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エピローグ
二
しおりを挟む意外と独占欲の強い進歩さんは、キスしている姿を見せたくないと言っていた。
私も恥ずかしいから見せたくないので、頬にしようねって約束していた。
なのに、彼はベールを持ち上げると、自分がその中に入って、誰にも見せないように一瞬口づけた。
彼の子どもっぽい行動に、クスクス笑っているのは沙也加だけだった。
『進歩さんと恋愛がしたかったっ……』
そんな馬鹿な私の願いを、毎日叶えてくれる。
私にはこのキスさえ、少女漫画のようにロマンチックで嬉しくて、涙がボロボロこぼれてしまった。
いっぱい泣いた。
そのほとんどは、自業自得だったとしても。
私はその倍、幸せに包まれていたと思う。
その倍、あなたの隣でドキドキしていた。
進歩さんと歩くバージンロードは、ぐしゃぐしゃの視界でなにも見えなかった。
皆が投げてくれる花弁が、キラキラと分かるぐらいで、あとはもう鼻水が出ないように唇をかみしめるのがやっとだった。
「お前、メイク崩れてねえ?」
バージンロードを渡り、庭から屋敷へ戻る前だ。
招待客が移動する間、入ってきた扉の前でスタンバイしないといけなかったのだが、彼が急にそんなことを言うんだから、慌てて顔を隠した。
「えええ、うそ。アイライン? パンダ? パンダになってる?」
「いや、そんなひどくねえけど、メイクの人呼んで直してもらえ。移動に時間かかるし」
「ひええ」
急いでメイクしてくださった人が駆け寄ってくれて、鏡を差しだされ確認したけど、メイクは乱れていなかった。
よくよく考えれば、メイクが崩れないようにと一時間以上かけたんだ。
泣いたぐらいでパンダになるわけない。
「もー、なんでこんな時に嘘つくの!」
さっき見直していたのに。せっかくロマンチックだったのに。
簡単に髪やメイクを整えてもらいながら、隣にいたはずの進歩さんを探す。
が、見える範囲に見当たらなかった。
「え、ちょ、進歩さん?」
慌てて探そうと駆けだした私の後ろで、館へ向かう道の扉が開かれた。
やばい。招待客が私たちにまた花びらを投げながら、お祝いしてくれる大事な場面なのに。
皆に見守られ、館に入ってから色打掛に着替えている間に皆が席に座って待つってことなのに。
「桃花」
「ぷっ」
扉が開いて、招待客の並ぶ道の真ん中に彼が立っていて思わず笑ってしまった。
「ちゃんとしたプロポーズをしていなかったって、一生言われ続けると俺も困るから」
そんな悪態をつきながら、真っ赤なバラの花束を持って、私の前に歩いてくる。
「お前が目を閉じるその日まで、ずっとそばにいさせてください」
今度こそ、化粧が落ちてしまいそう。
私は嘘つきで、あれもこれも嘘で、結婚だって面倒じゃないお見合いを選んだくせに。
――目の前の彼は、私に嘘は吐かない誠実な人だった。
意地悪だし、口は悪いし、誰よりも優しい人だ。
きっと私は日毎、彼への思いで溢れて、苦しくなる。
この百本のバラの花束よりも、気持ちはあふれて貴方を好きだと叫ぶだろう。
何もかも足りないぐらい、彼が好きだ。
「私が目を閉じても、離れないで」
我儘を言うと、彼はまた面倒くさいなって言いながら嬉しそうに笑った。
「これからも面倒くさいと思う、あなたが好きだから」
そういうと、彼は幸せそうに私の頬に口づけしたのだった。
Fin
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桃花さんにはリアリティーがとてもあり、すごいバランスで成り立っている、という部分に引き込まれました。
ただ単に読むのではなく、色々と考えながら様々な角度で読むことができる、素敵な作品だと感じます。
すみません💦まだ機能に慣れておらず返信場所が分からず彷徨っていました。
感想ありがとうございます。
色々悩み空回り、桃花も性格拗らせながらも成長していけたらいいなと書いていたのでまた、色々感じていただけて嬉しいです。
桃花の複雑な心情の変化を知るにつれて、どんどん引き込まれていきます。疑う心も諦念も、どこか共感できて、余裕と油断の見える進歩の行動ひとつひとつに、ハラハラが止まりません。
他作品も前々から読んでいたものがあったのですが、こちらの作品はより共感しやすいので、より好みです。
続きがとても気になります。執筆作業頑張ってください。
徒人さま
感想ありがとうございます。
嘘つきで、臆病で、性格悪く、でも本気の恋をした桃花に共感していただきありがとうございます。
進歩も問題だらけでもどかしいかと思いますが、更新頑張ります!ありがとうございました。