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オオカミ男、オオカミ女
三
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「頼む。次の早番、変わるから」
「温いですね。私だって仕事があるので」
つんっと鼻先で追い払うが、笹山は私を神のように拝めて何度も何度も懇願してくる。
私を本社に一緒に同行させたいらしい。
「叔父さんは雰囲気が怖いだけで、中身はおちゃめなオジサンだってば」
「身内だからそう言えるんだ。お願いだ。駅の角にあるスイーツ屋のケーキ、あとシュークリームも並ぶ」
「笹山、何をしてるの? はやく車を出して」
駅角のスイーツカフェ『ロマニ』は、わざわざこの駅に降りて買っていくほどパリパリの皮のシュークリームが人気。ホールのケーキは毎日日替わりで種類が違うし、たまに遊び心を入れて小さなシューで作るタワーケーキやマーブルチョコで飾り付けたロールケーキとか作ってたりと、毎日覗きたくなるスイーツが売っている。
そのこシュークリームを一時間並んでくれるなら、まあ仕方がない。
シートベルトを閉めながら心が踊り出しそうだったが、笹山は私を訝しげに見てくる。
「何?」
「いや、色気がないですよねえと」
「殴るよ?」
肩を叩いた後に、殴るよと言ってしまったけど、これは致し方なし。
「だって都築さん、全然色っぽい話にならないじゃねえかよ!」
「あんただって、散々スイーツで釣っておいてなによ。『今度デートしてやるからな』とでも言いたかったの? きっざ」
笹山は同期だし、爽やかスポーツ少年系のオーラがあって好みではない。
絶対に学生時代、スポーツうまくてちやほやされていた、リア充な匂いがする。
「そうじゃなくてさあ。なんていうんだろ。色気がねえ」
「よし。歯を食いしばりな」
「会話の中に、全く自分を女として匂わせないってことです。昨日だってクレームあったんでしょ。なのに泰城ちゃんみたいに誰かに助けを言わず、一人で面倒くさそうに対応してたとか」
「ああ。神山さんが言ってたの? あの人は叔父さんの部下だから。それだけ」
それ以上は彼の話題を出すなとオーラを出す。
笹山は気づいたのか、無言で車を出した。
ここから本社までは30分は車でかかる。しまった。電車にしとけばよかった。
同期だから、こいつは知ってるんだよね。進歩さんと私がお見合いし婚約中だったこと。
「海外赴任についていくのが怖くて別れたって、神山には聞いてた」
「は?」
「でもそれって帰ってきたらどうなるのかなとか、思うじゃん」
海外赴任についていくのが怖くて婚約破棄?
それは私は知らなかった。私からは勿体ない相手だからと親が怒るのを無視してそれ一点張りで押し通したし、彼には結婚できない体になったからと言ったのに。
「本人によくもまあ聞けるよね」
「都築さんがそんな色っぽくなくなったのって、婚約破棄してからじゃないかなあって」
「余計なお世話よ。元々、恋愛結婚は面倒だなって思ってただけ」
それ以上は聞きたくなくて、不機嫌オーラを出す。
「あのさ。言いたくないことを聞くって、笹山ってデリカシーないしモテなさそうだね」
「うわ、ダメージきた。ダメージ200だ」
「私、こんな奴だから愛想つかされたの。これ以上聞くなら本当に帰るから」
泰城ちゃんなら素直に話せたけど、笹山は口が軽そうだし信用ならない。
ただそれだけで不機嫌になってしまう自分も自分だけど、億劫なのは隠せなかった。
こう考えると、やはり進歩さんは理想的な人だった。偽りだったにしろ、あんなに一緒に居て楽な人もいなかった。
本社までの長い30分。
彼と笹山を比べたくなくて、BGMの音量を上げた。
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