淫獣の育て方 〜皇帝陛下は人目を憚らない〜

一 千之助

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 皇帝陛下は離さない 2

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「……人間に戻れたら話は早いですのに。オルフェウス様、戻りたくはないのですか?」

 ブラッシングをしてやりながら、騎士は何とはなしに聞いてみる。心地好さげに身体をあずけていたオルフェウスは、しばし思案してから首を振る。縦に。
 それを見て、喜色満面になった護衛騎士ら。

「これは呪いなのですよね? 解けますか?」

 積極的にオルフェウスの世話をし、以前も苦しむオルフェウスの話を聞いて、逃亡まで手伝ってくれた騎士達だ。信じてみようとオルフェウスは思った。
 すくっと立ち上がり、狼は大きな木の根元へいく。それを追って騎士達も移動した。
 そして根元の土部分に、オルフェウスは爪で文字を書く。……が、予想に反して上手く書けない。

 ……くそ。こんな身体でなきゃ。

 必死に何度も書き直す狼。
 
 それを見て、何かを伝えたいのだと理解した騎士らは、翌日、ある物を持ってきた。



「うちの子のお下がりですが。これなら並べるだけです」 

 そこには五センチ四方の積み木。四面それぞれに別な文字が入り、同じ文字も複数ある優れもの。
 色とりどりな文字の積み木を見て、オルフェウスは、ぱあっと顔をひらめかせた。
 そして、かちゃかちゃと積み木を並べる。

「魔女……が……知って……る。 そうか、あの日、自らかけられたんですものね。すっかり失念しておりました」

 うんうんと頷くオルフェウス。

 条件付が面倒なため、積み木でも説明は難しい。だから直接、魔女に説明してもらえば早い。
 慌てて駆け出した一人の騎士を見送り、オルフェウスは積み木を袋にしまうと、それを咥えて駆け出した。
 
「どこへ?」

 残った護衛騎士が狼の後を追いかける。



「……散歩は終わったのか? なんだ? それは」   

 戻ってきたオルフェウスを見て、皇帝陛下は首を傾げた。そこへ、ばらっと積み木を散らばせ、オルフェウスは器用に文字を作る。

「……? ……して? なにを」

 かちかち積み木の音が響く室内。固唾を呑んで見守る騎士と、何の気なしに見つめるアンドリュー。
 そしてアンドリューの眼が、みるみる見開いた。

 ……伝われ。もう失うものは何もない。破れかぶれだっ!

「……キス? ……キスして? と?」

 はっはっと全力で尻尾を振るオルフェウス。

 それを信じられないものを見る眼差しで見据え、皇帝陛下は膝を折る。その皇帝陛下に飛びつき、オルフェウスは自ら口づけた。
 ちゅちゅと顔を寄せ、アンドリューの首に前足を絡ませると、呆然とする彼の唇を舐めて舌を差し込む。
 びくっと大きく震えたアンドリューだが、夢にまで見たオルフェウスの柔らかな舌を絡められ、さっくり箍が外れる。
 力任せに狼の頭を掴み上向かせると、噛みつくようにアンドリューは貪った。何度も角度を変えて深く口づけ、無意識にオルフェウスの股間を撫でる。

『ヒャンっ!』

 思わず腰を引かせるオルフェウスだが、それを許さず、キスの余韻で膨らみ始めていた御立派様を優しく撫でた。

「嫌なのか……?」

 うっとり呟くアンドリュー。それに全力で首を横に振るオルフェウス。
 にっこり淡く微笑み、皇帝は手の動きを早めていく。

「じゃあ続けるぞ?」

 ……ここでっ?!

 周りには騎士や侍従達。

 あわあわ狼狽つつも、慣れた愛撫には勝てず、執務室にか細い狼の悲鳴が響き渡った。



「文字の積み木か。考えたな。誰の物だ?」

 あの後、二回イかされ、くったり横たわる狼。その頭を己の膝に乗せて、如何にも幸せそうに撫で回すアンドリュー。
 周りの人々は平静を装っているが、内心は赤面中。
 前は皇帝陛下の御乱心と、悍ましい気分でしかなかったのに、その中身がオルフェウスだと知っただけで、この御乱交も恋人達の濡れ場にしかみえなくなるから不思議だ。
 
 ……ああ、そういや、玩具を使ったりと随分なことをなさってましたっけ。……ヤバい、思い返しただけで勃ちそう。

 あれらも全てオルフェウスだったのだ。先程までの佳がり泣きじゃくる狼を思い浮かべ、以前のような嫌悪感の全くない自分に騎士は驚いていた。

 ふわふわと幸せそうに撫でられていたオルフェウスは、皇帝陛下の呟きを耳にして、つと騎士に視線を振る。
 それを追い、皇帝陛下も騎士を見上げた。

「……お前か」

「は……、我が子のお下がりです。少しでもオルフェウス様のお慰めになればと」

「……ありがとう」

 瞬間、騎士は耳を疑う。

 ……あの陛下が礼を言ったっ?!

