平穏をこれ以上奪うなよ」
***
もう駄目だ。
剣が抜けるのは絶対いけないから、私が手を離すしかない。
でも空に落ちたらどこまで行くのかな。
宇宙にさ迷う頃には死んでしまうよね。
不安に押し潰されそうになりながら、ゆっくりと手を離した。
が、手が開かない。私の意志が手に全く反映されていない。
「離れないっ」
ダメだ!
もう剣は半分抜けてしまっている。
このままじゃ本当に――……。
その時だった。
ゆっくりと青いマントをなびかせて、地上に降り立つとその人はゆっくりと『時』を止めた。
「これ以上迷子になっちゃ駄目だよ…」
フーー……間に合った、と安堵しながら、「時」の番人は私の手から剣を離し、私を横抱きで受け止めると、地上へ下ろした。
「ありがとうございます……」
自分より背の高い番人を、少女は見上げる。
少し困った顔で笑っている番人の、顔が見えそうで更にじっと見つめていたら、
「貴様ら何をしている! 何故剣が動いているのだ! せっかくの研究を…!」
声のする方へ番人は振り向いた。
その顔は険しく、鋭く怒っているようだった。
「いいか、よく聞けよ」
「この剣の封印を解いたら、研究どころではないよ。一瞬で世界が終わるんだからな。忘れるなよ。この封印はお前達が関わっていいものじゃねえんだから」
数人の研究生や研究者は息を飲んだ。
番人の言葉に嘘,偽りがないと分かったから。
私に話かけた研究生は、ノートをパラパラとめくり、何かを探していた。
「おい、人の話を聞いているのか?」
番人はその研究生の傍へ歩みよる。
研究生はノートのあるページを見て固まり、ノートから目を離さずに言った。
「書物に伝説的に残され、度々不都合な『時』を隠す番人……。魔法や伝説は信用に値しませんが……
ですが……貴方があの悪名高い『時』の番人なのですか?」
全身を震わせて研究生が尋ねると、番人はにやりと笑う。
そうだよ、と短く答えた。
それは、「何」に対しての返答なんだろう。
「貴方に関する書物は辻褄が合わなくて不自然で……。貴方は自分を守る為に力を使うのは愚かなで浅ましい行為だと思わないのですか?」
―……あぁ、また
哀しいあのメロディが流れてくる。
「浅ましくて愚かで馬鹿げてるよね。でも、お前も剣の状態を気にして研究所に駆け込んだよな。彼女の命を何よりも優先しなきゃいけなかったのに」
愚かで自分の欲で動くのは、当たり前なんだよ。
番人はそう言い残すと、「時」の中へ消えていった。
ああ、誰かが泣いている。
地面に突き刺した剣は、光輝き、地面から生えてきたバラのツルに守られる様に巻かれてゆく。
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