淫獣の育て方 〜皇帝陛下は人目を憚らない〜

一 千之助

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 皇帝陛下は逃さない 7

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「……あの?」

「うん?」

 執務を終えたアンドリューは、長々と身体を伸ばしてオルフェウスの膝で寛ぐ。男性にしては柔らかな太腿。見るからに文系な青年だ。剣も握ったことはないのだろう。その身体は、どこもかしこも細く柔らかだった。

 穏やかすぎる毎日に疑心を募らせていくオルフェウス。

 その疑心の当人は、オルフェウスの膝に頭を乗せて細い腰を抱くように寝そべり、如何にも至福という顔をしている。

「……ずっと、こうしたかったんだ。良い匂いがするな、お前は」

 ……ずっと? ……散々、好き勝手していたくせに?

 しかし、すりっとお腹のあたりに頬を寄せられ、思わず身動ぐオルフェウス。
 しばらくいたしていないせいか、青年の身体は皇帝の一挙一動に過剰な反応を示していた。

 ……なんで。……くっ。

 無意識なのか悪戯なのか、尾骶骨を撫でるようなアンドリューの指の動きもあいまり、しだいに熱くなるオルフェウスの身体。
 愛しい婚約者との甘いひと時。満足気にすりすり頭を寄せる皇帝は、ふとオルフェウスの荒い息遣いに気づいた。
 微かに眉毛を寄せて、何かに耽るかのよう眼を伏せる可愛い獲物。この顔には覚えがある。

 焦らして遊んだ、あの日。

 悦いところには一切触らず、鳥の羽根や兎の毛の刷毛を使って、内股や首筋など柔らかな部分をこれでもかと擽ってやった日。

 両手を枷に繋ぎ、じわじわと湧き上がる快感に狼狽えたオルフェウスは、今のような顔をしていた。
 寝台で捩じ込まれたまま、ふるふる震えるか弱い獲物。
 すでに突き上げまくった後だったため、その余韻も手伝い、快感を欲しがるオルフェウスを、もどかしい愛撫でほろほろ泣きじゃくらせた、あの日。



『嫌じゃないのか? 俺に触られるのは嫌なんだろう? 違うのか?』

 深々と埋め込まれたアンドリューの猛りを、きゅんきゅん締め付け、オルフェウスは必死に触れて欲しがった。もっとしてくれと頭を打ち振るった。

『や……じゃない、……ぁっ! やじなゃいからぁ……っ、もっと…っ! ひうっ!』

 くるくると刷毛で臍を擽ってやれば、面白いように身悶える獲物。疼いて仕方がないのだと物語る上目遣いが、震えるほど心地好いアンドリュー。

『どこを触って欲しい? これで可愛がってやろう』

『ちが……っ、それじゃなく……ぅぅうっ?! んんんっ!!』

 さわさわと刷毛で乳首を擽った途端、ひゅっと息を呑み、オルフェウスが仰け反った。焦らされた反動で、堪らない愉悦が駆け巡ったらしい。
 だが、達するにはいたらない。ひくひく震える真っ赤な御立派様が、可哀想なくらい透明な汁を滴らせていてアンドリューの劣情を煽る。

『~~~~~っ! ……も、やだぁ……ぁ、うくっ、ぅぇぇ……ん、うぅ……ひう、……あっ?!』

 へにょりと弛緩し、焦らされ過ぎて本泣きし始めたオルフェウスが愛しくて愛しくて、アンドリューは玩具を放り出すと、彼が望むものを与えた。

『ひゃ……あっ! 悦いっ! あっ、陛下ぁぁっ!』

 ……この野郎っ! 惚れた弱みだ、許してやらぁっ!!

 忌々しげな顔で、ガンガン突き上げる皇帝陛下。

 もっと本気で欲しがるまで虐め抜くつもりだったのに、まさかの涙である。可愛い獲物に触れて欲しいと本気で泣かれたら男は堪らない。

 あっ、あっ、と幸せそうに蕩けたオルフェウスの艶姿にも劣情を刺激され、獲物を支配しようとしたはずなのに、なぜかアンドリューが支配された気になる。
 負けた感も半端なく、その日、許されたはずのオルフェウスは、佳がり泣きが本気の恐怖に染まるまで突き上げられ続けた。

