目を閉じたら、別れてください。

篠原愛紀

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目を閉じたら、別れてください。

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Side:神山進歩

 めんどくさくて可愛いハニーの話しでもしよう。
 恋愛経験も少なく、理想は少女漫画の中の砂糖みたいな愛を吐く激甘ヒーロー。

 屈折しているため、少しでも俺が友達に、結婚のことで謙遜すると拗ねる。
 拗ねるだけならいいが、こじらせてなにかとんでもない嘘を言ってくるから面倒くさい故に可愛い。

 結婚してない奴や、離婚した友人に、結婚についてのろけていいのかと八方美人だった俺の態度は、ずっと桃花を傷つけて追い詰めていたらしい。


 元カノのことだって、俺は一生黙ってるつもりというか、言っても意味のない過去だと思っていたが、桃花は気づいてしまったらしく驚いた。


 こっちが何の感情も持ってないことでも、繊細に傷つくとは思わなかった。

 だからこそ、相手がどんな反応をするか目でしっかり確認しながら会話する。

 これも結構楽しい。
 あと甘やかすと、すっげえ真っ赤になるとことか可愛い。
 包丁の持ち方とか綺麗で、キッチンをつい覗いてしまう。

『ちゃんとうちの姪っ子に愛情はあるのかな』

 少し前に斎藤専務にそう言われ、固まったことがある。
 半ば強引に、婚約解消された。なので半ば強引に俺も婚約しなおした。

 一方にしか愛がない結婚は不幸になるらしい。
 俺だけ執着して、俺だけ桃花が好きで、――桃花は面倒くさくない相手だから妥協してくれているんじゃねえかなと。


 愛情はあるが、俺だけあるみたいな現実は少し寂しく感じられた。

「利益がある、それだけで俺はいいっすけど」
「……どういう意味?」

 専務は本当に分からないって様子で首を傾げた。

「別に桃花が俺を、『条件のいいお見合い相手』としか認識してなくても、俺はあいつが好きで、俺にもあいつにも利益があるなら、俺はそれ以上はわがまま言わないってことです」

「……んん? 私は、君が桃花に愛情があるかって聞いたのにどうしてそんな返答になるのかな」

「一度大嘘たたいてまで逃げられた身ですからね。俺だけ愛情があると、ちょっと気持ち悪くないっすか?」

 俺の言葉に、専務は少し下を向く。伏し目がちの目が、男の俺でも色気があるなとかんしんしてしまった。

「やはり、桃花の一番最初のあの嘘が、君をとても傷つけていたんだね」
 しんみりと言われて、あの時は思わず噴き出したのを覚えている。

「傷かどうかは分からないけど、もう許してたことなんで俺からは責めるつもりはないっすよ」
「でも君は――どこかでまた嘘を吐かれても傷つかないように、逃げ場を用意しているように思えたんだが」

 友人前で強がるのは、嘘をつかれた時の逃げ場ってことか。
 言われないと気づかなかった。


 でも確かに、俺は桃花を包み込んでやって安心させてやれる男じゃねえかもしれねえけど、あんな面倒くさいとこが可愛い女を、好きになるのは俺ぐらいだと思っている。

 どんな奴が現れようと、俺以上に好きになれる奴はいない。

 嘘も含めて可愛いと思ってんのは俺だけだろ。
 それに今は逃げ場も必要ない。

 吉田たちの前でも、強勢はやめているし。

「暑いな」

 土地管理、売買専門である部署だが、何分、俺も知識はほぼない上に新しく始めた部署。派閥の権力誇示のために担がれたせいだが、どうせすうねんは色んな部署を勉強したいので、ない知識は学ぶしかない。

 今は提携先とこうやって実際に歩き回って確認する方が多い。

 桃花の祖父の山を買い取ったが、今日はそこを伐採したあとに建てられる建物の位置を確認していた。
 管理は確かに杜撰だったが、平らにしてしまうので問題はない。

 数年先にここにファミリー向けの大型のショッピングモールができ、タワーマンションが建ち……と考えるとしばらくは走り回ることになる。

 今、結婚しておかないと数年は忙しいので、嘘に気づけたタイミングがちょうどよかった。

「神山部長、スーツの中の携帯がずっと鳴ってますよ」

 同じ部署の新人が車から降りて俺に手を振る。
 俺が提携先の社員たちと地図を広げて実際の位置等を確認している間、暑さでダウンしたひ弱い新人だ。

 車の中で休んでいる指示をしていたが、まだ顔色は良くなっていなかった。帰してやりたいが、本人は休んでいれば大丈夫だとタクシーを呼ぶのを拒否していた。

「寝ているときに悪いな。具合は?」
「すいません。もう少し」
「いや、俺さえ把握してればいいことだから、気にすんな」

 八方美人と桃花に言われるだけはあって、一応顔合わせで大事な場面だが体調管理の甘さを指摘できず、そう労わっておく。

 俺だったら、外出前に体調悪いことを言っておく。
 そうすれば現場で迷惑かけることはない、と思うのだが。

 ジャケットの中の携帯を取り出しながら、そんな嫌みが浮かぶから俺は性格が確かに悪い。

 桃花も、こんな俺によくもまあ夢見るように結婚を承諾してくれたな。

「……斎藤専務からだ」

 着信は数分おきに専務からかかってきていた。
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