目を閉じたら、別れてください。

篠原愛紀

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目を閉じたら、別れてください。

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 イチャイチャは嫌ではないし、同じ家に進歩さんがいるのも悪くない。
 でも漫画読んでるときは一人で世界に浸りたい。
 結婚したら一人の時間てどうやって作れるのか。

 一緒に住んで気づいたんだけど、けっこう進歩さんは私の周りに来る。
 料理してたら手伝いにキッチンに立ってくれるし、お皿洗ってたら拭いてくれるし、もう寝るか聞いてきて、ドラマを観ると言えば興味もないくせに一緒に見たがる。

 意外と甘えっこなようで、はっきり言って性悪なくせにギャップがあって可愛い。
でもわがままを言えば一人でのんびりする時間も欲しいなあ、とか思ったり。


 それにダイエットも。
 家では食事制限に限度もあるしやはりお昼は徹底的に抜いて、朝も誤魔化さねばならない。



 ここは、彼氏と同棲している泰城ちゃんに聞くしかない。

「一人の時間が確保できない?」
「そう。ずーっと一緒って息が詰まらない?」

 今日の泰城ちゃんは、商店街に新しくできたパン屋さんの出来立てメロンパンとサンドイッチ。
 バターの香る甘いメロンパンは美味しそうだったけど、私は家から持ってきたサラダをもそもそ食べる。
 なんで泰城ちゃんは、そんなにおいしいものばかり食べてるのに、全然太らないんだろう。

「えー、私はトイレまで一緒に入るよー。一緒の家にいるんだから誰にも見られないなら一ミリでも離れたくない」
「ええええ」
「先輩、まだよく見せようと思ってますよね。旦那さん、先輩が面倒でも愛してるって言ってたんだから、素を見せても大丈夫ですよー。流石にすっぴんは見せてますよね?」

「うん。朝とかほぼすっぴん」
「すっぴんに何も言わない男は、私のデータではいい男です。すっぴんの方が可愛いとか、俺といる時ぐらい化粧しろよとか言っちゃう系の男より、自然と受け入れてくれる人の方がいいですよ。トイレもすんなり一緒に入ってくれるし」
「いやあ、……トイレはいいかな」

 参考になるやらならないやら。
 ただ進歩さんが、トイレまで一緒に入りたがる人ではなくて良かった。

「というか、先輩、顔色悪いですね」
「うそ。無理ないダイエットしてるのに」
「800カロリーに抑えて水飲んで、駅は一つ分長く歩く、これだけで十分って言ってましたよね?」
「そうそう。だからなんでだろ。生理前だからかな」

 本当は、朝も抜いて昼もサラダで、夜ご飯も隙あらばカロリー低いものと変えたり、進歩さんが遅いときは抜いたりと涙ぐましい努力をしている。

「でも背中のラインとか二の腕とかちょっとすっきりしましたね」
「そうでしょ? ドレスに試着もそこまで肉がドレスに乗らなかったし。コルセットは痛いけど、細く見えるならもっと強いのでもいいしね」
「あんまダイエットはまると駄目ですよお。胸が小さくなっちゃうんですから」
「気を付けまーす」

 が順調にラインがきれいになってきているなら少しだけ安心だ。

 でも今日は立ち上がったら少し眩暈がしたので、夜も少しご飯を食べようと思った。
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