目を閉じたら、別れてください。

篠原愛紀

文字の大きさ
上 下
62 / 62
エピローグ

しおりを挟む

 意外と独占欲の強い進歩さんは、キスしている姿を見せたくないと言っていた。
 私も恥ずかしいから見せたくないので、頬にしようねって約束していた。

 なのに、彼はベールを持ち上げると、自分がその中に入って、誰にも見せないように一瞬口づけた。

 彼の子どもっぽい行動に、クスクス笑っているのは沙也加だけだった。

『進歩さんと恋愛がしたかったっ……』

 そんな馬鹿な私の願いを、毎日叶えてくれる。
 私にはこのキスさえ、少女漫画のようにロマンチックで嬉しくて、涙がボロボロこぼれてしまった。

 いっぱい泣いた。
 そのほとんどは、自業自得だったとしても。

 私はその倍、幸せに包まれていたと思う。

 その倍、あなたの隣でドキドキしていた。

 進歩さんと歩くバージンロードは、ぐしゃぐしゃの視界でなにも見えなかった。

 皆が投げてくれる花弁が、キラキラと分かるぐらいで、あとはもう鼻水が出ないように唇をかみしめるのがやっとだった。
「お前、メイク崩れてねえ?」

 バージンロードを渡り、庭から屋敷へ戻る前だ。
 招待客が移動する間、入ってきた扉の前でスタンバイしないといけなかったのだが、彼が急にそんなことを言うんだから、慌てて顔を隠した。

「えええ、うそ。アイライン? パンダ? パンダになってる?」
「いや、そんなひどくねえけど、メイクの人呼んで直してもらえ。移動に時間かかるし」
「ひええ」

 急いでメイクしてくださった人が駆け寄ってくれて、鏡を差しだされ確認したけど、メイクは乱れていなかった。

 よくよく考えれば、メイクが崩れないようにと一時間以上かけたんだ。
 泣いたぐらいでパンダになるわけない。

「もー、なんでこんな時に嘘つくの!」

 さっき見直していたのに。せっかくロマンチックだったのに。
 簡単に髪やメイクを整えてもらいながら、隣にいたはずの進歩さんを探す。
が、見える範囲に見当たらなかった。

「え、ちょ、進歩さん?」

 慌てて探そうと駆けだした私の後ろで、館へ向かう道の扉が開かれた。

 やばい。招待客が私たちにまた花びらを投げながら、お祝いしてくれる大事な場面なのに。

 皆に見守られ、館に入ってから色打掛に着替えている間に皆が席に座って待つってことなのに。

「桃花」
「ぷっ」

 扉が開いて、招待客の並ぶ道の真ん中に彼が立っていて思わず笑ってしまった。

「ちゃんとしたプロポーズをしていなかったって、一生言われ続けると俺も困るから」

 そんな悪態をつきながら、真っ赤なバラの花束を持って、私の前に歩いてくる。


「お前が目を閉じるその日まで、ずっとそばにいさせてください」


 今度こそ、化粧が落ちてしまいそう。

 私は嘘つきで、あれもこれも嘘で、結婚だって面倒じゃないお見合いを選んだくせに。

 ――目の前の彼は、私に嘘は吐かない誠実な人だった。
 意地悪だし、口は悪いし、誰よりも優しい人だ。


 きっと私は日毎、彼への思いで溢れて、苦しくなる。

 この百本のバラの花束よりも、気持ちはあふれて貴方を好きだと叫ぶだろう。
 何もかも足りないぐらい、彼が好きだ。

「私が目を閉じても、離れないで」

 我儘を言うと、彼はまた面倒くさいなって言いながら嬉しそうに笑った。

「これからも面倒くさいと思う、あなたが好きだから」

 そういうと、彼は幸せそうに私の頬に口づけしたのだった。


Fin
しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

柚木ゆず
2019.11.19 柚木ゆず

桃花さんにはリアリティーがとてもあり、すごいバランスで成り立っている、という部分に引き込まれました。

ただ単に読むのではなく、色々と考えながら様々な角度で読むことができる、素敵な作品だと感じます。

2019.11.21 篠原愛紀

すみません💦まだ機能に慣れておらず返信場所が分からず彷徨っていました。
感想ありがとうございます。
色々悩み空回り、桃花も性格拗らせながらも成長していけたらいいなと書いていたのでまた、色々感じていただけて嬉しいです。

解除
徒人
2019.11.18 徒人

桃花の複雑な心情の変化を知るにつれて、どんどん引き込まれていきます。疑う心も諦念も、どこか共感できて、余裕と油断の見える進歩の行動ひとつひとつに、ハラハラが止まりません。
 他作品も前々から読んでいたものがあったのですが、こちらの作品はより共感しやすいので、より好みです。
 続きがとても気になります。執筆作業頑張ってください。

2019.11.18 篠原愛紀

徒人さま
感想ありがとうございます。
嘘つきで、臆病で、性格悪く、でも本気の恋をした桃花に共感していただきありがとうございます。
進歩も問題だらけでもどかしいかと思いますが、更新頑張ります!ありがとうございました。

解除

あなたにおすすめの小説

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

貴方だけが私に優しくしてくれた

バンブー竹田
恋愛
人質として隣国の皇帝に嫁がされた王女フィリアは宮殿の端っこの部屋をあてがわれ、お飾りの側妃として空虚な日々をやり過ごすことになった。 そんなフィリアを気遣い、優しくしてくれたのは年下の少年騎士アベルだけだった。 いつの間にかアベルに想いを寄せるようになっていくフィリア。 しかし、ある時、皇帝とアベルの会話を漏れ聞いたフィリアはアベルの優しさの裏の真実を知ってしまってーーー

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

誰にも言えないあなたへ

天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。 マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。 年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。

誰もがその聖女はニセモノだと気づいたが、これでも本人はうまく騙せているつもり。

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・クズ聖女・ざまぁ系・溺愛系・ハピエン】 グルーバー公爵家のリーアンナは王太子の元婚約者。 「元」というのは、いきなり「聖女」が現れて王太子の婚約者が変更になったからだ。 リーアンナは絶望したけれど、しかしすぐに受け入れた。 気になる男性が現れたので。 そんなリーアンナが慎ましやかな日々を送っていたある日、リーアンナの気になる男性が王宮で刺されてしまう。 命は取り留めたものの、どうやらこの傷害事件には「聖女」が関わっているもよう。 できるだけ「聖女」とは関わりたくなかったリーアンナだったが、刺された彼が心配で居ても立っても居られない。 リーアンナは、これまで隠していた能力を使って事件を明らかにしていく。 しかし、事件に首を突っ込んだリーアンナは、事件解決のために幼馴染の公爵令息にむりやり婚約を結ばされてしまい――? クズ聖女を書きたくて、こんな話になりました(笑) いろいろゆるゆるかとは思いますが、よろしくお願いいたします! 他サイト様にも投稿しています。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

悪妃になんて、ならなきゃよかった

よつば猫
恋愛
表紙のめちゃくちゃ素敵なイラストは、二ノ前ト月先生からいただきました✨🙏✨ 恋人と引き裂かれたため、悪妃になって離婚を狙っていたヴィオラだったが、王太子の溺愛で徐々に……

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。