 傍若無人を絵に描いたような人物。出来ぬことは何もなく、一方的な蹂躙と圧倒的な力で周辺国を制圧し、にたりと嗤うドス黒い笑みが似合う帝王。
 そんな雄姿に憧れる者も多い。この騎士とてそんな一人だ。だから狼を溺愛するなとどいう変態じみたことを白昼堂々していても、眉をひそめこそすれ、誰も咎めなかった。

 感無量の面持ちで騎士は深く頭を下げる。

「もったいないお言葉です」

 ここから事態は一気に好転していく。



「ちょ……っ、やめろって、おいっ!」

 オルフェウスもやられっぱなしではない。イかされた後は、アンドリューも気持ち悦くしてやりたくて、そのズボンを引っ張る。
 温かな舌に布の上から舐め回され、アンドリューのモノはすぐにイキり勃った。

「やめろっ! やめ……っ! ぐぅ……っ!」

 アンドリューに飛びついて覆いかぶさり、耳や首筋、その胸の頂まで丹念に狼は舐めていく。 

「おま……っ、こんなこと、どこで覚えたっ?!」

 ……お前だ。

 アンタが教えたんだろうと、頭の中だけで突っ込む侍従や騎士達。

 ちゅくちゅくと尖らせた舌先を耳に捩じ込まれ、アンドリューが真っ赤に震えながら熱い吐息をもらした。

 ……僕がされて気持ち悦かったこと。陛下も気持ち悦いですか?

 漏れた吐息を拾うように唇を舐め、オルフェウスはアンドリューを悦ばせようと舌を絡める。それを貪るように受け入れ、アンドリューもまた、オルフェウスのモノを扱いた。
 甘い刺激に夢中になり、思わず皇帝の喉に牙をたてたオルフェウスは、赤く血の滲む己の歯型に恍惚とする。

 ……僕の歯型。……僕の印。

「悪戯っ子にはお仕置きだな?」

 真っ赤に上気した顔で舌舐めずりするアンドリュー。彼は久しぶりに玩具を持ち出し、ガチガチな狼の御立派様に捩じ込んだ。
 くちゅくちゅ音をたてて中をしつこく擦られ、ひゃんひゃん喘ぐオルフェウス。それでも負けじと、抱きしめるアンドリューの乳首を舐った。

「うお……っ、おま……ぇぇっ!!」

 悔しげに唇を噛み、眼をすがめて睨みつけるアンドリュー。その感じ入った姿の艶かしさ。如何にも気持ち悦いと伝え来る皇帝陛下の佳がり顔に興奮し、オルフェウスは硬くそそり勃つ彼の御立派様にむしゃぶりついた。

「はうっ! 駄目だ、だ……っ、う……くっ」

 顔を仰け反らせて喘ぐアンドリュー。駄目だと狼の頭を掴むその手は力なく、むしろ軽く押さえるように柔らかな体毛を掻き回すのみ。
 ピチャピチャと淫猥な水音が響き、アンドリューが耐えられないとばかりに前のめりで震えだす。
 
 ……ああ、これが欲しかった。これを打ち込んで掻き回されたい。気持ち悦い? ねぇ、陛下。

 オルフェウスが喉の奥まで呑み込むようにしゃぶってやると、アンドリューが頭を打ち振るって身悶えた。

「あっ! ん、うぅぅっ! は……、はな…せっ! 出るっ! 出るってぇぇーーっ!!」

 悲鳴のように叫び、アンドリューの一物が弾け飛んだ。四肢を硬直させ、びくびく震える愛しい人。
 その余韻を刺激するように舐め回してやれば、途切れ途切れにあがる小さな悲鳴が心地好い。
 出たモノを飲み干し、最後の一滴まで啜るように先端を抉じ開けると、アンドリューがひいひい呻いた。

「やめ……っ! 悦すぎるっ! 死ぬってぇっ!」

 はあはあ息を荒らげた彼の唇から滴る透明な糸。それを舐め取ってやりながら、オルフェウスは満足そうな顔でアンドリューを見上げた。

 ……気持ち悦かったですか? 陛下

 きゅるんっと見つめるつぶらな瞳。

 はーっ、はーっと忙しなく胸を上下させ、アンドリューは半開きの眼で疲れたかのように最愛を見下ろす。全身に噴き出した汗が肌を湿らせ心地好い。

「おま……っ、んく……っ、人が変わったな。狼になったせいか?」

 え? と、すっとんきょうな顔で首を傾げる狼様。

「悪くはねぇよ。こういうの嫌がってたじゃないか? 今は好きにでもなったのか? えらく積極的で」

 頭が傾くほどわしわし撫でられつつ、オルフェウスの顔は疑問符全開。

 ……ん? こういうの?

 本気で分からなさげな狼に破顔し、皇帝陛下は大笑いした。久方ぶりに聞く、彼の笑い声。それすら嬉しくて、無意識に尻尾を振りまくるオルフェウス。

 気づいて良さげな変化に気づかない、相変わらずなオルフェウスだが、今はその気持ちを尻尾が代弁してくれる。

 ……おまっ! 嬉しいのか? こういういやらしいことやって、嬉しいのかっ?! なんだ、その純粋な眼はーっ!! 垂れてるっ、俺のが口の端に残ってる……って、舐め取るなーっ!! 無意識なんだろうけど、幸せ過ぎて心臓が痛いぃぃーーーっ!!

 人生、何がどう転ぶか分からない。万事塞翁が馬。

 精彩を取り戻した皇帝陛下と、自らの想いを素直にぶつけることを覚えたオルフェウス。

 それの一部始終を見せつけられて、痛いくらい股間をおっ勃てさせられた周りの人々が一番の被害者だろう。

 こうして、絡まり捩れ縺れきっていた拗らせの恋心は、時間をかけた分、待ち切れないとばかりに、急速に開花していった。
 
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