『ひあっ! ひいいぃぃ……っ! こ、壊れ……っ! あーっ!!』

 快楽も過ぎればただの拷問だ。それを知るアンドリューによって、イきすぎて捩れるような腹痛に見舞われつつ、オルフェウスは気絶させられた。

 昏い征服感に満たされ、気絶した獲物に舌なめずりした、あの日。



「…………………」

 無言でアンドリューは指を動かす。

 さわさわと揉むように。尾骶骨あたりを執拗になぞり、そのすぐ下な蕾も尻たぶごと撫でてやった。
 すると大きく息を呑む音がし、細い肢体が固く強張る。小刻みな痙攣も起き、下から眺める皇帝陛下の視界で、愛しい婚約者の顔がみるみる真っ赤に染まっていった。
 
「……ふっ、………ん、んん、………んうっ?!」

 いつの間にか勃っていたらしいオルフェウスの一物。まだ柔らかいが、自己主張する確かな膨らみをアンドリューが鼻先で押しまくってやると、可愛らしい喘ぎが大きくなる。
 しだいに強度を増していくソレが愉しくて、皇帝はその膨らみにキスを落としたり、唇でついばんだり悪戯した。その度、跳ね上がるオルフェウスが可愛くて仕方ない。
 わざとされているのに気づいたのか、恨みがましい婚約者の眼差しが皇帝を睨みつけてくる。それに苦笑しつつ、アンドリューは舌までつかって、その膨らみを虐めた。

「あっ! あ……っ、も、もぉ……っ!」

 はあはあ蕩ける甘い喘ぎ。オルフェウスの両手を後ろ手に掴み、相変わらず腰を抱くように顔を押し付けてくるアンドリューの悪戯でオルフェウスは涙目である。
 無意識に開いていく彼の脚。その素直さに感動しつつ、皇帝は股間に顔を埋め、下穿きがびしょびしょになるくらい舐め回してやった。裏から舌をねっとりと這わせ棹を咥えたり、さらには布の上から先端を頬張ったり。

「ひぐっ! やめ……っ! んんんんっ!!」

 ぴちゃぴちゃと淫猥な水音が響く室内。そこにオルフェウスの喘ぎが漂い、先端をキツく吸い上げられた彼は、身体を前のめりにして硬直した。
 ぶるぶる震えるオルフェウスの股に、じわりと広がる温かな染み。
 それをうっとりと見つめ、アンドリューが至福の笑みを浮かべる。

「ふはっ! 触ってやっただけで勃つとか? 布越しだぞ? そんなに俺が欲しい? 触られただけで、気持ち悦いか?」

 身体を起こした皇帝は、その感触を愉しむかのように婚約者の股間を掴んだ。やわやわと巧みに動かされ、慣れた愛撫に再び熱く猛る御立派様。

「……可愛いすぎるわ。えっろ…… そんなんじゃ、抱きたくなっちまうだろうがっ!」

 ……えっ? とオルフェウスの眼が惚けた。

 それを無視したアンドリューが噛みつくように口づける。そしてオルフェウスにもう一度精を吐き出させると、いつもの鎖で彼を寝台に繋ぎ、皇帝は言葉もなく部屋から出ていった。

 ……抱きたくなる? のに…… 抱かない? なぜ?

 気づいても良さそうなものだが、気付かないあたりがオルフェウスだ。

 手を出さない皇帝。甘い調教。婚約者として常に側に侍らす執着。今だって、オルフェウスの発情を鎮めただけで、己の欲望を吐き出しはしなかった。

 ……アンドリューは、最初からやり直したかったのだ。

 婚約者との甘い語らいや、些細な交流を。本来育てるべきだった信頼や愛情を培いたかった。

 ……のに、淫らに躾けた獲物の反応に翻弄される。

 何気ない日常にまじる官能的な何か。

 ちょっとしたことでも発情してしまうオルフェウスに、アンドリューこそが狼狽えた。
 そのように調教してしまったのだ。自分が。ねちねちとしつっこいくらい虐め抜いて。

「……初夜まで保つかぁ……? 俺ぇぇ……っ!」

 夢見る男の恋は砂漠模様。束の間のオアシスに着地して、彼は雄叫びをあげた。

 抜かれて喘ぐオルフェウスの痴態をオカズに、一人シコって自家発電する皇帝がいたなどと、王宮の誰も知らない。

 自業自得の見本市を披露しながら、アンドリューは婚儀の日を指折り数えて待ちわびる。
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