目を閉じたら、別れてください。

篠原愛紀

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目を閉じたら、別れてください。

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「井上がさぁ、二次会に流す2人の写真ないかって」

「ほぉ。それはお風呂中のハニーにわざわざ今言う必要はあるかな?」
「俺も一緒入るわ」

 入っていい?
 じゃなくて、入るわとすんなり脱ぎ出して戸惑う。
 急いで流して湯船に薔薇のバスオイルとかなんとかをいれる。

「あー! お前、すぐ逃げるよな」
「ば、馬鹿じゃないの」
「俺が洗い終わるまで、出るなよ」

 拗ねた言い方が不覚にも可愛いと思ってしまった。
 が、絆されない。絆されたら毎日一緒にお風呂に入りたいとか言い出しそう。直視できないので、赤く染まっていく湯船を見つめる。

「で、話戻すけど、二次会に流す2人の写真全然ないから、どっか出かけよう。水族館とか水族館とか、あとは水族館」
「なんで選択技が一つなの」

 日曜は私が休めないから平日の水族館は、人が空いてそうでいいけど。

「駅に二人乗り自転車貸出サービスできたよ」
「お。面白そう。それもやりたいな」自転車で駅から商店街一周して、大きな公園があるのでそこでお弁当でも広げて食べれば、少しは運動になる。
 あ、でもエステシャンの人が、日焼けは絶対にしないでくださいって言ってたから日焼け対策してから自転車に乗るとすれば、写真使えないな。

「あと、結納の写真もなかったら、お前のじいちゃんもうちの親もうるさいし、ホテルで食事会ぐらいはしとくか」
「前の結納の時の写真は流石に使えないもんね。仕方ないよ」

 本当に結婚となると、面倒な話がどんどん出てくる。
 面倒だからこそ、好きな人じゃないとできないことだ。

「ちょっと楽しいよな」
「え?」
「準備。面倒くさいのが」


 面倒くさいことが好きって、進歩さんは変態なんじゃないか。
 変な人だからこそ私を選んでくれたわけだけど。

「じゃあ俺は水族館。桃花はサイクリングの計画立てよう。俺は次の水曜かな。休めるなら。ホテルはいつものとこ俺が予約しとく。正月に神山親族があつまって食事会するとこ」

「最初の結納の時に行った、庭にすっごい岩がボンボン置いてある池があるとこね。ひえ」
「サイクリングは?」
「来月かな。休み合わせられたら合わせるよ。土日どっちかなら休めるし」「どうせなら一眼レフ買おうかな」
「また無駄使い。新居の家具も見に行くんでしょ」

 あと三か月で式なのに、全然他が揃っていないことに焦る。
 これは本当にしりに火を付けなくては。

「もうこのマンションでいいんじゃないの?」
「桃花はそうやってすぐ妥協する。このマンションはビジネスマン向きだろ。ファミリータイプか一軒家がいい」
「……ひい」

 どこからそのお金が出るのか考えただけでも恐ろしい。
 私は一人暮らしのしがないOLだが、彼は違う。

 海外の銀行勤務のせいか、なぜかスイス銀行にも貯蓄があるらしいし、神山商事を継ぐだけあってお金の使い方が大胆だ。

 叔父さんだって専務だから、高収入だろうに全く無駄使いしない質素な生活に対し進歩さんはちょっと華やかだ。

 私は少女漫画の招集棚さえあれば、他に贅沢は言わないのに。

「お前もそろそろ、今の事務所が移転するのに対してどうするか考えなきゃ。仕事辞めてもいいし、続けるならどの部署にするかだよな。流石に俺と同じとこは無理だけど……俺の秘書とかやべえ。楽しそう」
「辞めたら、神山商事の財産の前に堕落しそう。最低限自分の趣味ものだけは自分で稼ぎたいな」

「お前のじいちゃんが『桃花は可愛いお嫁さん』になればいいって言ってたから、働いてたらうるさいだろうなあ」

「おじいちゃんとかうちの親は大丈夫。最終的には私が決めたらそれでいいって感じだし」

「うちは、大事に育てられた縁のあるお嫁さん☆だから大切に扱わなきゃってそわそわしてんぞ」

 神山商事のご両親が思い出されて、思わず噴き出した。
 いや、良い人たちなんだ。ちょっと考えが昭和な人たちだから、私がミニスカートとか履いたら泡出して倒れそう。

「だーりん、私そろそろ熱いから出るよ」
「は? お前、俺が髪を洗って手が離せないときにそんな卑怯なことを言うのか」

「いやー。ほんとに熱いんだよねえ」

「ここでイチャイチャかベッドでイチャイチャか、偶にはソファでイチャイチャか、さあ選べ、俺の面倒くさいハニー」

「……くそう」

 面倒くさいって言いながら、にやにや幸せそうに笑ってる。
 そのまま眠れて楽なのは、ベットだよねえ。

 だけど一番長いのも、ベットだ。
イチャイチャとか可愛いものでもない。
「えっと、今日は疲れてるので」
「了解。ベットでイチャイチャな」
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